第27話 救出作戦

 そんなわけで最短距離でダートの家に寄って、今度は馬を用意して山へと向かう。


 馬になんか乗ったことがない俺にダートが話しかけてきた。

「俺たちはこのままエルフの隠れ里へ向かいます、長旅になると思うので、馬に慣れてください」


「──とはいえこれは無いだろう?」


 俺はサラシで荷物のように2匹目の馬の上にくくりつけられていた。

 自分で馬に乗れない、かといって彼の後ろに乗せてもらうのであれば、必然的に彼の体にしがみつくことになる。

 その思考回路の果てに俺は荷物扱いされている。


 もう彼から尊敬されていたなんて過去の幻影は捨て去ろう……。


「ううー、股間が痛ぇよぉー」

「変な声出さないでください。罪悪感が湧いちゃうじゃないですか」

「湧けぇー……罪悪感持てぇー」


 俺の恨み言を無視しながら、歩くよりは遥かに早く洞窟の入り口へと到着することが出来た。

 それでも俺の股間はかなりダメージを受けて、降りてしばらく痺れて違和感を感じるのだが。



「さぁ、ここからはケンゴさんの地図魔法の出番ですよ」


 俺をヨイショしているつもりだろうが、俺のジト目はまだ解除されないぞ。


 とはいえ、俺も最短距離でリンクスのいる場所へ到着したい。

 さっさとステータスメニューのアイコンから地図を選択し、表示する。

 ポップウィンドウになったものを左手で拡大させると、より見やすくなった。


 その仕草をこっそり真似ているダートだったが、うまく行かずに頭を捻ってため息を落とした。

 スマンなこれは魔法ではないんだ。



 というわけで、とにかく最短距離を進む。

 調査隊のように調査をしながら進む訳でもなく、マッピングをしながら進みもしないので、思ったよりもさくさくと攻略できた。


「もう着いたのか」

 2日目の昼頃には、あの縦穴まで戻ってきていた。


「丸一日……これならバンデットモドキが先回りして待ち伏せていてもおかしくない距離ですね」


 当初は一週間掛かる洞窟の奥だから、刺客もここまでは配置されていないだろうという油断があったが。

 最短距離で一日程度であれば、可能性は捨てるべきではなかっただろう。


 まぁ今となっては後の祭りだが。


「さぁ、急いで降りよう」

 縦穴の淵で何やら神妙な顔をしているダートに声をかける。

 彼だけ気付ける違和感でもあるのだろうか?


「……はい、急ぎましょう」

 目的を目の前にして、暗い声のダートに疑問を抱きはしたが、俺はとにかくリンクスのことが気になってしかたがない。


 ウィンドウからオペレートウオーターの魔法を選んで、水流操作する。

 水を浮かべる魔法を一筆書で発動すると、滝の水がひとつの球体になったので、そのまま俺たちはそれに飛び込んだ。

 水玉はそのままススーっと下降し、タイミングの良いところでその落下スピードを緩めた。


「ぷはぁ!」

 息を止めていた二人は、水玉を泳いで抜け出すと、下層の陸地に足を下ろした。


「後は……」

 オペレートウオーター、分離!

 俺たちの体や荷物に染みた水が分離して、一瞬で服が乾く。


「ケンゴさん、魔力の無駄遣いしないでください」

「え?」

「どうせ帰るときも濡れるんですから、松明だけ乾燥させれば良いじゃないですか」

「……まぁ、そういう考え方もあるな」


 俺の適当な返事に、ため息のダートはさておき、松明に火口箱から火をつける。

 これは炭を燃やして密閉した箱に入れておくもので、あまり長い時間放置すると消えるが、数時間であれば燻ってくれる。

 水にも強い優れものだ。


 辺りが明るくなったことで、リンクスを隠した洞窟の場所を見付けることが出来た。

 滝の轟音で聞こえないだろうと声は出さずに、その入り口の石を持ち上げてその辺に転がす。


 中からは声がしない。

 俺は流石に心配になって呼び掛けた。


「リンクスさん居ますか?」


「!!」

 息を飲む声が真っ暗な洞窟の奥から聞こえた気がする。


 生きている。

 俺は開いた入り口から手を突っ込み、壁を引き倒した。

 一人分入る隙間が出来たことで、松明を持って中に入り込んだ。


 ようやく照らされた洞窟内で、立ち上がったリンクスの顔は、憔悴しょうすいしていて。

 それでいて安堵と嬉しさに満ちていた。


「良かった、助けに来たよリンクスさん!」

 俺の言葉に弾かれるように走り出したリンクスは、狭い洞窟を一目散に走り寄ってきた。


「良かった、もう、心細くて……」

 今にも泣き出しそうにしながら、近づいてくる。

 彼女が両手を開き胸に飛び込んでくる!


 美人エルフとハグ……これは役得だろ

 俺もこの再会ににやけつつ、腕を広げて答え……


「ぐえっ!」

 鈍い音と共に、リンクスが仰け反った。

 そしてそのまま鼻面を押さえて仰向けに転がる。

「痛ったぁ!」


 ああっ!

 ステータス画面!

 地図ウィンドウが邪魔しやがってぇ!


 ダートの時は余裕があったが、今回は役得だとか早く抱き締めたいとか余計な感情が先走って、ウィンドウの事を忘れてた。

 くそう、やっぱりこいつムカつく。


「大丈夫かいリンクスさん!」

 俺はそれが自分のせいではないように振るまって手を伸ばす。

 心の中では謝ってるんだ、ホントだよ。


「す、すまない、みっともない所を見せてしまって……」

「いや、天井から延びてる鍾乳石にでも当たったんだろう」

「そんなものあったかな?」

「早くここから出よう、こんなところに居ても仕方ないぞ」


 俺は手早く彼女の腕を取ると、入ってきた出口にねじ込んだ。

 そして俺も洞窟の奥から、俺たちのリュックを探し当てるとその後を追う。


「二日前に松明の穂を濡らしてしまってな……そこからは暗闇生活だ」

 苦笑しながら苦悩を語ろうとするリンクスだったが。


「ここを出てからたっぷり話を聞きますよ」

 ダートのどこか緊張感のある声で遮られた。


「それもそうだな、流石に私も精神の限界だ」

 ここに居たくないという彼女の気持ちもあってか、ダートの言葉に素直に賛同したことで、俺は早速魔法で上へ向かっての水流を製作する。


「さぁリンクスさん、俺の手を取って」

 迷い無く、細くしなやかな手が俺の手を握る。

 そして彼女の足元ごと、滝の落下と反して水の柱が上方に伸び上がる。

 さして苦労もしない。

 やはり魔法は凄い!


 数秒で元の穴まで戻ると、俺たちはぴょんっと地面に飛び降りた。


「ここから落ちたときはどうなることかと思ったけど、なんとかなって良かったぜ」

 俺がほっと一息を付いた瞬間。


「危ない! 伏せて!」


 ダートの声が洞窟に反響する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る