解放への道//ヴリトラ・ガーディアンズ

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 ──解放への道//ヴリトラ・ガーディアンズ



 ファティマたちはタイパン四輪駆動車でヴリトラ・ガーディアンズに指定されたエンパイアキャッスル・ホテルへと向かった。


 指定された中立地帯がどうして中立地帯なのかと言えば、やはりテリオン粒子による汚染である。この付近には急性中毒を引き起こすレベルのテリオン粒子のホットスポットが存在しているのだ。


「テリオン粒子汚染には気を付けてください。私はもうあまり関係なさそうですが」


 ファティマが自虐的にそう言い、タイパン四輪駆動車は目的地に着いた。


 目的のホテルのは廃墟には数名の武装した兵士がいる。CQB近接戦闘仕様のCR-47自動小銃を持ち、強化外骨格エグゾを装備していた。


「止まれ」


 その兵士たちがファティマたちを止める。


「デモン・レギオンのものです。あなた方はヴリトラ・ガーディアンズの?」


「そうだ。生体認証を」


「了解」


 ファティマは歩哨の生体認証を受けるとホテルの中に案内された。


「ここだ」


 そして、ファティマたちは廃墟内の一室に通される。


「初めまして、だな。あんたがデモン・レギオンの?」


「ええ。ファティマ・アルハザードです。あなたはカイラ・クマールさん?」


 ファティマたちを出迎えたのは長身で赤毛を長く伸ばした女性だ。人種はインド系。


 年齢は20台ほどだが恐らくはナノマシンによる生物医学処置の結果。099式強化外骨格を身に着けて、MTAR-89自動小銃を装備していた。


「そう。あたしがカイラ・クマールだ。よろしくな、ファティマ」


 この女性こそがヴリトラ・ガーディアンズの最高経営責任者CEOであるカイラ・クマールであった。


「カイラさん。我々としては同じ敵を有しているものと認識しています。ゲヘナ軍政府、そしてエデン社会主義党、エリュシオンというものをあなたも敵に回している。手を組む気はありませんか?」


「あたしたちは勝ち馬に乗りたいだけだ。今はゲヘナ軍政府が落ち目だからそれを叩いている。だが、ゲヘナ軍政府と敵対することはエデン社会主義党との敵対を意味しない」


「それはおかしいのでは?」


「掴んだ情報によればエデン社会主義党は意図的にゲヘナ軍政府への支援を妨害している。見捨てるつもりなのさ。だから、ゲヘナ軍政府と喧嘩しても、エデン社会主義党からは許されるかもしれない」


 そう、エデン社会主義党はにゲヘナ軍政府の無能を責めたて、間接的にトロイカの一角であるドミトリーを攻撃しようとしている人間がいる。レナトとアデルだ。


 ゲヘナ軍政府と敵対してもそれら2名とは敵対しない可能性もあった。


「では、どうすれば手を結んでもらえますか?」


「あたしたちは勝ち馬に乗りたい。勝つ人間の味方をすることで生き残りたい。つまり、。あんたらが勝つならばあたしらはあんたの味方をする。それだけだ」


 ファティマの問いにカイラが試すようにそう言った。


「なるほど。では、お約束しましょう。勝利できると。さらに言えばゲヘナ軍政府と敵対しながら蝙蝠を決め込むとデモン・レギオンまで敵に回すことになりますよ。それでもよろしいですか?」


「なるほど。そう来たか。確かにその通りだろうな」


 ファティマの指摘にカイラが肩をすくめてから頷く。


「しかし、デモン・レギオンはゲヘナ軍政府とどんぱちやってるが、実際問題としてどこまでやるつもりなんだ?」


「当然エデン社会主義党の打倒とエデンの征服。そして、エリュシオンをも征服します。それがデモン・レギオンの目的です」


「イカれてるぜ」


 ファティマの言葉にカイラが呆れたようにそう言った。


「だが、エデン社会主義党を本当に打倒できるならばこっちとしても得られるものは大きい。うちはもう政治的にエデン社会主義党とは切れてるんでね。民間軍事会社PMSCとしても失敗している」


「エデン社会主義党を打倒した暁にはそれ相応の見返りはありますよ」


「その手の口約束は信頼できないが、あんたらのやってることは信頼できる。ゲヘナ軍政府を相手に派手にドンパチ。いいだろう。あたしらも加わってやる」


 カイラがそう承諾。


「ただし、見返りを忘れるなよ。あたしらは傭兵だ。ただ働きはしない」


「もちろんです。これからどうぞよろしくお願いします、カイラさん」


「ああ。よろしくな」


 こうしてカイラが率いるヴリトラ・ガーディアンズがデモン・レギオンに合流。


「これからの活動方針についてですが」


「ゲヘナ軍政府を相手にドンパチするさ。あんたらから要請があればそっちの仕事もするが基本的にこっちは自主的に動くものと思っていてくれ」


「生物化学兵器を使用した、と聞きましたけど」


「何か文句でも? エデン社会主義党の連中もルールなんて守ってない。こっちが律儀に守る義理はない」


「そうですか」


 カイラがそう言い放つのにファティマはただ頷いた。


「じゃあ、始めようか」


 それからヴリトラ・ガーディアンズによるゲヘナ軍政府を相手にした大規模な攻撃が開始された。


 ヴリトラ・ガーディアンズはデモン・レギオンから武器弾薬を得て、それを使って暴れまわった。MAGの車列コンボイを襲撃し、ジェリコの物資集積基地を襲撃し、ゲヘナ軍政府の施設をドローンで爆撃。


 ヴリトラ・ガーディアンズは手段を選ばずあらゆる手段を使って敵を攻撃した。その中では化学兵器や民間人を使った人間爆弾なども含まれていた。


 それによってゲヘナ軍政府も反撃に手段を選ばなくなっていく。


 激しい攻撃が激しい報復を呼び、次第にヴリトラ・ガーディアンズ以外のデモン・レギオンに加わった組織も無差別攻撃を仕掛けるようになった。


「全く、何ということだ!」


 エスカレートしていく報復の連鎖の中でゲヘナ軍政府長官のフリードリヒ・ヴォルフ上級大将は呻いていた。


「お互いにやりたい放題にやっている。報復合戦はエスカレートしていくばかりだ! なんというこいとだろうか! 我々の側も核兵器N生物兵器B化学兵器Cを大規模に使うことになるぞ」


 参謀たちを前にフリードリヒがそう言い、いらいらした様子見せる。


「閣下。統合特殊作戦コマンドからクレイモア空中突撃旅団を始めとする特殊作戦部隊を一時的に我々ゲヘナ軍政府の指揮下から外すとのことです。再編成の必要があるとのことで」


「そうか。分かった。ウェストモーランド准将走っているのだな?」


「はい、閣下」


「なら、問題はない。問題はどうやってこのクソみたいは報復合戦を追わせるかだ」


 フリードリヒは参謀たちから意見を聞きながら、MAGを始めとする民間軍事会社PMSCとも連携しつつ、デモン・レギオンの攻撃に対処しようとした。


 しかし、デモン・レギオンの攻撃は止まらず、ゲヘナ軍政府は支配地域を瞬く間に失っていった。当初の半分以下にまで既に支配地域は減少している。


 遅滞戦闘も上手くいかず、犠牲ばかりが出る。


 そして、それは起きた。


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