第32話 合流と会議
さて困ったことになったぞ。
リンクスを秘密裏にエルフの森へと帰還させるはずだったんだが……
「で……どうしてこんな事になってるんです?」
俺の目の前には仁王立ちで腕組みをしているダートがいる。
仁王なのは立ち姿だけではなく表情もまさに仁王のそれだった……。
────翌日になり、急いで追いかけてきたダートは、俺たちを見て
そしてそのまま俺の耳を引っ張ってみんなから離すと、この状況についての説明を求めたわけだ。
とりあえず事情を説明すると、仁王だった
「それなら仕方がないですね」
ため息と共にそう口にしたのが俺には意外に思えた。
「えっ、怒んないの?」
「なんで怒るんです?」
「いやぁ、任務にはクールに無駄無く失敗しないようにって感じだったから」
少なくとも俺にはそう見えていたんだが。
「前もって想定して、準備をして、それがうまく行っていたから落ち着いて対処できていただけですよ」
「だったら俺が想定外の動きをしてしまったら、壊れちゃうだろ?」
「そうですね。──でも、想定外が起こらない保証はひとつもないんです。いちいちそこに腹を立てるより、修正していかなくちゃいけないだけで」
うーん。やっぱり落ち着いてるんだよなぁ。
「とりあえず、この状況どうしよう?」
「まぁ、見つかったのが知り合いだというのが不幸中の幸いだったと思いましょう……」
「面倒になってスマン」
「俺も仲間がピンチだったら、全て放り投げて助けにいきますからね」
俺の謝罪に対しても、罪悪感を和らげる一言をさらっと言ってのける。
「お前、本当に男前だな!」
「嬉しくないですね」
ひねくれてるのが難点だが……。
俺たちは一旦タマールさん達の所に戻って、こちらの状況も含めてある程度の事情を話すことにした。
信頼あるもの同士でも「黙ってて」とむやみに言われるより、その重要性を説いた方が効果的なものだ。
「──つまり、そこのお嬢ちゃんをヒーリング協会から足抜けさせるって事だな?」
モヒカンを揺らしながらゴードンさんが話をまとめる。
こんな雰囲気でわりとインテリなのが気にくわないが。
「はい、その為に彼女の死をでっち上げていますし、協会もそれを信じていると思います」
ダートが立てた計画だし、問題は無いとは思うのだが。
ゴードンさんも、ダート本人も難しい顔をしたままなにかを考え込んでいる。
「……ちと、マズい事になってるかも知れねぇな」
「ええ、俺としたことが」
二人だけで何か大変な状況を共有してるんだけど。
「うまく行ってるんじゃないのか?」
俺の言葉に二人の視線が冷ややかに注いだ。
そんな俺の肩に手を置く、炎の魔法を使っていたスキンヘッドのストレンジャー。
「ヘンリーさんは分かってる感じですか?」
「何でこんな場所にストーンゴーレムが出てきたかってことさ」
ため息をひとつ。
ヘンリーさんは俺に丁寧に状況を説明してくれる。
この人も見た目ほど荒ぶっていない。
「ストーンゴーレムは魔法生物だ、野生でうろつくモンスターじゃねぇ……ってことは誰かが、誰かを狙って作り出したってこった」
トーマスさんが補足説明をしてくれるが、いまいち状況が掴めない。
「皆さんが野党かなにかと勘違いされて、正義の味方に攻撃されたとか?」
「アホ! こんな時に冗談言う奴があるか!」
本気だったんですけど。
魚焼いている時に遠目で見たら、知り合いですらそう見えるほどだし。
しかし、違うとなるとどういうことだ?
ヒーリング協会はリンクスを死んだものとして扱っているから、攻撃を受ける訳がないし。
あの三人組も、ダートがしっかり手綱を握って街までつれていったわけだから、なにも出来るわけがないし。
「うーん。思い浮かばないなぁ」
俺は知恵を振り絞って考えてみたが、全く答えが見つからない。
振り絞るほどの知恵もほとんど入ってないんだが。
「どうやら俺は大きなミスを犯したようですね」
俺のシンキングタイムが終了したのを見計らって、ダートが口を開いた。
「あの三人組には、まだ仲間がいたってことです」
そうか、三人で行動していたからといって、三人だけの組織と言うわけではない。
彼らが失敗した場合に備えて、次の手を打ってくる可能性は大いにあるわけだ。
「で、オートリとそこの姉ちゃんが、俺たちと合流したと思い込んだ他の刺客が、ストーンゴーレムっていうけったいなモンをけしかけたって所だろ」
大体の話が繋がってきたぞ。
残念ながらリンクスをこのまま村に連れて行くだけで終わる話ではなくなったようだ。
俺たちはお互いの顔を見合わせて、一斉にため息をついた。
このままでは話が行き詰まりそうだったので、俺は話題を変えてみる。
「そういえば、ゴードンさん達はどこへ行く予定だったんですか?」
彼らだけであれば街の外をうろついているのも不思議ではないのだが、タマールさんまでが一緒となると話が変わってくる。
「なんでもフッカの街に資格試験を受けに行くんだとよ」
「資格試験?」
「この試験に合格できたら、相談窓口から卒業できるって言って張り切ってんだわ」
タマールさん相談窓口の業務を嫌々やってる感隠さないもんなぁ。
「で、俺たちはフッカまで行くが、兄ちゃん達ははどうするんだ?」
ゴードンが俺に振るが、正直俺には判断できない。
「どうする?」
そのまま質問を受け流してダートに丸投げした。
下手の考え休むに似たりってね。
「自分で考えないと、この先生きていけないですよ」
小言は口にするが結局しっかり考えてくれる。
「俺たちのホームは、同時にヒーリング協会のホームでもありますからね。一旦町から遠ざける為にも俺たちもフッカまで行くのが良いかもしれません」
口を開いたダートにゴードンが質問を投げ掛ける。
「しかし、一緒に動くとなるとこっちは大所帯だ。目立って仕方ねぇぜ」
「敵は俺たちがゴードンさん達と合流したと勘違いしてる訳です、だったらリンクスさんは別でフッカへ向かって貰った方が良いでしょうね」
そう言ったダートがこちらを向く。
「俺に護衛しろってこと? それならダートが適役じゃないのか?」
美人エルフと気ままな二人旅は惜しいが、一人で馬も乗れないし、いざというときの戦闘能力もない俺では頼りないと思うんだが……。
「目立つ幌馬車を進ませる訳ですから、きっと昨日の仲間が襲ってくるでしょうね。捕まえてどういうつもりなのかを吐かせるつもりですが……代わりにケンゴさんにお願いできますか?」
「はい、一足先にフッカへ行かせていただきます!」
俺は敬礼をして命令に服従した。
「なぁに心配するこたぁねぇ兄ちゃん、昨日は無様な姿を見せちまったが、来るとわかってる相手に負ける俺様ではねぇぜ!」
怪我から復活したトーマスさんが、その大きな手のひらで俺の背中を叩く。
何を食ったらそんなに大きくなるんだよ!
骨格なんて遺伝子だろ!
到底彼らのような立ち振舞いはできそうにないので。
にへらーっと笑顔を浮かべて彼らの言うとおりに従うことにしたのだった。
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