第25話 いったん帰ろう
とりあえず地図の魔法で帰り道を選択してみる。
どうやら来た道は曲がりくねり、最短ルートとは言いがたい様子だ。
「来た道よりも、こっちの方が早そうだな」
俺は当然のように歩き始めようとするが、マントを掴んでダートが引っ張ったことで、首がしまってグェと変な声で鳴く羽目になってしまった。
「本当に、困りますねケンゴさんは」
「なんで近い方ダメなんだよ、帰るのに一週間くらい掛かるんだし短い方が良いに決まってるだろ?」
俺は首を
「良いですか? マッピングのスキルもないのに、彼らより先に戻ってたらそれだけで怪しいでしょうが!」
「迷ってない時点で怪しまれるんだから同じじゃないか?」
「幸い俺にはスカウトのスキルがあることは知られています、足跡を正確に辿ったと言えば問題はありませんし、洞窟から出るのも彼らと一緒の方がいい。リンクスさんが行方不明になったという状況を信じて貰いやすいはずです」
「ダートはいつも、そこまで考えて行動してるのか?」
「当然です! 身を守るためになら、いくらでも頭を使いますよ」
これがこの世界の熟練者というやつなのか。
俺にはまだ到底真似できない。
今からでもダートを先輩と呼んでも良いかもしれない。
────かくして俺達はそれから3日かけて足跡を追い、先に帰った調査隊へとたどり着いた。
もちろん岩場などの足跡だけで難しい部分は俺の地図を参考にしたが。
調査隊はB級トレマーズの力は凄いなと感心しきりだ。
俺も少しは誉めてくれよ。
活躍してるんだよ?
「しかし、嬢ちゃんは残念だったな」
護衛をしていたメンバーのうち、リーダーに当たるガレオというおっさんが話しかけてきた。
「ガレオさんってアンチヒーリング協会の人ではなかったですか?」
ちょっと皮肉も込めて俺が返すと、少しばつが悪そうにモジャモジャっとした頭をかきながら答える。
「流石になぁ……一週間も一緒にいれば情もわくってもんよ。それに、あの嬢ちゃんはお高くとまっているわけでも、ヒステリックに敵対してくるわけでもなかったからなぁ」
一般的な協会員とは違ったことで、彼らの見る目も少しは変わったのかもしれない。
「俺達は水の魔法があったから助かりましたが、リンクスさんはそのまま滝壺に真っ逆さまでしたからね……まず助かる見込みはないでしょうね」
ダートが横やりを入れてくる。
これ以上話してボロを出すなということなのか、ちょっと睨まれてしまった。
「まぁ地下水脈じゃ無理だろうな、息ができない場所もあるだろうし」
リーダーのガレオさんも、残念そうに頷いている。
「俺としては、このポーター料金を誰が支払ってくれるのかが不安ですけどね」
「お前あっさりしてるなぁ……まぁ協会に掛け合って……も難しいだろうな」
「でしょうね」
ダートとガレオの話はそこで一旦終わった様子で、少し離れた俺の元にダートが戻ってきた。
「結局この中に協会の息の掛かった人間は居なかったみたいだな」
俺が問いかけるとダートは頭の上下で肯定する。
「とは言え味方でもありません、彼女が生きている事は知られるわけには行きませんからね」
「ダートはクールだなぁ……」
残りの半分の行程もさっさと進んで俺達は洞窟を抜けることに成功した。
もちろん俺の使っているマップを使えばもっと早く抜けたんだけどね!
滝壺に荷物を落としてしまった俺達の食料は底を尽きかけていたので、本当にギリギリだった。
実際はリンクスに残してきたわけだし、日数も計算して持ってきたんだけど。
「今回の探索の報告をしに、私たちは一旦市内まで戻る。君たちはどうするかね?」
マッパーをしてくれていた研究員が俺達に向かって話しかけてきた。
実際のところ、わざわざ報告をしに行く場所もないのだが……
「私たちはヒーリング協会へと
ダートが淀み無く答え、彼らもその答えに納得したようだ。
「それでは、またの機会があればご一緒させていただこう」
そういって彼らは山を降り始める。
「兄ちゃん達、今回は運がなかったな。代わりに今度こういう仕事があったときは、是非兄ちゃん達の干物を買わせてくれ」
護衛隊のメンバーも別れを告げると後を追う。
二人だけ残された俺達は、とりあえず有言実行のために、ヒーリング協会を目指すことにした。
協会は街に最低ひとつはあって、情報網はしっかりしているらしい。
まぁ、ヒールを使えるものを取り締まっているのだから、どれだけ周囲に目を光らせているか、おして量れるということだ。
「気は進みませんが、敵情視察といったところですね」
発言の割に、
「リンクスさんを待たすのも悪いし、俺だけ回れ右って訳には……」
「ああ、それは考えていませんでした。行って貰っても良いですけど、一人でバンデットなんかに会わないでくださいね」
それがあったか……流石に戦闘なんてない世界から来た俺に、人間型の魔物を倒す度胸なんてない!
出会ったら即逃げるしかないだろうが……
「ついでに、あのバンデットモドキ見付けたら挨拶しといてください」
ダートでも、その攻撃を掻い潜られた強敵に、俺が敵う筈もない。
「すみません生意気なこと言いませんので、ついて行かせてください」
ダートは俺の返答に答えることなく、半日かかる山道を下り始めたのだった。
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