ラッキーストライク作戦//脱出

……………………


 ──ラッキーストライク作戦//脱出



「可能な限りの準備をして迎え撃つ。エキドナ、あなたは爆弾のところへ。ワームが爆弾を扱うのを支援して」


「了解」


 グレースが指示を出し、爆弾担当のエキドナが電子励起爆薬の下へ向かう。


「私たちは屋上に向かう。敵の空中機動部隊を撃退する」


「やりましょう」


 ファティマたちはグレースの指示でウィスキー・ナイナー基地の屋上を目指した。基地施設内にいるのは混乱しており、非武装の司令部要員と基地機能の保守要員だけだ。


「基地の防空システムを使えるでしょうか?」


「いや。無理だろう。俺たちがレーダーの類を完全に破壊した。地対空ミサイルSAMの類は使用不能になっている。対空火砲AAAなら手動で動かせるかもしれないが当てるのは難しいだろう」


「帰りのことを考えるとそれでよかったとは思います。基地の防空システムが使えないならば、私とサマエルちゃんでどうにかしますからご安心を」


「ふむ。お前のことは噂には聞いている。強力な魔術師だと」


「ええ。信頼してください」


 訝しむウォッチャーにファティマがそう返して、グレースに続く。


 屋上に続く階段を駆け上り、何の抵抗もないままファティマたちは屋上に出た。


「レーダー連動式の高射機関砲がありますが、明らかに機能不全ですね」


友軍誤射ブルー・オン・ブルー防止のために焼き切ったってところね」


 屋上にあった口径40ミリ高射機関砲はどれも黒い煙を上げている。


「ファティマ。お願いできる?」


「ええ。お任せください。“赤竜”!」


 ファティマが十本の宙に浮かぶ赤いエネルギーブレードを展開。


「サマエルちゃん。敵の位置情報は分かりますか?」


「頑張ってみるよ。待っててね」


 ファティマが“赤竜”を周囲で回転させながら尋ねるとサマエルがMAGのC4ISTARに介入してウィスキー・ナイナー基地に接近中の空中機動部隊の位置情報を掴む。


『マジックカーペット・ゼロ・ワンから全機。ジャミングの影響のせいか通信状態が悪化している。レーザー通信に切り替えろ』


『了解』


 そして、接近中のMAG空中機動部隊を把握した。


 ハミングバード汎用輸送機18機と上空援護機としてバルチャー攻撃機4機、ヘカトンケイル強襲重装殻8体とドーマウス空挺戦車2両。


「お姉さん。敵の位置を掴んだよ。そっちに情報を送ったけど届いたかな……?」


「ええ。ばっちりです。やりますよ!」


 ファティマが“赤竜”の刃を飛ばした。


 十本の赤いエネルギーブレードが空を駆け抜け、MAG空中機動部隊に迫る。


『マジックカーペット・ゼロ・スリーとりマジックカーペット・ゼロ・ワン。何か接近している。地対空ミサイルSAMの可能性あり!』


『まさか。警報装置は何も反応してないぞ?』


 僚機からの報告に指揮官機が困惑している。


「見えてきた。あれか……」


 ウォッチャーが装備しているタクティカルゴーグルの映像をズームして、ウィスキー・ナイナー基地に接近中の複数の航空機を見つけた。


『クソ! マジかよ!? マジックカーペット・ゼロ・ワンより各機! 地対空ミサイルSAMらしきもの接近! 回避機動──』


 空が炎に染まった。


『何が起きた!? おい、誰かが報告──』


本部HQ本部HQ! 友軍機多数が攻撃を受け墜落した! おい、本部HQ! 通信に応答せよ!』


 “赤竜”が次から次にパワード・リフト輸送機や攻撃機に襲い掛かる。ハミングバード汎用輸送機は爆発炎上し、中にいる兵員ごと炎に包まれて落ち、バルチャー攻撃機の弾薬が盛大に誘爆して巨大な火の玉となった。


