第18話 うまい商売などない
それから俺たちは果物を仕入れては、乾燥させる毎日を送っていた。
「思ったよりしんどいな……」
残念ながら無限に作れるというわけではなく、魔力が切れると
「商売にするには向かないですね」
ダートも向こうで包丁を使って果物の皮を剥いている。
実際には果物を購入し、それをある程度にカットしてから乾燥させるわけだが、魔力の限界による最大生産量と、仕入れ、人件費を
「これじゃぁ毎日へとへとになっても、日銭程度の売り上げになってしまうな」
最初に思い付いたときはかなり良い儲けになるかと考えたが、世の中そうもうまくはいかないらしい。
「スープの方は水と分離させやすいから、結構良い商売になりそうですよ」
一口大にカットされたフルーツを籠に載せてダートがやってくる。
確かに俺の考えた【味の元】は粉末ということもあり、商売の際に売るのもかさばらなくて助かる。
「まぁイメージが根付いたら、スープ一本に絞っても良いかもしれないね」
俺は今後の展開を考えながらも、乾燥果物を袋詰めしてゆく。
とはいえビニール袋やタッパーがあるわけでもないので、ある程度小分けにして通気性の良い麻の布袋にいれて口をひもで縛る感じだ。
ダートが魔力切れをしそうになって休んでいるのを横目に、俺は立ち上がって出掛ける準備をする。
「どこに行くんですか?」
寝転んだまま頭を捻ってこちらへ問いかけるダート。
こんな時にもフードは目深に被っているため、見えていなさそうなものだが。
「ん、ああ。ちょっと相談窓口に行ってくるよ」
このところ忙しくて顔を出していないが、別に仕事は強制ではないので定期的に行く必要もない。
ただ俺には少し実験してみたいことがあった。
「ははーん、タマールさんに会いに行くんすね?」
ダートは盛大な勘違いをしているらしい。
かろうじて見える口許がニヤニヤと歪んでいるのが腹立たしい。
「あの受付嬢は口が悪いから苦手だ」
「まぁた、そんなこと言ってぇ」
野次るように売り物にならない果物のヘタの部分等をピンピン飛ばしてくる。
お前、俺の事尊敬してるとか言ってなかったっけか?
「一度たりともあの猫娘に恋愛の感情など抱いてないぞ」
俺はきっぱりという。
初見だけはときめいた気もするが、それはもう忘れ去った過去だ!
「土下座して頭踏まれてる時ちょっと嬉しそうだったじゃないですかぁ」
「なっ!?」
断じてそんなことはない!
新しい扉は開き掛けたが、背中で必死に押さえて、二度と開かないように板を釘で打ち付けたからな!
というかよく見てやがるなこいつ。
俺は否定こそはしなかったが、話はこれまでと
それをまた観察していたであろうダートは、話題を方向転換してきた。
「それ何に使うんです?」
「ん、ああ。これか……」
俺が説明しあぐねいていると畳み掛けてくる。
「市場の雑貨屋に頼んでおいた瓶ですよね?」
「本当にお前は良く見ているよな」
少し呆れてしまう程だ。
中身がバレているなら、ここは話してしまっても良いかもしれないが……実験がうまく行くかもわからない。
「とりあえず、まだ秘密だ。今度なにかに使えそうだったら改めて見せるよ」
多少強引ではあったが、追従する質問が飛んでくる前に足早で部屋を飛び出す。
あとに残されるダートが、チェッとつまらなさそうな声を出したのを聞きながら俺は案内所へと向かった。
「誰にゃ?」
もちろん相談所に到着して開口一番にタマールさんに嫌味を言われた訳だが。
「たった3日来ないくらいで人の顔を忘れるなんて、受付嬢失格なのでは?」
俺も負けじと返す。
完全に目と目の間には火花が散っている。
そしてあろうことか目にも止まらぬ早さでネコパンチを繰り出してきた。
猫のパンチは100分の1秒で発動するそうだ。
もはや人間の反応速度では太刀打ちできるはずがない。
とはいえ、そのパンチは俺のステータスウインドウにぶつかり届かない。
「あらかじめ防御魔法を張っているにゃんて……いけ好かないにゃ」
「いや普通に暴力に訴えちゃダメでしょ」
猫は目を合わせると、喧嘩の合図らしい。
今度からは見つめ合うのはよそうかと思ったが、こちらから逸らすのも
というかその感情そのものが猫の喧嘩の原因みたいなものだけど。
「で、何を受けるにゃ?」
しれっと通常業務に戻るタマール。
「ああ、またスライムを少し狩ってくるとするよ」
「オートリにはお似合いの依頼にゃ」
「うるせ」
俺は出された板を奪うように受けとると、タマールさんの威嚇を背中に案内所を飛び出した。
なんかもう毎回こんな感じなんだけど。
嫌いかといわれると、そう嫌でもないんだよなぁ……
そうして一週間ほど、ダンジョンへ潜る準備を整える傍ら、実験や、商品作り等をして過ごしたのだった。
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