ゲヘナ・リボルト//エデン国家保安委員会

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 ──ゲヘナ・リボルト//エデン国家保安委員会



 エデン国家保安委員会はエデンにおける秘密警察だ。


 エデン社会主義党による一党独裁体制を支えるための組織であり、その捜査官たちは党員たちはもちろんとして軍人や同じ国家保安委員会のメンバーすらもその監視の対象としていた。


「シー議長。アデル・ダルラン様がおいでです」


「通せ」


 接客ボットが告げるのにアジア系の小柄な男が指示を出す。


 この男が国家保安委員会議長にして上級大将シー・ヤンだ。


「シー議長。状況は極めて悪い」


 アデルは開口一番にそう言った。


「ゲヘナは落ちるかもしれない。ゲヘナ軍政府はもはやろくに機能していない」


「そのようですな。となると、どうなるかという分析をしてあります」


「ふむ。大幅な生活必需品の不足や食料の枯渇、そして社会機能の停止、か」


「ええ」


 シーが部下に命じて纏めさせた資料にアデルが唸る。


「エデンはエデン社会主義党の党幹部が親族人事をし続けた結果、もはや貴族化しています。そのため今のエデンに生産能力はないに等しく、そのほとんどをゲヘナの労働力に依存でいるのです」


「そして、そのゲヘナが陥落しようとしている、か」


「我々は大きな工場を失うことになります」


 アデルの言葉にシーがそう言う。


「ゲヘナの治安回復をしなければならない。しかし、今までのようなやり方ではよりゲヘナの反感は大きくなり、結果として次の反乱勢力を育てることになるだけ。ゲヘナの懐柔というのも視野に入れる必要がある」


「そのことには党幹部が反対するでしょう。党幹部の多くは利権を握っています。決して他者にそれを渡さないようにするはずです」


「長く党員であっただけの無能はもはや害でしかない。排除する必要がある」


 シーが言い、アデルがそう返す。


「党幹部だけでなく軍も説得する必要があります。国防大臣であるギャスパー・ゼレール元帥はしっかりと軍を握っており、今の民間軍事会社PMSCとの間にある利権も握っています」


「軍の契約を民間軍事会社PMSCに発行する代わりにリベートを受け取るという利権か。どうにかして暴けないのだろうか?」


「今のところは不可能です。向こうも用心しています」


 汚職の証拠を掴めばそれを暴露することによってゼレール元帥を失脚させて、さらにはそれと繋がりがあるドミトリーを失脚させることもできるだろう。


 しかし、ゼレール元帥もまたエデンの重鎮だ。国家保安委員会には注意している。


「だが、ゲヘナの戦況が危うくなればドミトリーたちも尻尾を出すかもしれない。ゲヘナが落ちれば軍は責任を追及され、ゼレール元帥は不味い立場になる。ドミトリーは彼を切り捨てようとして不仲が生じる可能性もある」


「ええ。監視を続けましょう。我々の秩序のために」


「頼む、シー議長。あなたが頼りだ」


 そして、国家保安委員会は党幹部たちの軍の監視を行う。


 国家保安委員会の捜査官たちは政治将校という地位で軍の中にいる他、密かに身分を隠して潜入している。エデン社会主義党はかねてから軍の反乱を恐れていたのだ。


 そして、さらには民間軍事会社PMSCの中にも捜査官はいる。


 MAGにも、ジェリコにも。


「党幹部たちを監視しろ。それからゲヘナにも捜査官を潜入させるのだ」


 シーが命じる。


 このような動きがあったとき、トロイカ体制を成すひとりレナト・ファリナッチもまた動いていた。だが、彼の場合は陰謀ではなく、失態の弁明だった。


「ハーバート・ゴールドスタイン閣下。で、ですので、テリオン粒子の汚染濃度が広域に拡大しているのが確認されました」


 アセンションセンター・ワン。


 エデンのさらに高みにあるエリュシオンへと続く軌道エレベーターがあるセクターにてレナトはモニターを前に額に浮かぶ汗をぬぐっていた。


 モニターにはユダヤ系で年配の男性がじっとレナトを見ている。


『どうして報告が今になったのだろうか? データによれば確認されたのは1か月以上前からだ。説明を』


 レナトの言葉にモニターの男──ハーバートがそう尋ねた。


「これまで何十年も異常はなかったのです。何も起きるはずがないということで監視体制も緩んでおり、その結果として、その……」


『原因について心当たりは?』


「いえ。何も……」


 レナトが答えるのにハーバートがため息を吐く。


『最悪を考えなければならない。旧世界が滅んだ時と同じことが起きた、と』


「それはつまり」


『そう、終焉の獣が戻ったと想定する。あれは一時的に排除されたに過ぎない。いずれまた戻ってくるはずだったのだ』


 ハーバートはそう言うと暫し黙り込んだ。


『引き続き情報収集を。その上でエリュシオンに対策を考える』


「畏まりました」


 レナトはそう言ってハーバートに頭を下げた。


 レナトがそのような弁明を行っているときもうひとり失態に対する弁明に追われている人間がいた。


 MAGの最高経営責任者CEOソロモン・アンドロポフだ。


「諸君。我らがエデン社会主義党はここ最近の敗北を懸念している」


 ソロモンは取締役会のメンバーを見渡してそう言った。


「MAGのは敗北はエデンの敗北。我々の敗北によってゲヘナにおける統治が揺らいでいる。由々しきことだ。エデン社会主義党もそのことを案じている」


「エデン社会主義党はいかがせよと?」


 ソロモンの発言に取締役会のメンバーが尋ねる。


「党は昨日の党大会にてゲヘナに出現した反エデン・エリュシオンを掲げるテロ組織デモン・レギオンの壊滅を以てして勝利とするとした」


 そうソロモンは告げた。


「デモン・レギオンについての情報収集を始めると同時に、同組織の幹部暗殺を試みる。作戦には既に動員済みの部隊を使用する。ウィッチハント部隊だ」


「了解」


 ウィッチハント部隊がファティマたちデモン・レギオンの幹部暗殺に動員される。


「我々の敵は多い。ゲヘナにも、エデンにも」


 MAGは後発のジェリコやラザロにも脅かされる立場にあった。そしてもちろん民間軍事会社PMSCの規制を考えるアデルたちもまた敵である。


「我々はこの戦争を生き延びなければならない。党もそう望んでいる」


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