第2話ステータスウィンドウ
視界が開けた瞬間。
そこは異世……
ちりちりパーマにやたらでかい顔。
大阪のおばちゃんといったらこんな感じ、みたいなおばさんに至近距離でガン見されている。
「えっなんで?」
急な疑問符に対しておばさんは顔をしかめて俺を見る。
「何がよ」
「いや、何がでしょう?」
おばさんに凄まれても俺は混乱するばかり。
一旦落ち着いて把握しておこう。
俺は左手に紙袋を下げていて、右手にはタオルを持っておばさんに差し出しているところらしい。
って、どういう状況だ?
「あんたが引っ越しの挨拶回りに来たんでしょうが、急にキョトンとしちゃって……いやだよ、ご近所さんが変な子だなんて!」
「えっそうなん……そうでしたね。いや、緊張しちゃって、何をしゃべろうと思ってたのか忘れちゃって」
状況を理解して咄嗟に俺が照れ笑いを演出すると、おばさんは納得したのか笑顔で俺の肩を叩いた。
「なんだい、おばちゃん相手に緊張だなんて、そんなに若くも美人でもないよ!」
まさか「そうですよね」なんて言うわけにもいかず、にっこりと作り笑いを浮かべて、次があるのでと話を切り上げた。
「どういう設定だよこりゃ」
確かに異世界から引っ越しをしてきた訳だが、まず最初にエンカウントするのがパーマ頭のおばちゃんとは、物語の冒頭にしてはあるまじき状況だ。
希望を言うのであればモンスターに追われる姫を助けたり。
勇者パーティと出会って一緒に行動したり。
お隣が美人姉妹だったり。
そういうのがお約束だろうが!
……とは思ったが、ここは物語の中ではない。
俺が前に居た世界も結局は「現実」でしかなく、この世界でもオリジナルの俺と同じく、やりたくない仕事を終わらせて一人の部屋に戻って、安酒をあおるような人間でごった返しているわけだ。
現実世界でアイドルや芸能人と出会うよりも、姫との遭遇や勇者パーティ同行などはあり得ないぐらい低い確率だろう。
宝くじの一等よりも低いかもしれない。
そんな確率に当たるわけもなく、初手に出てきたのがおばちゃんなのは必然なのかもしれない。
おばちゃん程度なら、宝くじの下一桁程度の確率でエンカウントするわけだし。
うーんと
しかし、これといって設定らしきものすら思い出せない。
「あ、そうだ。ステータスウィンドウに何か情報は残ってないかな」
俺はこの世界で唯一、俺だけに許された特権を発動することにした。
「ステータスオープン」
目の前20センチ程度の所に、半透明のガラスの板のようなものが現れ、文字が浮かび上がった。
「ふむふむ、
早速情報を手に入れた。
チートではないと言われてはいたが、これはこれで便利なもんだ。
あいさつ回りをしていたわけだし、この近くなのは間違いないだろう。
ふと思い付いて、その住所を指で押してみた。
文字が光ると右手の平に小さなポップウィンドウが現れて、地図を示してくれる。
「うお、便利! さすが神様だよな」
俺はその地図を頼りに、自分の家を目指す。
思った通り近所で、さっきのおばさんの家の裏手にあたる部屋だった。
意気揚々と新居を目指してみたものの、そこは長屋のようになっていて、かなりボロい。
玄関は南京錠のようなもので止めてあるだけで、蹴破ろうと思えば簡単に壊せそうな
「しかし、鍵が無いんじゃ入れないぞ?」
ここでまた壁にぶち当たる。
ポケットを探ってもそれらしいものが見当たらない。
まさか自分の部屋にドアを蹴破って入るわけにもいかないし。
仕方ないので地図を消して、ステータスウィンドウを覗き込んだ。
画面を良く見ると、左下の方に何やら封筒のマークがありうっすら点滅していた。
「これは、メールかな?」
何の疑いもなくそのメールを指で押すと、地図の代わりに文章が表示される。
『ケンゴ君、取り急ぎステータスウィンドウを開けるようにしておいたよ。何も分からないだろうから、そちらでの生活基盤はある程度出来るように準備しておくつもりだ』
「ああ、これは神様からか」
考えれば彼以外がステータスウィンドウの事を知るよしもない。
「もう一通あるな」
『すまないケンゴ君。君の体を使って家を契約させるところまでは済ませたんだが、システムバグの対応のために君に時間を費やせなくなってしまった。手続きの途中だが君に体を返すよ。あとはなんとかやってくれ』
おいおい、俺の体って神様が勝手に使えるのかよ。
しかもおばさんに挨拶している途中で体を返してくるなよ、ちゃんとキリの良いところまでだな……。
と言っても俺は役所回りとか契約書ってのは苦手だし、面倒事を済ませてくれたってのはありがたいやな。
「とりあえずメールで鍵の場所を聞いておくか……」
俺はメールの返信ボタンを押して、その下に出てきたキーボードでその旨を書いて送信した。
『送信できませんでした』
何度送ろうとしてもダメ。
一方通行なのかよ!
もしかしたらこれもバグなのかもしれない。
急いでプログラムを組み立てたとか言ってたし、これくらいは仕方ないのか。
「さて、まだ日は高いし、家は見つけたし、この辺を散歩でもしてみるか」
俺は気楽にそう考えて、家の前から
「おっと、ステータスウィンドウはもう閉じて良いな」
目の前に浮かぶ半透明のウィンドウは、幅が40センチ高さが30センチくらいで、出したままにしておくとちょっと視界を遮って邪魔だったりする。
もちろん早速役に立ってくれたし、便利に使わせて貰うことにしよう。
「じゃぁ、ステータスクローズ」
なにも変化はない。
「ステータスウィンドウクローズ」
なにも変化はない。
「えっと……閉じろ!」
なにも変化はない。
ただ音も立てずにその場所にウィンドウが開き続けている。
その後も他の言葉に変えて叫んでみるも反応なし。
赤いバツマークがどこかに無いかを探すも、見つけることが出来ない。
押したり引いたり、踊ったり歌ったり。
どれも効果がなかった。
「何なんだよこれ、邪魔すぎる!」
完全に頭に血が上っている状態。
「ステータスクローズ! クローズ!! クローズって言ってんだろぉぉお!!」
ついには叫んだものの、やはり閉じる気配はない。
俺はハァハァと肩で息を切らしながら、顔をあげた。
半透明のウィンドウの向こう、長屋の角から半分だけ顔を出してこちらを伺っている先ほどのおばちゃんと目が合う。
それはもう殺人現場を見てしまった家政婦のような表情で俺を見ているわけで。
俺はもういたたまれなさすぎて、その場から走り去ってしまった。
きっと今日の夕方頃には「変なやつが引っ越してきた」と噂になっているに違いない。
完全に異世界デビュー初日で
◆◇◆作者からのお願い◆◇◆
分かりやすくキャッチコピーへ追い付きました☆
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