第30話 まさかの再会
叫び声がした方に体を捩ると、膝からリンクスが滑り落ちてしまったが、今はそれどころではない。
そのまま地面の石に頭をぶつけたが、起きる気配がないのもそれどころではない。
「今の悲鳴……さっきの野党のグループからだ!」
まぁ野党と決まったわけではないんだけど。
ガラが悪そうだったので、ちょっと敬遠したわけで。
とはいえ同じ人間。
何か危険が迫っているなら、助けるのもやぶさかではない。
などと、考えながらも足はそっちに向かっている。
「怖いけど、みすみす人が死ぬのを見過ごすことは出来ないよな」
ダートならどうしただろうか?
ここで厄介ごとに巻き込まれ、リンクスが生きていることが知られるリスクを冒すような真似はしないだろうが……
うーんうーんと考えている間に、現場まで到着してしまっている俺であった。
幌馬車が燃えている。
あちらこちらで響く怒号と、金属がぶつかる音。
戦っている……馬車の護衛だろうか?
もしかしたら俺が見かけた野党が、ここを通る幌馬車を襲ったのかもしれない。
だとしたら俺は人間と戦うことになるのか。
考えると身震いした。
とはいえさっきの叫び声を聞いて、黙って居るわけにもいかない。
俺は決死の覚悟で姿を隠しながら近づくと、オペレートウォーターで川の水を幌馬車へとかけて沈火させる。
同時に馬車の回りからは灯りが消え、こそこそ動くには良い環境になった。
「まだ、幌馬車に取り残されている人が居るかもしれない……とりあえず安全なところに避難させなくちゃ」
俺はそのままこそこそと馬車に近づく。
「誰か、居ますか?」
「ヒッ!」
恐怖に息を飲む声が聞こえる。
やはりまだ隠れている人が居た。
「静かに──今から安全なところまで移動します、ついてきてください」
俺はそう言って手探りで女性の手を取った。
手袋をはめているその手は小さく、守ってあげなければならないという使命感を沸き立たせる。
俺は半ば強引に女性の手を引き、近くの藪に引き込んだ。
「ここで隠れていてください──あと、良ければわかる限りの状況を教えてくれませんか?」
俺は暗闇の中、安心させるようにいつもよりトーンを落として話しかけた。
それが功をそうしたのか、握る手の力が抜けて、女の子が安心したのを感じることができた。
「急にストーンゴーレムの群れが襲って来たのにゃ、護衛のストレンジャーが応戦してるんにゃけど……」
「……ちょっと待ってください」
そこで俺は話を止めた。
背中に嫌な汗をかく。
「もしかして、タマールさんですか?」
「そ、そうにゃ」
沢山の疑問符が浮かんでくる訳だが。
「じゃぁその声はもしかして、全然仕事しないオートリにゃ?」
やはり速攻でバレた。
そして速攻で嫌みを言われた。
助けたのに!
命がけで仕事してるのに!
「ってことは戦ってるのは、相談窓口のストレンジャーですか?」
「そうにゃ! 早く助けに行ってほしいのにゃ、優秀な人材がいなくなってしまうのにゃ!」
優秀な人材ではない俺には、逃げろと言わないのですね。
とはいえあそこに居るのは、色々お世話になったり心配をかけている仲間でもある。
この人にバレてしまった以上、後に退く理由もない!
「タマールさんはここで隠れていてください。俺は行ってきます」
「給料はでないけど頑張るにゃ!」
声援を背中に受けて、俺は藪を飛び出す。
なんでだろう、涙が流れそうだよ。
そのまま闇の中を光と音を目指して走り、人の姿を認識できる所まで近づき、その状況をようやく把握した。
焚き火の灯りだけでなく、魔法の灯りが辺りを照らしており、数人の男が大きな影を取り囲んでいた。
影は身長4m程もある
その巨体は石で覆われており、かなり固そうに見える。
到底人間が太刀打ちできる相手には思えない。
「行くぞコラァ!」
モヒカンの男が手に持ったハンマーを、巨体の膝目掛けて振り抜いた。
砕けはしないものの、片ひざをつくゴーレム。
体制を崩したまま腕を振り、先程のモヒカンを薙ぎ払う。
間一髪、盾を持った仲間が間に割り込んだが、威力はとてつもなく、そのまま5m程吹き飛ばされていた。
「ファイアーボム!」
まだ立ち上がっていない巨体に、大きな光球がぶつかり派手な音を立てる。
「火は効きが悪いって言ってんだろ!」
「そうは言うけどよ、俺はこれしか使えねんだよ!」
こっちで喧嘩を始めようかという程怒声が飛び交う中に俺は乱入した。
「みなさん、ご無事ですか!」
「お前ぇは!」
心強い助っ人に、場の空気が緩んだ気がした。
「バカやろう、半端者が来てどうする! 帰んな!」
緩んだのは気のせいだったようだ。
「せっかく助けに来たんじゃないですか! なんなら戦いますよ!」
俺はゴーレムから少し離れていることを良いことに、調子に乗って魔法の印を結び始める。
「オペレートウォーター、浮遊、回転……発射!」
いつぞやのスライムを真っ二つにした水の刃をゴーレムへと向ける。
その刃は無音で敵にぶつかると、一発でその首をはね飛ばした
。
「うぉっなんじゃその魔法は!」
さっき炎の玉を打ち込んだストレンジャーにどや顔をして見せるが、まだ緊張感は抜けていない。
「バカやろう、まだ動くぞ!」
吹き飛ばされていたハンマー使いが叫んだ事で、俺は再びゴーレムの方に視線を移した。
片ひざをついたまま首もないのにこちらを補足し、腕を伸ばしてきた。
まだ距離は離れているが、その巨体から溢れる攻撃の意志がはっきりと伝わってくる。
「何を仕掛けてくるつもりだ……?」
その瞬間、その手首から先がものすごい勢いでこちらへ飛んできたのだ!
「ロケットのようなパンチ!」
解説する暇があったら避けろって、俺も思うけど、咄嗟の時になかなか体って動かないもんなんだよ。
幸い、魔法を使う際に広げていたステータスウィンドウがそれを塞いでくれた。
腕は粉々に砕けて辺りに勢い良く飛び散る。
「あんなもん生半可な結界じゃぁ防げねぇだろ! 兄ちゃん何もんだ!」
スキンヘッド炎の魔法使いに、もう一度どや顔をキメる。
今度はゴーレムの動きも視界にいれながら。
するとどうだろう、砕けて落ちた腕がごろごろと磁石のように引き寄せられ、もう一度腕の形を形成した。
頭も背中側を転がるように上って、それがあった場所に鎮座したことで、初見の状態と同じところまで戻ってしまった。
「えっ。反則では?」
「核を攻撃しないと何度でも蘇っちまうぞ!」
ハンマーを持つモヒカンストレンジャーが叫びながら、重い一撃を胴体にいれた事で赤い光を放つ物体が一瞬見えた。
「核だ!」
誰かが叫ぶが、その修復は早く、岩がすぐに隠してしまう。
追って飛んだ炎の魔法も石に防がれてしまった。
「こんなのどうすりゃぁ良いんだよ!」
絶望する炎の魔法使い。
しかし妙案を思い付いた俺は、本日三度目のどや顔をすべく、腰のウエストポーチに出を伸ばすのであった。
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