第1章 剣と魔法の世界
第2話 アウェイク
目を覚ますと、雲一つない蒼穹が目に飛び込んできた。
ーーここはどこだ……
身体を起こす。周りを見渡すと、木々が立ち並び、草花が生い茂っているようだ。近くに小川が流れており、水の音も聞こえる。俺は森の中で寝ていたらしい。
……何故?
ーー確か……純羽と一緒に下校していて……
思い出そうとするが、頭痛が酷くて考えがまとまらない。
ーーとりあえず、純羽を探すか…
痛む頭を押さえながら立ち上がる。
ーーあれ?鞄がない……スマホもないし……
制服のポケットには何も入っていないようだった。
「どういうことだよ……」
途方に暮れていると、遠くから微かに声が聞こえてきた。
ーー誰かいるのか?
声のした方に向かって歩く。
少し進むと拓けた場所に出た。そこには数人の男女がいた。
「よかった。君、無事だったんだね」
金髪翠眼の美少年が話しかけてくる。
「えっと……」
誰だ?
「僕は、ラインソール、ラインと呼んでくれ。よろしく」
「あぁ、よろしく」
とりあえず俺がそう言うと、彼はにこりと微笑む。
「私はアリスティアです。よろしくお願いします」
赤髪ロングの金色の目の少女が自己紹介をする。
「俺は、レオハートだ」
銀髪碧眼の少年がぶっきらぼうに言う。
三人とも奇抜な髪色と目色をしているが危ない人達ではなさそうだ。名前からして外国人なのだろう。日本人と遜色ない程に日本語が上手いからハーフかもしれない。
「俺は
少女──アリスティアの存在が引っかかった。
「タカツキコウキ……」
ラインと名乗った彼が、先程までの流暢な日本語からは考えられない程奇妙な発音とイントネーションで呟く。
「珍しい名前だね」
また流暢な日本語に戻った。
「そうだね……」
それに同意するようにアリスティアが首を縦に振る。
「そこまで珍しい名前でもないと思うんだが……」
「えっ!?そう……ですか……?」
アリスティアが怪訝な顔をする。
「まあそれはいいんだ。それより、『無事だったんだね』ってどういうことだ?」
「僕達が見つけた時タカツキは倒れていて、息はあるみたいだけど気絶しているみたいだったんだ。こんなところで気絶しているのは危険だから
名前だけ相変わらず妙な発音なのも、長い間気絶していたというのも気になるが、何より──
「……プロテクション?」
「ん?ああ僕は
パラディン?神聖魔法?まるで物語の中の剣と魔法の世界みたいな単語が飛び出して思わず笑ってしまう。
「何笑ってやがる」
レオハートの青い双眸にきつく睨みつけられてしまった。
「いや、魔法なんて言われたからからつい」
俺がそう言うと、彼は眉間にシワを寄せて不機嫌そうな表情を浮かべた。
「魔法なんて?ラインを馬鹿にしてるのか!?」
「馬鹿になんてしてない」
よく分からないが逆鱗に触れてしまったようだ。あわてて弁明する。
「じゃあ、何だって言うんだ!」
「魔法なんて実在するわけないだろ。ラインだって軽い冗談を言っただけだ。だからそんな怖い顔するなって」
俺は笑いながら答える。
すると、
「ふざけるなっ!!」
突然、大声で怒鳴られ、レオハートが拳を握りしめこちらに向かってくる。
殴られると思い咄嵯に身を縮こまらせる。だが、いつまで経っても衝撃は訪れなかった。恐る恐る目を開けてみると、目の前には白いローブを着た背中があった。
「レオ、落ち着いて」
「……すまない」
「謝るべきなのは私にではなく彼にだ」
「……悪かった」
謝罪の言葉を口にするも、その視線は依然として鋭いままだ。
「とはいえ、君も不可解なことを言っていたね。『魔法なんて実在するわけがない』だっかかな?」
「え?……そう言ったけど。まさか、魔法が本当にあるなんて言わないよな」
「ふむ、君は何か勘違いをしているようだ。いいかい?この世界に魔法が存在しないなんてことこそがあり得ない。現にこうして僕は魔法を使っているじゃないか」
ラインが右手を前に突き出すと、その手から光が溢れ出し、光の玉のようなものが形成されてゆく。
「……うそ……だろ……」
呆然と立ち尽くす俺の前で、ラインの手から放たれた光球が弾け飛び、眩しい光が辺りを照らし出した。
「これは
「……嘘……だ……ろ……」
無意識にもう一度呟いていた。疑う余地がない。認めざるを得ない。何の道具も使わずに、光が発生し不自然に集まって球を象り、一気に拡散する。こんなことができるとすれば、それは……
「……本当に、魔法なのか……」
「わかってくれたかい?それなら、先程の非礼を許してほしい」
「あ、ああ……」
「ありがとう。信じがたいことだが、タカツキは魔法を見たのが初めてのようだね?それで驚いてしまったんだろう。でも、これでわかっただろう?魔法はこの世に存在しているんだ」
「……」
言葉が出てこなかった。
それはつまり、
この世界は、15年間生きてきた世界──純羽と一緒にいた世界とは違うということだ。
ここは……異世界だ。
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