第11話 魔法教えてくれるってよ
魔法。
それはファンタジーの世界に許された不思議な術。
文明社会に置いては必要のないものだったかもしれないが、この世界では大きな力に等しいだろう。
「で、魔法の何を聞きたいんだ?」
目の前の男はCランク市民のダート・ランフィールドと名乗った。
その声は妙に高く十代ではないかと推測された。
体の線は細く筋肉質ではないようだが、体を覆うように着込んだ大きめのフード付き
そんな人間観察をしながらも、話を進めていく。
「俺の育った地方では、魔法自体が使われていなくて、どうすれば使えるのかもわからないんです」
かなり下手に出てみたが、ダートは即答はせずにフムと顎に手を当てる仕草をする。
そして、納得のいく回答を得たのか語り始めた。
「この世界の魔法の習得は二つ方法がある」
指を二本立てて意識を向ける。
「ひとつは精霊と対話しながら自分で編み出す方法だ。魔法で精霊に認められた上で、その力を分けて貰うらしいんだが、かなり魔法に精通してないと無理だ」
「そんなに難しいのですか」
少し焦って聞いてしまう、魔法に慣れた世界の人間ですら難しいのに、自分にそれが可能なのか。
「この方法はな。もうひとつは簡単だ」
「というと?」
「なぁに、知ってる奴に教えて貰えば良いんだよ」
俺は拍子抜けした。
「そんな簡単なこと……」
「でも、金は払わなくちゃいけない」
「まぁそれは確かに必要そうですね」
「魔法によって金額はマチマチだが、お前はどんな魔法を使いたいんだ?」
そう聞かれて悩む。
炎の球を飛ばして攻撃?
雷を降らせて感電?
氷の魔法で動きを止める?
うーんどれも捨てがたい。
そこでひとつ思い出した。
「以前この建物の前で当たり屋と揉めたんですが」
「ああ、あれか。見た見た」
そういってフードから見える歯だけが愉快そうに笑った。
「相手の方が怪我をして、それを回復させたんですけど、その時ヒール代を貰ってましたけど、あれってどういう仕組みなんですか?」
「……あれか」
さっきまで笑っていたダートさんが少し苦々しげに口にする。
「あれはヒーリング協会のモンだな。俺たちは急ぎで怪我を直すときには、基本的には協会へ行って回復をして貰うんだ。大掛かりなダンジョン攻略の時には最低一人は奴らを連れていく」
【奴ら】という呼称から、あまり良い印象を持っていないように聞こえる。
「だがな、回復は小銀貨1枚以上、協会員の貸し出しであれば一日大銀貨2枚と、ボッタクリも良いところなんだ」
モンスターが
それは儲けるだろうな。
他のファンタジーものでは、聖職者などと呼ばれて皆から敬われる対象であることが多いイメージだったが。
ダートからも軽蔑の気持ちを感じる。
「じゃぁ回復を覚えるのは難しいんですね」
「ああ、協会員になることを前提に、かなり高額のお布施を要求されるらしいぜ、たしか……大金貨1枚とか」
大金貨。つまり10万ヤーン。
1ヤーンが100円程度の価値だと思えば……1000万円くらいか。
所持金50ヤーンの俺としては頭がクラクラするような数字だ。
「まぁ俺は金があっても協会なんぞに入りたいとは思わないけどな」
吐き捨てるような口調でダートが言う。
結局はお金がないと治療は受けれない。
つまり貧乏人は死ねと言っているようなものだ。
そんな団体の一員には俺もなりたくない。
「わかりました、ヒールは諦めます。では初心者向きの魔法でダートさんのおすすめはありますか?」
その言葉を発したとき、ダートはニヤリと笑って見せた。
「俺が教えれる魔法で良いなら教えるぜ」
「それはありがたいです、どんな魔法なんですか?」
「そうだな水の操作魔法なんてどうだ」
詳しく話を聞くと、かなり便利そうだった。
水を雑菌などと分けることで、どこでも飲み水が作れたり、時間をかければ温度も変えれるらしい。
「それは良さそうですね! 早速お願いできますか?」
「ああ、じゃぁ大銀貨2枚だ」
「えっ?」
「タダで教えるわけないだろう、そのくらいの価値はある」
親切な人かと思ったらこっちもタカリかよ!
「お前がこの窓口で仕事をするんなら、ローンでもいいぜ。窓口を通せば稼ぎから天引きされる仕組みだってある」
フードから見えるのは口元だけだが、イヤに
「他にお手頃な魔法はありませんかね」
取り敢えずそんなぼったくられても困るわけで。
「まぁ着火用の小さな炎が出るものや、竈に風をおくる程度の小さな魔法だったら安く習得できるけどよ。ほしいかそんなもん?」
いや、それはそれで少し便利そうですけどね。
「だとしたらおいくらくらい……」
「俺は取ってないから教えられねぇが、生活魔法屋で小銀貨2枚くらいじゃねぇか?」
高っかい!
ライターくらいの炎が出せる魔法が、日本円で2万?
さっきの水の魔法がお得に思えてきた。
いや、いかんいかん!
こうやって罠に
「お金が絡むことなので一旦持ち帰りで……」
「おう、そうだな、いつでも言ってくれ。それと──」
そこで少し言葉を溜めて顔を近づけてきた。
「くれぐれも俺の言った金額を他の連中に言うんじゃねぇぞ、俺にも立場ってもんがあるからな。あと、買うときは絶対俺から買わねぇと、後悔することになるぜ?」
かなりドスの効いた声でそう告げられると、黙って頷くことしか出来なかった。
パンピーで魔法も使えない俺としては、こういうヤクザさんとかめっちゃ怖いんですよ、勘弁してください!
見た目で他の人たちより怖くなさそうとか思った俺の第一印象を返してくれ。
結局回復魔法の協会も
魔法を教えてくれる人も吹っ掛けてくるなんて。
「どんだけ
俺はそう叫びつつ、泣きべそをかきながら帰宅するのであった。
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