ラッキーストライク作戦//合流

……………………


 ──ラッキーストライク作戦//合流



 ウィスキー・ナイナー基地施設から響いた爆発音。


『少佐。ウォッチャーだ。聞こえるか?』


「聞こえる。今、どこにいるの? 合流予定時間は既に過ぎている」


『すまない。そちらに向かっていく途中でMAGの増援を確認したので到着を妨害する必要があった。しかし、今からそちらに向かう。よって予定していた場所から合流地点を変更したい。可能だろうか?』


「可能。どこを希望するか位置情報を送って」


『送信した』


 グレースのZEUSに先行して侵入していたバーゲスト・アサルトの兵士ウォッチャーから連絡が来て、合流予定地点の変更が提案された。


「ナイトストーカーより各員。合流予定地点変更。ウェンディゴ、トロル、ワームは爆弾を守っていて。ガーゴイルは支援を。私とファティマはウォッチャーとエキドナを連れていくる」


『了解、少佐』


 重要なのは基地を吹き飛ばす電子励起爆薬と脱出のためのパワード・リフト輸送機だ。だからそれを守らせつつ、グレースたちは潜入しているウォッチャーとエキドナの回収を目指し、ウィスキー・ナイナー基地施設に突入。


 基地内は警報が鳴り響いているが、警備の兵士は見えない。


「ウォッチャーたちが上手く攪乱したみたい」


「ええ。いい感じです。合流を急ぎましょう」


 グレースとファティマはお互いに援護し合いながら基地施設内を進み、死角を潰し、いつでも応戦できる状態で前進した。


 基地施設はコの字をした構造になっており、ウォッチャーが指定した場所は構造物の南側にある部屋の一室だ。


「無人警備システムも反応してない。随分と便利」


「サマエルちゃんのおかげですね」


 警報こそ響いているが本来侵入者を迎撃するはずの無人警備システムは沈黙している。リモートタレットもアーマードスーツのゴースト機も稼働していない。


 ファティマが前に出る際にはグレースが、グレースが前に出る際にはファティマが後方から支援し、そうやって全身を繰り返していた。


 その前進の際に曲がり角まで前進したファティマが止まるようハンドサインをグレースとサマエルに送ってくる。


『前方に敵部隊。歩兵8名とアーマードスーツ2体を確認』


『排除して前進する。もう少しで合流地点。派手にやる』


『了解』


 グレースがそう言ってファティマと合流し、サマエルも続く。


『いろいろ持ってきたので使いますね』


『好きにやって』


『では!』


 ファティマはにやりと笑うと手榴弾のピンを抜いて放りなげた。


『ドカン!』


 ファティマが投げた手榴弾はセンサーとAIまたは妖精に管制される知性化手榴弾スマートグレネードの一種だが、ただの手榴弾ではない。


 手榴弾がセンサーの情報を受けて空中で炸裂すると、そこから子弾をばら撒いた。そう、クラスター弾だ。ひとつひとつに焼夷弾が仕込まれたそれが炸裂し、周囲が一瞬で炎に包まれる。


「うわああっ! クソ! 消火装置が作動しないぞ!」


「た、助けてくれ!」


 MAGの警備部隊は大混乱だ。アーマードスーツもゲル状の燃焼剤からなる炎によって炎上して戦闘ができない。


『いい感じね。片づけて進みましょう』


『了解です』


 グレースが先行して突入し、ファティマが後方から続く。


「敵だ! 接敵!」


『全員殺して。捕虜も生き残りもいらない』


 応戦しようとするMAGの兵士をグレースが次々に射殺しながら099式強化外骨格の人工筋肉の出力によって加速し、アーマードスーツに肉薄。


『クソ! 近接防衛兵器を使用!』


 肉薄されたアーマードスーツが口径60ミリ迫撃砲弾を発射し、空中で炸裂したそれが小さな鉄球を周囲にばら撒いた。


『それは読めてる』


 グレースはエネルギーシールドを瞬時に展開してその攻撃から身を守る。


「ぐああ──っ!」


「何やってるんだ、馬鹿野郎!」


 しかし、まだ生き残っていた周囲のMAG歩兵が被害を受け、死傷者が多数だ。


『僚機の仇だ! ぶち殺してやる、あばずれ!』


『“赤竜”!』


 残り1体ののアーマードスーツがグレースを狙おうとするのにファティマが“赤竜”を投射。赤いエネルギーブレードがアーマードスーツをバラバラに解体し、パイロットを八つ裂きにした。


