解放への道//警護

……………………


 ──解放への道//警護



 MAGによってシシーリアの暗殺が企てられていることはすぐにシシーリアに伝えられた。シシーリアは今も新たに加わった兵士たちを訓練している。


「私の暗殺ですか。久しぶりですね」


「随分と慣れているようですが、今回は恐らくMAGも本気ですよ。動員されているのは精鋭のウィッチハント部隊です」


「ええ。用心はしましょう。警備を強化します」


 ファティマが指摘するのにシシーリアが頷く。


「私たちも警備には参加しますよ。具体的な暗殺計画も既に入手していますので」


「では、インナーサークルと合同でお願いしますね」


 シシーリアはインナーサークルを動員し、さらにファティマたちが警護に付く。


「暗殺計画は少数の空中機動部隊を投入し、静かに殺すというもの。敵は正面切っての戦闘を想定していません。そして、今のシシーリアさんの位置を把握しています」


「ならば移動すればそれだけで計画は頓挫するのでは?」


「計画変更となると私たちが入手した情報が無意味になります。目標が変更されたり、k時期が変更されたりと、より対処しにくくなってしまいます」


「確かにそれは問題ですが、そうなると私は餌ですか?」


「餌にはしませんよ。確実に守り、MAGの精鋭を叩きます」


「分かりました。任せましょう」


 ファティマの説得にシシーリアが応じた。


「そろそろ敵の作戦が動き出したころですね」


「空中機動部隊をこの私たちの支配地域深部に送り込むつもりとは」


「ええ。しかし、相手は熱光学迷彩を備えたパワード・リフト輸送機を動員しているようです。静音性もあり、近づいてきても察知することはできません」


「それは面倒です。こちらも熱光学迷彩が使えれば便利なのですが」


 シシーリアが指揮する民衆たちからなる軍に魔術が使えるようなエリートはいない。その手の人材はフォー・ホースメンが主に独占しているのだ。


「インナーサークルもですか?」


「ええ。魔術が使えてもガンマ級低位魔術師程度です。私自身も魔術はさっぱりで」


「なるほど。敵はその点も利用するでしょうね」


 見えない敵から一方的に攻撃されるのは圧倒的に不利だ。


「サマエルちゃん。通信の方はどうですか?」


「まだ何も聞こえてこない。傍受されるのを想定しているのかも……?」


「確かにこれまでの作戦を分析すれば自分たちの通信が傍受されていると察知するでしょうね。面倒なことです」


 MAGはこれまで自分たちの通信をいいように妨害され、傍受され、そのせいで敗北していた。サマエルの存在こそ知らずとも、敵に強力な電子戦能力があるとは認識しているだろう。


「シシーリア。そろそろ地下のバンカーへ退避を」


「分かりました、イズラエル」


 イズラエルにも既に暗殺計画のことは相談されており、シシーリアに万が一のことがあれば彼がグリゴリ戦線の指導者になることまで決定していた。


「インナーサークルを展開させる。ファティマさんたちは彼らと協力して対処をお願いします。一部の部隊は直接シシーリアに付けます」


「了解です。始めましょう」


 そして、暫くの時間が経ったとき。


『ジャッカル・ゼロ・ワンより本部HQ。間もなく降下して部隊を展開させる』


本部HQ、了解』


 この通信をサマエルが傍受した。


「お姉さん! 敵か来たよ!」


「場所は分かりますか?」


「頑張ってみる」


 サマエルはウィッチハント部隊が通信を送受信した位置を確認しようとする。


「掴んだ……! そっちに情報を送ったよ、お姉さん!」


「ええ。いただきました。では、向かいましょう」


 ファティマたちはサマエルが特定したウィッチハント部隊が展開しようとしている場所に向けて進む。


 ファティマとサマエルはタイパン四輪駆動車で、インナーサークルはタイパン四輪駆動車とテクニカルで一気に向かう。その中にはあのシシーリアの狂信者であるクラウディアも含まれていた。


「まもなくです。しかし、敵が熱光学迷彩を使用しているならば面倒ですね」


「熱光学迷彩、剥がせるよ」


「本当ですか? では、お願いします!」


「うん」


 サマエルがファティマの指示を受けると周辺にいる敵部隊の熱光学迷彩を強引に引き剥がした。ウィッチハント部隊が展開しようとして高校のグラウンドだった場所にその姿が現れる。


 特殊作戦仕様のハミングバード汎用輸送機と1個小隊の敵歩兵だ。さらにアーマードスーツが4体という編成であった。


『クソ! 熱光学迷彩が無力化されたぞ!』


隠密ステルスは放棄だ。正面からやるぞ。アーマードスーツを前に出せ!』


 ここですぐさまウィッチハント部隊は作戦方針を変換し、正面からの攻撃とし、ファティマたちとの交戦を開始。


「やりますよ! “赤竜”!」


「交戦開始、交戦開始!」


 ファティマは“赤竜”を展開し、インナーサークルはテクニカルからの射撃を開始。


 HMG-50重機関銃からの射撃や他の重火器による射撃がウィッチハント部隊を襲う。


『テクニカルを潰せ!』


 しかし、ウィッチハント部隊もやられてばかりではなく、すぐさまアーマードスーツがテクニカルに向けて攻撃を行う。ロケット弾や対戦車ミサイルがテクニカルに叩き込まれては爆発炎上した。


 テクニカルは民生品のピックアップトラックに武装がマウントされただけであり、防御力は皆無。歩兵の小銃弾ですら脅威になってしまう。


「友軍を守らないとですね。クラウンシールドを展開させながら肉薄します!」


 ファティマはクラウンシールドでインナーサークルを守りながらウィッチハント部隊に向けて突撃。


『敵が接近している。排除しろ!』


『了解』


 そこでアーマードスーツと歩兵の狙いがファティマに向く。


「甘いです。効きませんよ!」


『防がれた、だと!?』


 ウィッチハント部隊から放たれた全ての銃弾と爆薬はファティマのクラウンシールドとエネルギーシールドによって防がれた。


「さあ、やります!」


 そして、肉薄したファティマが“赤竜”をアーマードスーツに突き立て一瞬で全てのアーマードスーツを撃破。さらに歩兵を狩り取っていく。


 スローモーデバイスも併用しているファティマにはウィッチハント部隊の動きが完全に読めており、相手を封殺していた。


「敵が怯んでいるぞ! 叩け、叩け!」


「シシーリア様万歳!」


 インナーサークルも一転して反撃に転じ、ウィッチハント部隊を猛烈に追い込む。


「しかし、例のリーア・エルザールという人がいないですね?」


 そう、ウィッチハント部隊には以前にもファティマたち苦しめたリーアがいなかった。ファティマはそのことで警戒をしていたが、今のところをこちらに気づかれずに忍び寄ってくる敵はいない。


「いつ彼女が現れてもいいようにこのまま殲滅していましょう」


 ファティマはそう言って攻撃を続ける。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る