「こいつは……」


「そのまま殲滅して、ファティマ」


 ウォッチャーが唸り、グレースが無感情にそう言う。


「了解です!」


 ファティマは“赤竜”の刃を踊らせ、MAGの空中機動部隊を殲滅する。


『クソ! 助け──』


 そして、最後のハミングバード汎用輸送機の反重力エンジンが貫かれて爆発。ドーマウス空挺戦車と乗っていたMAGのコントラクターたちとともに地上へと落ちた。


「片付いたみたいね」


「ええ。敵は全滅です」


 接近中だったMAGの空中機動部隊は1名たりともウィスキー・ナイナー基地に到達することはなかった。


『少佐。ワームから爆薬を引き継いだ。いつでも起爆できるぞ』


「了解。そっちに合流する。警備はほぼ全滅。だけど、念のため爆弾はそう簡単に解除できないようにできる?」


『もちろん。あたいに任せてくれ』


 エキドナも無事ワームから電子励起爆薬を受け取り、起爆の準備を始めている。


「ここにある大量の装備ごと基地を吹き飛ばす。だけど、爆発には巻き込まれたくない。脱出する。急いで」


「了解」


 グレースの指示でファティマたちがウィスキー・ナイナー基地施設から離脱する。


「ガーゴイル。撤収する。急いで合流して」


『了解。もう敵はいないようだ』


「それはいい知らせ」


 ガーゴイルが基地内のMAG勢力を確認し、撤退を始めた。


 そして、全員がハーピーが操縦するハミングバード汎用輸送機と基地を吹き飛ばす電子励起爆薬が設置されているエプロンに戻ってきた。エキドナはワームと一緒に電子励起爆薬の起爆装置を弄っている。


「エキドナ、ワーム。爆弾はどう?」


「ばっちりだ。絶対に解除できない。だが、さっさと逃げないと爆発させられない。こいつは相当な威力があるからな」


「分かった。もう撤収して大丈夫だから逃げましょう。全員輸送機に乗り込んで」


 グレースが指示し、バーゲスト・アサルトの隊員たちがハミングバード汎用輸送機へと乗り込んでいく。既に基地の防空システムはウォッチャーとエキドナによって無力化されているので問題はない。


『離陸する。どれくらい離れればいいんだい、エキドナ?』


「そっちにデータを送った。戦術核レベルの爆発だけど戦術核と違って放射線の類は生じないから安心しな」


『はいはい。全力で逃げるよ!』


 ハーピーがハミングバード汎用輸送機を全力で加速させ、ウィスキー・ナイナー基地から急速に距離を取り始める。


「少佐。そろそろ起爆して大丈夫だ」


「分かった。起爆して」


「ドカン」


 エキドナがグレースの指示で起爆装置を2回押した。


 次の瞬間、地上が崩壊した。


 膨大な熱を光を放つ爆発がウィスキー・ナイナー基地で生じ、瞬く間に広がっていく。地上のあらゆるものが薙ぎ倒され、戦術核と同様の威力の破壊力がゲヘナ軍政府支配でその力を誇示するように破壊を広めた。


 当然ながらウィスキー・ナイナー基地にあったMAGのフォー・ホースメン攻撃用の装備はすべて失われている。


任務ミッション達成コンプリート。大成功」


「後は支配地域に侵入したMAG部隊の排除ですね」


「それについてはバーロウ大佐に任せるしかない。私たち向けての仕事じゃないから」


 対ゲリラコマンド戦は少数精鋭部隊を投入するよりも、大規模かつ重装の通常戦力を投入し、包囲殲滅するものだ。得てしてゲリラコマンド部隊は軽歩兵であり、装甲戦力と火力を正面から投入すれば敵ではない。


 つまりバーゲスト・アサルトの任務ではないというわけだ。


「基地に戻りましょう。報酬がある」


「期待しています」


 ファティマたちを乗せたハミングバード汎用輸送機はイーグル基地に帰投する。


……………………

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