「まだ敵がいるぞ! 応戦──」


『皆殺しです!』


 ファティマは応戦を試みたMAG歩兵の生き残りを“赤竜”とMTAR-89自動小銃で攻撃。斬撃と銃撃が殺戮を繰り広げ、MAG歩兵は数秒で全滅することとなった。


『少佐。そっちに増援が向かっている。こっちで始末していいか?』


『お願いしておく、ガーゴイル』


『了解』


 戦闘音を聞きつけて向かってきたMAGの警備部隊4名がガーゴイルからの狙撃を受けた。窓を貫いて突入してきた銃弾によってMAGのコントラクターの頭が弾け飛ぶ。


「畜生! 狙撃だ!」


「どこから──」


 MAGの警備部隊は次々に狙撃され全滅。


『クリア』


『クリア』


 そして、残敵がいないことをファティマとグレースが確認。


『基地警備戦力は少ないみたいですね。合流したら脱出しますか?』


『そうね。確かに予想していた規模じゃない。ソドムの陽動のおかげ?』


『かもですね』


 基地内のMAG部隊の数は明白に少ない。先ほど交戦した部隊以外存在しないかのようだ。ソドムがテロ実行したという知らせは入っているが、そのおかげかは分からない。


『まあ、敵がいたとしたら殲滅するだけ。事前の予定通り。行きましょう』


『了解』


 今度はグレースが先に出て、ファティマとサマエルが続いた。


「お姉さん。他に敵はいないみたいだけど、通信は妨害した方がいいんだよね?」


「お願いします、サマエルちゃん。もう少しで終わりますから頑張ってください!」


「うん!」


 サマエルが小さく微笑みファティマの後ろを進む。


『合流地点まで間もなく。友軍誤射ブルー・オン・ブルーに警戒。撃つ前にちゃんとIDを識別して』


『分かりました』


 ZEUSの拡張現実ARを開き、友軍IDを認識できるようにファティマは設定した。


『ウォッチャー。こちらナイトストーカー。今から合流地点の部屋に入る。射撃に注意して。いい?』


『分かった、少佐。しかし、不味いことになりそうだ。急いできてくれ』


『了解』


 グレースが合流予定地点の部屋の扉の横に立ち、横からドアを開ける。こうすれば万が一敵が中にいても撃たれない。


 そして、滑り込むように部屋の中に入った。


「少佐。迎えに来てくれて嬉しい。俺たちを見捨てないと信じてた」


「相変わらずいい女だね、少佐」


 中ではバーゲスト・アサルトの標準装備となっている都市型デジタル迷彩の099式強化外骨格を装備した2名の男女だ。


 恐らくウォッチャーと名乗っていたのは男性で長身であったガーゴイルなどと比べると酷く小柄だ。160センチちょっとという身長で強化外骨格エグゾの装甲も最低限というもので、マークスマンライフルモデルのMTAR-89自動小銃。


 もうひとりの女性エキドナの方はGPMG-99汎用機関銃の空挺パラトルパーモデルでタクティカルベストにベルトリンクを巻いている。身長は170センチ程度で背中には大きなバックパックを背負っていた。


「不味いことと言っていたけど説明して」


「ああ。ここにMAGの連中の端末があった。通信妨害が行われる前に使って動きを把握で来たんだが、1個歩兵中隊を中核とした空中機動部隊が向かっている。空挺戦車やアーマードスーツも抱えているらしい」


「はあ。それは確かに不味い。迎撃しないと爆弾を無力化される」


 ウォッチャーはこの部屋──通信室にあった端末をハックして利用していた。それによってMAGの部隊展開に関する情報を手に入れたのだ。


「警備部隊はほぼ壊滅している。敵の増援はどう阻止したの?」


「あたいが車両の通る道路に即席爆発装置IEDをセットして爆破。そのままMAGの増援は壊滅した。それから残りの警備部隊の概ね仕留めた」


「いいニュース。では、空中機動部隊を排除しましょう」


 エキドナの報告にグレースがすぐに指示を下す。


「手はあるのか、少佐? 俺たちはMANPADSなんて持ってきてないぞ」


「大丈夫。私たちには──」


 グレースがファティマを見る。


「ファティマとサマエルがいるから」


 グレースはそういう言って口元を笑みへを浮かべてそう告げた。


……………………

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