解放への道//クーデター

……………………


 ──解放への道//クーデター



 その日、ゲヘナ軍政府支配地域内において動きがあった。


 クレイモア空中突撃旅団を始めとする統合特殊作戦コマンド隷下の部隊が指揮系統に反して行動を開始。ゲヘナ軍政府中央基地を始めとする各基地の封鎖を開始した。


『ムサシより全部隊。勝利のために貢献せよ。目標ターゲットはリスト通りだ。確実に排除せよ』


『了解』


 そして統合特殊作戦コマンドの作戦要員オペレーターたちが一斉に各基地に突入し、基地機能の制圧を開始した。


「な、なんだ!?」


「おい。ここで何を──」


 狼狽えるゲヘナ軍政府やそれと契約している民間軍事会社PMSCの兵士が呼び止めるのに作戦要員オペレーターたちはサプレッサーが装備されたMTAR-89自動小銃で射殺していく。


『ウィスキー・セブン司令基地制圧完了。抵抗は存在しない』


『潜伏していあt国家保安委員会の捜査官を排除した。予定通りだ』


『中央基地にて交戦中。最重要目標は未だ排除できず』


 作戦要員オペレーターたちは各地の基地──基地の中でも通信指揮に関する基地を制圧。さらに国家保安委員会の捜査官などを殺害していった。


 中央基地でも戦闘が起きている。


「撃て、撃て!」


「クソ! アーマードスーツだ!」


 中央基地で抵抗する兵士たちに統合特殊作戦コマンドの作戦要員オペレーターたちが無慈悲に攻撃を加えながら進んでいく。基地内には死体が転がり、彼らの目的がゲヘナ軍政府職員の殺害であることを示していた。


『アーマードスーツを前に出せ。そして制圧しろ。急げ、急げ』


『アーマードスーツはゴースト機を含めて前進せよ』


 中央基地の廊下をクレイモア空中突撃旅団の有するヘカトンケイル強襲重装殻が前進していた。アーマードスーツは銃弾を弾き、対戦車ロケット弾をアクティブA防護PシステムSが撃墜。


「と、投降する! 撃たないでくれ!」


 銃弾を撒き散らしながら迫りくる作戦要員オペレーターたちにゲヘナ軍政府の職員が投降しようとする。


 だが、作戦要員オペレーターたちはそれを射殺し、基地の制圧を続けた。


「上級大将閣下! こちらです! パワード・リフト輸送機が準備してあります!」


「クソ。何と言うことだ」


 クレイモア空中突撃旅団の襲撃を受けている中央基地からフリードリヒが脱出を急ぐ。既に基地のほとんどは制圧されており、フリードリヒが彼らに捕まるまでは時間の問題となっていた。


「屋上は確保されています! 上級大将閣下、こちらへ!」


「すぐに離陸させろ。そして、軌道エレベーターがあるアルファ・ゼロ基地に向かえ。特殊作戦コマンドが反乱を起こしたことを伝えなければならない」


「了解しています」


 フリードリヒたちが屋上に待機しているパワード・リフト輸送機を目指す。


「閣下! こちら──」


 部下がフリードリヒを案内しようとしたときその頭が吹き飛んだ。


「なっ!」


「気を付けろ! 敵がいるぞ! 投影型熱光学迷彩を使っている!」


 フリードリヒの護衛が次々に射殺され、フリードリヒは身を伏せて頭を抱えた。


『ムサシより全部隊。目標ターゲット視認。これより排除する』


 投影型熱光学迷彩を解除して現れたのは他ならぬクレイモア空中突撃旅団の司令官ルーカス・ウェストモーランドであった。


「ウェストモーランド准将! 貴様、何を──」


 フリードリヒの頭に銃弾が叩き込まれた。


目標ターゲット排除、だ」


 そしてルーカスがそう宣言する。


「これはルーカス・ウェストモーランド准将よりゲヘナ軍政府全部隊へ。軍政府長官、副長官の死亡を確認した。非常事態につきこれより俺がゲヘナ軍政府長官としての任を果たす。以上」


 ルーカスによるクーデターは成功した。


 ゲヘナ軍政府は彼の指揮下に入り、彼はゲヘナにおける軍事作戦の全てに干渉できる立場となった。これによってフリードリヒが前向きではなかった激しい攻撃作戦に着手できるようになるのだ。


 この知らせはファティマたちの耳にも入った。


「フリードリヒ・ヴォルフが我々のテロ攻撃によって死亡したそうだ」


「え? 誰がそんなことを?」


 ジェーンが報告するのにファティマが首を傾げる。


「私たちはやってない。やったのはルーカス・ウェストモーランド准将だ。奴がクーデターを起こしたらしい。アリスからの情報だ。さらにルーカスのバックには統合特殊作戦コマンド司令官のクリスティーナ・テヘーロ大将がいる」


「軍が党の意向に背いた、と」


「そういうことだな」


「妙な感じです。これから大事になりそうですね。クーデターを起こして手に入れたいほど今のゲヘナ軍政府長官という地位はおいしくないですから」


「確かにな。何か派手なことをやろうとしているのかもしれない」


 ファティマたちがそう推察したのは概ね当たりだった。


「デモン・レギオンに対する大規模反転攻勢を実行する」


 ルーカスはエデンからの増援を待たずに自分たちの戦力だけで攻撃に出ることにした。動員されたのはゲヘナに存在する全てのエデン統合軍及び民間軍事会社PMSCの部隊を動員した攻勢だ。


「この作戦によって反政府勢力デモン・レギオンに打撃を与える。我らに勝利を」


「勝利を」


 ルーカスがエデンからの援軍を待たずに攻勢に踏み切ったのには理由がある。


 MAGの精鋭ウィッチハント部隊がデモン・レギオンの幹部暗殺を計画していることを知ったからだ。MAGは契約獲得のためにこの任務を請け負っていた。


 MAGはこれまで機密維持のため汚職軍人の多いゲヘナ軍政府に情報を伏せていることがあったが、MAGも今の状況は悪いと判断したのか、ルーカスに情報を伝えていた。


 しかし、MAGの情報はルーカスたちとは無関係な場所から漏洩していた。


「アリスがMAGの連中から情報を手に入れた」


「MAGからですか。アリスさんはどのようにしてそれを?」


「ゲヘナ軍政府高官からエデン統合軍のMAGとの契約を担当している将校に行きついた。今のアリスはゲヘナ軍政府もMAGの情報も手に入る」


「それはよいことです。それで情報というのは?」


「MAGは私たちの暗殺を計画している。動員されるのはウィッチハント部隊だ」


「暗殺ですか。目標は?」


「不明。私たちの幹部ということしかわかっていない」


「情報がもっと必要ですね」


「ああ。それでアリスからの情報だがインディゴ・ファイブ情報基地で作戦の内容は管理されているらしい。侵入できれば情報は手に入るだろう」


「了解。では、援軍を求めて忍び込みましょう」


「誰を頼る?」


「キャスパリーグさん、そしてグレースさん。密輸のためのネットワークとバーゲスト・アサルトを借ります」


 ジェーンの問いにファティマがそう言ったのだった。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る