第23話 滝壺からの脱出
俺たちはひと塊になって滝壺を落ちて行った。
なんとなく滝壺と言えば深く
しかし、高さが100m以上ともなれば、叩きつけられた際の衝撃は、コンクリートに落下するのと殆ど同じなのだ。
死を
安易に下が水だから飛び込んでもOKとはいかない。
というわけで、俺は必死で
「二人とも! 俺にしっかり捕まってろ!」
そう言うと、体を
「うおぉぉおお!」
別に俺が頑張るわけではないが、なんとなく声を上げて、その壁に向かって手を伸ばした。
俺の手には、メールのサブウィンドウが開いている。
その端が岸壁にガリガリと擦れると、自然と体が岩に引き寄せられ、今度はメインウィンドウが岸壁にめり込む。
ガリガリと先程よりも大きな音を立て、ウインドウが縦穴の壁を削る。
俺のステータスウィンドウは俺の目の前30cm辺りに浮遊する性質があり、それは不可侵な異世界の産物。
とはいえこんな衝撃は始めてだ。
「頼む、堪えてくれよ!!」
俺の全身を受け止めるように、落下速度が落ちて行く。
同時にぶら下がっている二人からの重力も緩和され、何とか落ち着いてきた。
そのままガリガリ削りながら速度を落とし、俺たちは滝壺のある最下層へと到着した。
足がつくと同時に、安堵感で足の力が抜ける。
座り込むと滝壺の方から激しい水しぶきが暴風となって押し寄せてきた。
「今が水の……時期で……したね」
ダートが何かを言っているが、滝壺の轟音にかき消されて聞き取れない。
その様子に気付いたダートは、俺の方をポンポンと叩くと、指で移動する方向を示した。
俺とリンクスは頷くと、ダートのあとをついて横穴へと避難することにした。
「今が水の少ない時期で良かったですね」
雨季の前後などは水かさが増し、俺達が着地したフチの部分まで水が飲み込んでいて、そのまま俺達とは反対の横穴へとなだれ込んでいただろうということらしい。
「九死に一生を得たとは言え……ここから上がるのは無理だろうな」
俺はやれやれと、その場に座り込みながら上を見上げた。
滝壺は何層かのフロアを貫いており、下に行くにしたがって広くなっている。
つまり、ロープ等を垂らして貰ったとしても、垂直懸垂で上がらなければならない。
「この滝壺の音では、いくら叫んでも上の人間には声が届かないでしょうね」
当然のようにダートがそう言うが、それはかなり絶望的な状況を表していた。
「尤も、俺達が生きているなんてこれっぽっちも思っていないでしょうけどね」
「マジか……てかまぁそうだよな」
俺は項垂れつつ、リンクスの方を向いた。
彼女の顔はいつものしっかり落ち着いた表情ではなく、不安や恐怖に歪んでいるように見える。
「リンクスさん、大丈夫だから、出る方法を考えよう」
俺の慰めの言葉にリンクスが絶叫で反応する。
「ごめんなさい! 私が貴方達に声を掛けなければ、巻き添えになることなんて無かったのに!」
緑色のフードが飛沫に濡れて、金色の後ろ髪に張り付いている。
涙なのか水滴なのか分からないくらい顔を濡らして、わめき散らす。
「リンクスさん、落ち着いて!」
俺は彼女の肩を掴んで、目を見る。
後悔や申し訳なさでいっぱいなのだろう。
「大丈夫!──こうなることは、予想していたんだ」
錯乱状態の頭を現実に引き戻すのに時間がかかっているのが分かる。
「それは……どういう?」
「最後のバンデット、あれは人間ですよ。リンクスを殺すためにあの場所で襲ってきたんでしょうね」
俺の代わりにダートが説明を始める。
「全てはヒーリング協会の策略……いや、むしろ常套手段と言ったところでしょうか」
その後も、なぜリンクスが狙われたのかを説明し、それを黙って聞いていたリンクスだったが。
もはや顔をあげることすら出来なくなっていた。
「俺達は分かっててここに来たんだ。だからリンクスさんのせいって事は無いんだよ」
俺はずっと肩を掴んでいた手を優しく退ける。
支えを失ったリンクスは、そのまま俺の胸に倒れかかってきた。
そのまま彼女を受け止めようとしたが。
「あ痛っ!!」
リンクスは何かにぶつかって尻餅をついた。
そのまま泣き腫らした目で不思議そうにこちらを見ている。
俺は慟哭した。
ステータスウィンドウめぇ!!
美女が胸の中に飛び込んでくるとか、憧れのシチュエーションだろうがよぉ!
何でお前はこんな時に邪魔するんだ!
もちろん心の中でだが。
「リンクスさん、これはチャンスなんだ」
その隙にしゃがみこんだダートが彼女に手を伸ばす。
「チャンス?」
リンクスもその希望の言葉に反応したようだ。
「君はこの滝壺に落ちて死んだ。だったらもうヒーリング協会に命を狙われることも無くなるんじゃないか?」
「おい、ダートよ。それはこの洞窟を出てから考えることだろ。まずはそれがうまく行かねぇ事には……」
俺は正論を言ったつもりだが、ダートはあきれ顔でそれに応える。
「誰が上がれないって言いましたっけ?」
俺が言ったが、そういえばダートは言ってない。
「何か策があるのか!?」
その問いかけにも、ため息をつかれた。
何なんだよ勿体ぶってないで教えてくれよ!
「俺と、ケンゴさんの得意な魔法は何でしたっけ?」
「あ」
水の操作魔法。
しかもその元になる水ならいくらでもある。
「じゃぁすぐにでも!」
「本当に話を聴かない、考えない人ですね」
えっ、ダートさんってば、俺の事尊敬してるとか言ってませんでしたっけ?
敬語だけど言葉が辛辣ですよ?
「まだ食料には余裕があります、彼女の身の安全を確保してから、俺達二人だけで生還しましょう。それから改めて彼女をこっそり救出しに来るんですよ」
「な、なるほど……」
いや、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます