ゲヘナ・リボルト//ゲヘナ軍政府

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 ──ゲヘナ・リボルト//ゲヘナ軍政府



 ゲヘナ軍政府は今やデモン・レギオンとの配信者戦争という戦争状態にあった。


「MAGとジェリコの部隊は増援が派遣される。それなりの規模だ」


 フリードリヒがゲヘナ軍政府の将校たちに告げる。


「では、反転攻勢を?」


 そう尋ねるのはクレイモア空中突撃旅団の司令官ルーカス・ウェストモーランド准将だ。彼はゲヘナの住民に対して厳しい態度で臨むことで知られている。


「いいや。今は攻撃は行わない。我々が恐れるべきは敵がさらに勢力を増すことだ。グリゴリ戦線にはいいようにしてやってしまった。こちらか攻撃を仕掛けることで住民に副次的損害が生じれば、敵に利するも同然だ」


 フリードリヒは今になってようやく気づいたのである。住民に被害が出る無理やりな対反乱作戦COINは反乱勢力の勢いを加速させるだけで、それに似合った効果が上げられないということを。


「よって、守りを固める。本当に充分な戦力が結集するまではこのまま守勢に立つ」


「それでは主導権は得られない。主導権は戦うことによってのみ得られる。我々が攻撃に出ない限り、ゲヘナの反政府勢力は増長し、我々は追い込まれることになる!」


「敵の勢力が増しても同じだ! 反転攻勢は現時点では行わない。以上」


 ルーカスの意見をフリードリヒは却下した。


「その上で防衛計画を考える。想定しているのはこの防衛線での敵の攻撃の阻止だ。今保有しているMAGとジェリコを中核とした部隊を配置する」


 フリードリヒはそう言って説明を続ける。


「それから十分な戦力が結集次第、適切で無駄な犠牲のない戦いによって反政府勢力──デモン・レギオンを撃退し、反転攻勢に転じる」


「クレイモア空中突撃旅団はもうすぐにでも動けるのですが」


「ルーカス・ウェストモーランド准将。クレイモア空中突撃旅団だけで戦争はできない。戦争はチームプレイだ。ひとりだけでやろうとするのではない。よろしいかね?」


 ルーカスは自分の意見を却下されて不満げに唸った。


「慎重にやろう、諸君。正直に言ってエデンはゲヘナでの戦争を自分たちの権力争いにしか使っていない」


 ゲヘナ軍政府がそうやって戦力を準備させつつある中、デモン・レギオンの側も戦争を推し進めるための準備を進めようとしていた。


「兵士がもっと欲しいですね」


 そういうのはグリゴリ戦線のシシーリアだ。


「まだまだ不足なものばかりですね」


 そして、デモン・レギオンの指導者ファティマは拡張現実AR上の地図に記された部隊の配置と数を見てそう言ったのだった。


「勝利の知らせを広く広げれば問題は解決するでしょう。ゲヘナの住民の戦いへの意欲は向上し、ゲヘナ軍政府の士気は低下する」


「そうなると宣伝できそうな大々的な勝利が必要ですね」


 シシーリアが分析するのにファティマがそう言う。


「象徴的な基地を落とすというのも策のひとつの手ではあるでしょうね。ゲヘナの誰もが知っている圧政の象徴を落とすのです」


「そうなるとヤンキー・ゼロ航空基地ですかね。ゲヘナ軍政府が所有する大規模な航空作戦基地。ここを落とせばゲヘナ軍政府が明らかにその力を失墜させたことがゲヘナの住民たちにも分かるでしょう」


「いいですね。そうしましょう」


 そして、ヤンキー・ゼロ航空基地攻撃が決定される。


 決定から攻撃までは速い。


 既にフォー・ホースメンの精鋭であるバーゲスト・アサルトとソドムの精鋭であるイェニチェリ大隊が加わっているのだ。それに膨大な数のグリゴリ戦線の将兵も。


 ヤンキー・ゼロ航空基地はこれまでゲヘナの住民にとって自分たちを虐げるゲヘナ軍政府の象徴のような都市であった。


 それが落ちた。僅かに数時間の戦闘位で。


「ヴォルフ上級大将閣下!」


 この知らせがゲヘナ軍政府長官のフリードリヒの下に届く。


「ヤンキー・ゼロ航空基地が陥落しました! デモン・レギオンの攻撃です!」


「まさか。基地の警備は何をしていた!?」


「わ、分かりません!」


 ゲヘナ軍政府はひたすらに混乱。


 ヤンキー・ゼロ航空基地が落ちたことでゲヘナ軍政府は航空支援が困難になり、空中機動部隊を展開させるのも難しくなった。


「ヤンキー・ゼロ航空基地が落ちたぞ!」


「ゲヘナ軍政府は本当に戦争に負けてるんだな……」


 この勝利の知らせは広く広められ、ゲヘナの住民たちは時代の流れがついに変わったのだと悟った。


 グリゴリ戦線には一般市民の志願兵が集まり、フォー・ホースメンには寝返ったゲヘナ軍政府の汚職軍人や民間軍事会社PMSCのコントラクターたちが集まる。


 このデモン・レギオンの勝利は当然ながらエデン社会主義党内での権力争いを加速させた。アデルは連日ドミトリーとゼレール元帥を批判し続け、ドミトリーもアデルを無責任だと批判している。


 それによってエデン社会主義党が混乱している状況の中でフリードリヒも満足に動くことができず、ただただ守備だけを命じてデモン・レギオンを刺激しないようにと命令し続けたのだった。


 この様子を良く思わない人間もいた。


「状況は最悪だ」


 エデン統合軍の基地のひとつブラックフラッグ基地にてそう言うのは、エデン統合軍統合特殊作戦コマンド司令官であるクリスティーナ・テヘーロ陸軍中将であった。


「エデン社会主義党は最悪の選択肢を選んだ。戦争を政争の具にすると言う愚かしすぎる選択だ。戦争は軍人が行うべきものであり、権力争いしか知らない政治家は軍人の言うことに口出しすべきでない」


「同意します。エデン社会主義党は間違っています」


 クリスティーナの言うことに納得したのはクレイモア空中突撃旅団の司令官ルーカスだ。クレイモア空中突撃旅団はエデン統合軍特殊作戦コマンドの下に入っていた。


「ああ。このままではゲヘナによるエデン侵攻もあり得る。それだけは避けなければならないのだ。ゲヘナの住民ならばいくら死んでもい構わないが、エデンの住民はそういうわけにはいかない」


「しかし、ではどのようにするのおつもりか?」


「エデン社会主義党は蛮族に屈したローマ帝国と同じ道を歩み続けつつある。それを止めるには劇物を使うしかない」


「まさか」


「クーデターだ、准将」


 ルーカスが言うのにクリスティーナがそう言った。


「それは……」


「では、このままエデン社会主義党の無能どもを野放しにし、お前の部下が失われてもいいと言うのか?」


「ですが」


「まずゲヘナ軍政府の無能を排除する。フリードリヒ・ヴォルフだ。この男は必要ない。お前が殺せ、ルーカス。それからゲヘナ軍政府はエデン社会主義党ではなく、我々統合特殊作戦コマンドの指揮で動く」


「それで本当に勝利できるというならば、そうしましょう」


 ルーカスはクリスティーナにそう言った。


「ああ。勝利できるさ。できるとも」


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