第10話 スライムどうやって倒す?

 俺は翌日から早速スライムの討伐に出てきていた。


 こいつらはじめじめしたところに住んでいることが多いらしく、湖の近くに来てみたら早速出くわしたのだ。


「スライムは動きこそ遅いが、酸性の体液が厄介」


 昨日トゲトゲーズに教えて貰った事をノートに書き込んである。


「なになに……その酸は強力で、スライムを剣で切ろうものなら、切った剣や鎧を錆びさせてしまうので相手にしたくない生き物ナンバーワン」


 どうやら返り血ならぬ、返り体液を浴びるだけでも大変なようだ。

 俺の一張羅も溶けてしまっては困る。

 全裸帰宅フラグなど2度も3度もいらないのだ。


「とりあえず、遠くから投石でどうだろう」


 言葉通り試してみる。

 スライムの柔らかい体に当たった石は、力を失うとコロリと転げた。


「スゴいクッション性能だな。じゃぁやっぱり弓矢とかその辺か」

 残念ながらそういったアイテムは持ってきていないので、スライムを狩るのは少し難しいかもしれない。


「じゃぁ、返り血浴びないところに上って大きめの石を落とすとか」


 実際に木に登って、下に来たスライムに石を落としてみると、見事に潰れてやっつけることが出来た。


 しかし討伐証明のための核までもが潰れてしまっていたので、これでは何匹倒そうとも依頼を達成できない。


「無駄死にすまん」

 取り敢えず手を合わせていると、足元に別のスライムが寄ってきていた。

 彼らには足音がないため、ゆっくりしか動かないのだが、気づいたら近くに居ることもあるらしく、まさにこれがそうだ。


「ひぃ、靴を舐めないでくれ!」


 俺がとびずさると、ゆっくりこちらに近づいてくる。

 やはり遅い。視界に入れておけば全く驚異ではないのだけど……


「無傷の退治方法がわからん!」


 何をやっても攻撃した武器が傷つくし、こん棒などで叩き潰したが最後、体液が四散し、鎧や洋服は使い物にならなくなるわけだ。

 かといって核を傷つけない攻撃で倒さなければならない。


 これは本当に厄介者だ。


 しばらく悩んだところでふと思い付いたことが。

「これだったらどうだろうか」


 俺はステータス画面の地図を表示させると、右手に移した。

 その画面の端っこのとがっている部分を、のそのそ歩くスライムにグリグリと押し当てた。


 グリグリグリグリ……プスッ。

 上手く先端が刺さると、空気の抜けた風船のように、ゆっくりと体液を吐き出しながらしぼんでゆく。


「おお。これなら腐食しないな」


 十分にしぼんだスライムをひっくり返すと、ビー玉のような核が現れる。

 これが討伐証明になるので、集めて持って帰ろう。



 それからは上手くメインウィンドウで返り血を避けながら、サブウインドウで穴を空けるを繰り返すだけの単純作業。


 しかし普通にやれば、武器の損耗そんもうなどで差し引き0になるような相手なのかもしれない。

 働き損なクエストを、にこにこしながら進めてくるタマールさんって、見た目によらず意地悪なのかも。

 あと、怒ったらすごく怖い。

 肉球の足の裏の感触は気持ち良かったけど……おっといかんいかん。


 結構な数の核が手に入ったので、一旦引き返すことに。

 その手には麻袋に入ったスライムの核がごろごろと入っている。

「今日はこれくらいで良いかな」


 元より、その日暮らせるだけの金が手に入ればまずは御の字なわけだ。

 あまり無理するより、定期的に狩れる美味しいクエストとして貼られ続けるくらいがちょうど良い。

 どうせ俺以外受けたがらないだろうしね。



 窓口ではタマールさんが俺が集めてきた核を数えている。


「だいぶ集めてきたのにゃ」

「はい、割とその辺に居るんですね」

「核を傷つけずに倒すとはいい腕にゃ。コツでも聞いたのにゃ?」


 昨日俺がBランクの先輩に話を聞いていたのを見てたのだろう。

 しかしコツというよりも、殆どはスライムに対する愚痴を聞かされていたような気がする。


 駆け出しの頃に親父に買って貰った剣をボロボロにして怒られた話や。

 確認せずに岩に座ったところ、スライムを踏んづけてしまい、お尻丸出しになってしまった話など。

「あるある!」

 と笑っていたところを見ると、言葉通りあるあるなんだろう。


 そのくらい身近で厄介な生き物らしい。


「コツは聞いてないですね」

「じゃぁ魔法でも使ったにゃ?」

「そっか魔法なら遠距離から核に傷つけずに倒せますね」

 目から鱗だ。

 前の世界では魔法なんてなかったから、とんと思い付かなかった。


「その反応じゃ魔法でもないのにゃ」

「はい……て言うか、魔法ってどうやって使うんですか?」


 俺の問いに、とことんあきれた顔でタマールさんがため息をつく。


「本気で言ってるのにゃ?」

「すみません南方の島国では魔法に頼らない生活をしていたので」


 タマールさんは瞳孔を縦に細めながら、視線を振った。猫っぽい!

 そしてちょいちょいとテーブル席の方へと手招きをした。招き猫だ!

 男が一人立ち上がり、カウンターへ寄ってくる。


「どうしたんすか姉さん」

「このバカちんに、魔法の事を教えてあげるのにゃ」

「えっ、そんなの姉さんがやってくださいよぉ」

「労働規定に含まれてない仕事なのにゃ」


 まぁ面倒なので押し付けると言うことだ。

 それを理解したのか、男は後ろ頭をボリボリと掻いてから承諾してくれた。


「新人、取り敢えずこっちゃこいや」

 粗暴な話し方とは裏腹に、他のモヒカンズ達よりはいくぶんか取っつきやすそうな男について行く。

 トゲトゲはついておらず、目深に被ったフード付きのマント。そこから出た腕には包帯が巻いてあり、中二病的な怪しい雰囲気を醸し出してはいる。


「ありがとうございます」

 俺は丁寧にお辞儀をして着席した。


 魔法の話。

 ファンタジーといえばこれだろう。

 ワクワクしてきた!

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