第12話 あいつ良い奴なのかよ!
翌朝、またもや早くから体を拭いていると声をかけられた。
「今日もお早いのですねオートリさん」
朝日より眩しい笑顔でエリーゼが挨拶をしてくれる。
金髪が朝日に透けて輝いて見えるからかもしれない。
考えてみればここに引っ越してきてはや一ヶ月が経とうとしている。
エリーゼはいつも優しいし、朝はアパートの表を箒で綺麗にしてくれるので、快適に過ごせている。
「おはようございます」
「もー、オートリさん堅苦しいなぁ」
箒を持ってクスッと笑う。
その仕草が少し大人びていて、15歳の女の子とは思えない雰囲気がある。
「この街にも慣れました?」
「はは、まだまだです」
主にあの市民相談窓口の雰囲気には慣れません。
「最近はあまりご質問などされないので、馴染んできたのかなと思っていたのですけど」
「すみません気を遣わせちゃって」
「気を遣うのが大家の仕事ですよ」
にっこりと笑って力こぶを作って見せてくる。
うん、可愛い。
「あ、それなら少し聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう?」
「エリーゼさんは魔法って使えます?」
少し首をひねってから答えてくれる。
「ええ、まぁ生活魔法はいくつか……」
「やっぱり魔法屋で買ったんですか?」
「あはは、まさか。私はおじいちゃんに教えて貰いましたよ」
はいきた、やっぱあのフード男。
いい加減なことを言いやがって。
「あ、でも身内だから特別にです。私からオートリさんには教えれませんよ」
少しすまなさそうにしながらエリーゼが言う。
なんでも魔法の伝授は金銭が伴って当たり前なので、その市場を守るためにも、法律で取り締まられているそうだ。
「私からおじいちゃんに銀貨を払っても、結局家計に入っちゃうわけなので、そこは暗黙の了解って事なんでしょうね」
まぁ、そうか。
確かに家族内でお金のやり取りをしても意味はないだろうしな。
「じゃぁどんな魔法を使えるの?」
「私が使えるのは……」
そういって竈の近くによると、手を顔の前の当たりで指を動かす。
すると残った薪に火が灯った。
さらにさっきとは違う指の動かしかたをすると、手から風が吹き始めた。
それはふいごの要領で炎をたちまち大きくしてゆく。
「良く使うのはこの二つです。風のは暑いときとかに自分に向けると結構涼しいんですよ」
あ、扇風機がわりか、それもいいなぁ。
色々使い勝手があるのなら小銀貨2枚も高く感じないかも。
「じゃぁさ、こないだ水の操作魔法を教えてくれるって人がいたんだけど」
「どういうものですか?」
質問に答えるように、ダートが言っていた魔法を説明する。
「ああ、それは便利そうな魔法ですね」
「それがさぁ大銀貨2枚って言うんだよ」
俺はため息と共に溢した。
15歳の女の子に愚痴っているのはみっともないが、誰かに聞いてほしかったんだよな。
「ええっ、大銀貨2枚ですか!」
「しかも買えって脅されてるんだ、全く嫌になるよ」
金額を聞いて驚くエリーゼ。
だってここの家賃の5ヶ月分だよ?
「ち、違います! なんでその人そんな金額で譲るんですか?」
「そりゃぁ、上前跳ねたいからじゃないの?」
「赤字も良いところですよ! 法律すれすれじゃないですか!」
「は?」
「きっと魔法の効力を申請するときに、いくつか隠して申請したんでしょうね。でないと、今聞いた限りではそんな金額で人に教えると捕まっちゃいます!」
ちょっと混乱してきた。
「じゃぁあいつは、俺にお得な魔法を教えてくれるってこと?」
エリーゼが力強く首を縦に振る。
マジか。
あの風貌で人を騙さない奴なんているのか?
いやむしろ最後の脅し文句は何なんだよ!
『くれぐれも俺の言った金額を他の連中に言うんじゃねぇぞ、俺にも立場ってもんがあるからな。あと、買うときは絶対俺から買わねぇと、後悔することになるぜ?』
あっ、はい。
今思い出すとちゃんと伝えてくれてましたね。
「わりぃ、俺ちょっと仕事に行ってくるわ」
急にバタバタと出掛けてゆく俺をエリーゼはポカーンとした表情で見送ってくれた。
すまんダートさん、いやダート様!
見た目で悪い人と思ってしまいました。
考えてみれば社会貢献度も俺より高いわけで、悪い人なわけがないですよね!
俺は窓口のドアを開けると、スライディング土下座をしながらダートとの魔法契約をお願いするのであった。
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