絶好の強盗日和//クレイモア空中突撃旅団

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 ──絶好の強盗日和//クレイモア空中突撃旅団



「クレイモア空中突撃旅団は現在我々の物資集積基地のひとつを攻撃中。そこには先に鹵獲した生物化学兵器が保存されています」


 シシーリアがそう説明した。


「間違いなく生物化学兵器が狙いでしょうね」


「リスクがあることは理解していましたが、あまりの行動が早かったです」


「クレイモア空中突撃旅団から個人的な恨みを買っていたりしませんよね?」


「ゲヘナ軍政府から大きく恨みを買っていますよ」


 ファティマの問いにシシーリアがそう答えるとシシーリアたいを乗せたタイパン四輪駆動車がグリゴリ戦線支配地域の道路を駆け抜け、そして物資集積基地に滑り込んだ。


「シシーリア様!」


「状況は?」


「敵は現在弾薬庫を占拠しており、奪還のために部隊を送り込んでいます!」


「分かりました。その攻撃に参加します。案内してください」


「了解!」


 シシーリアはグリゴリ先生の兵士に案内されてクレイモア空中突撃旅団が占領している場所へと向けて前進を開始した。


「迫撃砲!」


 途中クレイモア空中突撃旅団の迫撃砲の砲撃などを受けながらも、ファティマたちは無事に攻撃に参加する部隊と合流。


「あなた方が攻撃に参加する部隊ですね?」


「ええ。そうです、シシーリア様!」


「では、ともに行きましょう」


 シシーリアたちはCR-47自動小銃とSRAT-140携行対戦車ロケットぐらいしか歩兵の装備はなく、重装備はテクニカルのみという攻撃部隊と合流を果たした。


「自爆ドローンが敵の迫撃砲を潰しました!」


「よろしい! 突撃開始だ!」


  小型で旧式のドローンに手榴弾を下げただけのそれが突撃してクレイモア空中突撃旅団の迫撃砲を叩き、それからすぐにグリゴリ戦線が突撃を開始。


「ウラアアアア──!」


 事前の攻撃準備射撃などはなく、テクニカルと歩兵が突撃していく。


 クレイモア空中突撃旅団は機関銃やグレネード弾でそれを粉砕しようとし、テクニカルが爆発したり、軽装過ぎる歩兵が薙ぎ倒されたりなどする。


『アッティラ・ゼロ・ワンより各機。近接C航空A支援S要請が出ている。前線航空管制官FACの指示に従って目標を攻撃せよ』


『了解』


 上空援護機として待機してたバルチャー攻撃機4機が飛来し、地上に向けて機関砲とロケット弾を浴びせてた。


「助け──」


「畜生、畜生!」


 グリゴリ戦線の将兵が吹き飛ばされ、敵を撃ち落とそうとグリゴリ戦線の兵士たちが様々な火力をバルチャー攻撃機に向けるが重装甲のそれには通じない。


「ここはお任せを。“赤竜”!」


 ここでファティマが“赤竜”を展開し、バルチャー攻撃機に差し向けた。


『何だ、あ──』


 その正体を見極める余裕もなく4機のバルチャー攻撃機の乗員はその機体の爆発炎上によって死亡した。


「流石です、ファティマさん! 進め! 勝利を我々に!」


「勝利を!」


 グリゴリ戦線の兵士たちが突撃を続ける。


 いくら機関銃などで薙ぎ倒されようと構わずグリゴリ戦線の将兵は突撃した。


『ムサシよりバイパー・ゼロ・ワン。目標ターゲットの無力化は成功したか?』


『バイパー・ゼロ・ワンよりムサシ。もう少しです』


『急げ。グリゴリ戦線のクソどもが押し寄せている』


 クレイモア空中突撃旅団の通信がそう流れる。


「進め、進め! 死を恐れるな!」


「ゲヘナ軍政府の犬を殺せ! 犬の死体を吊るしてやれ!」


 人海戦術で波状攻撃を仕掛けてくるグリゴリ戦線にクレイモア空中突撃旅団も押され始めていた。既に迫撃砲を喪失し、上空援護機も撃墜されている。クレイモア空中突撃旅団とて無数の兵士に延々と攻められれば窮地となる。


「敵のパワード・リフト輸送機だ!」


「撃ち落とせ!」


 弾薬庫にパワード・リフト輸送機が迫るのにグリゴリ戦線のテクニカルからHMG-50重機関銃が火を噴き、パワード・リフト輸送機を撃墜しようとした。


 しかし、読みが甘かった。


 ハミングバード汎用輸送機の他にファントム無人攻撃機が接近していることに彼らは気づかなかったのだ。ファントム無人攻撃機はテクニカルを相次いで爆撃し、テクニカルはほぼ壊滅状態となった。


「クソ。逃げられるぞ!」


「逃がすな! 追え! そして殺せ!」


 クレイモア空中突撃旅団の将兵がハミングバード汎用輸送機に乗り込んでいくのをグリゴリ戦線の兵士たちが追いかける。


『ムサシより各員。ここでの任務は終了した。撤退する』


 だが、追いつくことはかなわず、ハミングバード汎用輸送機は飛び去った。


「シシーリアさん。敵が生物化学兵器を爆破する可能性もあります。警戒してください。防護マスクなどは?」


「あります。着用を命じましょう」


 ファティマが警告を発し、シシーリアが防護マスクを付けるように命じる。


 それからゆっくりと慎重にファティマたちは弾薬庫にある生物化学兵器の所在を確認しに向かった。


「これは……無力化されていますね」


「そのようです。ナノマシンを使った中和措置の痕跡がありますよ」


 シシーリアが破壊された生物化学兵器の容器を見て呟くのにファティマがどうやって生物化学兵器が無力化されたかを言い当てた。


「全ての生物化学兵器が無力化されてしまったようですね。大丈夫でしょうか?」


「報復を考えるのであれば大丈夫ではないでしょう。ですが、実を言うとこれで全てというわけではないのです」


「どういうことですか?」


 シシーリアがどこか余裕をもって言うのにファティマが怪訝そうに首を傾げた。


「抑止力は完全に機能すると相手に思わせ、そういう仕組みを確立してこそ意味があります。旧世界において核兵器の発射プラットフォームは何十もの防衛手段で防護されてきました」


 そうシシーリアは説明する。


「我々も確実な報復攻撃セカンドストライクを実現するために生物化学兵器の所在を分散させたのですよ」


「なるほど。確かに合理的かと」


 シシーリアが取った行動にファティマは納得した。


「しかし、我々の側から生物化学兵器をこれからも保有し、使用する姿勢を見せるのはあまりよくありませんね。処理しましょう」


「発射プラットフォームがなければ攻撃目標も限られますしね」


 核兵器N生物兵器B化学兵器Cといった兵器は巡航ミサイルや弾道ミサイルといったプラットフォームが必要になってくる。しかし、グリゴリ戦線がそのようなものを持っているはずもない。


「ただ、処理するのは負債でしかなくなりますが、これを転売すれば利益になります」


「ほう。フォー・ホースメンにでも売却を?」


「いいえ。ソドムが購入の意志を示しています。そちらへ売却を」


 生物化学兵器を求めていたのはどういうわけかソドムであった。


「分かりました。私の仕事ビズはどうなります?」


「取引の護衛を追加の仕事ビズとしてお願いしたいのですが」


「了解です」


 そして、ファティマたちはシシーリアから次の仕事ビズを受けた。


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