ラッキーストライク作戦//ウィスキー・ナイナー基地の戦い

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 ──ラッキーストライク作戦//ウィスキー・ナイナー基地の戦い



『こちらウィスキー・ナイナー基地司令部! 当基地は現在敵性勢力による攻撃を受けている! 繰り返す、当基地は現在敵性勢力による攻撃を受けている! クソ、どうして基地内ですら通信が繋がらないんだ!?』


 ウィスキー・ナイナー基地は混乱のただなかにあった。


 防空コンプレックスが爆破されたことが繋がらない通信の代わりに伝令によって司令部に伝えられ、現代戦の生命線であるC4ISTARがダウンしたことで混乱だけが広がる。


『こちら基地警備ユニット。未確認機が着陸したエプロンに向かっている。本部HQ、指示を乞う。本部HQ! 畜生!』


 混乱の中であろうと武装した敵がいることは変わらず、このラッキーストライク作戦の要である戦術核レベルの威力がある電子励起爆薬を設置しているエプロンに基地警備部隊が向かっていた。


「いたぞ! 敵だ!」


「殺せ!」


 向かってきた基地警備部隊はMAGの標準装備であるT-4201強化外骨格を装備したMAGの1個歩兵小隊だ。MTAR-89自動小銃などの小火器で武装した歩兵32名とヘカトンケイル強襲重装殻6体。


「ファティマ。気を付けて。援護する」


「はい。私が迎撃します。クラウンシールド展開!」


 すぐさまグレースがカービン仕様のMTAR-89自動小銃を構え、ファティマはクラウンシールドを展開。七個の王冠がファティマの前方で壁を構築する。


『トーテム・ゼロ・ワンよりアーマードスーツ分隊各機。射撃自由、射撃自由。前兵装の使用を許可する。友軍を支援し、敵を撃破せよ』


『了解』


 MAGの歩兵小隊の前に6体のアーマードスーツが展開し、口径40ミリ機関砲を始めとする兵装をファティマに向けた。


 彼らはエネルギーシールド程度ならヘカトンケイル強襲重装殻の火力で粉砕できると考えていたし、実際に通常のエネルギーシールドであれば破壊できた。


 そのはずだった。


 口径40ミリ機関砲弾が次々に叩き込まれ、サーモバリック弾頭の口径70ミリロケット弾が連続して発射され、トドメとばかりにドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルが放たれる。それらが次々に着弾。爆発が熱と濃い煙を生み出した。


『よし。片付いたな』


『ふん。こいつは楽な仕事ビズ──』


 アーマードスーツのパイロットが安堵の息を吐こうとしたとき、その電磁装甲及び複合装甲でもっとも守られたパイロットシートが赤いエネルギーブレード──“赤竜”によって貫かれ、爆発を起こす。


『なんだとっ!? 敵は生きているぞ! 警戒しろ!』


『クソ。データリンクができないから敵が捕捉できない! 通じるのは超短距離通信だけだぞ! ういうことだよ、クソッタレ!』


 アーマードスーツ間で本来存在するはずのセンサー情報などを共有する戦術リンクは遮断されており、アーマードスーツは昔のように自分のセンサーだけでファティマたちを捕捉しなければならなかった。


 そこでゆっくりと爆発で生じた煙が収まっていく。


「今度はこっちのターンですよ! 行きます!」


 七個の“王冠”。そして、十本の“赤竜”。


 それらを展開させたファティマが黄金の瞳を輝かせ、赤い殺意を発する。


「警戒! 敵は魔術師です!」


「こちらの方が数は圧倒的に上だ! 叩きのめせ! 射撃自由!」


 MAG部隊がファティマたちを狙って射撃を開始。


「させません。そして、死んでもらいます!」


 ファティマは全ての銃弾と爆薬を赤いエネルギーシールドとクラウンシールドで防ぎ切り、MAGの歩兵やアーマードスーツが行った攻撃が暴発して防がれた。


『クソ、クソ! 撃てえ!』


「こちらバイソン・ゼロ・ワン! 基地内にて侵入者と交戦中! 応援を求める! 繰り返す、応援を求める! 畜生め! まだ繋がらないのかよ!」


 アーマードスーツも歩兵も必死に射撃を行うが、ファティマの赤いエネルギーシールドはいかなる攻撃も貫通させない。


「ウェンディゴ、トロル。その地点から援護射撃を。私はファティマと一緒に敵警備部隊を殲滅する。始めて」


『了解です』


 グレースの指示でファティマたちの斜め後ろの射線にファティマたちを入れない位置からウェンディゴのGPMG-99汎用機関銃が短い連射を繰り返して、MAG歩兵を攻撃する。


「ぎゃっ──!」


「気を付けろ、強化外骨格エグゾの装甲が抜かれたぞ。敵は強化徹甲弾を使ってやがる。機関銃で強化徹甲弾とか。化け物め……!」


 銃撃されたMAGのコントラクターの読み通りウェンディゴはタングステン弾芯で、かつ弾薬の威力を強化した強化徹甲弾を使用していた。これならば強化外骨格エグゾの装甲ぐらいなら簡単に抜く。


「お前、そんな馬鹿みたいな弾を使ってよく銃を壊さないな」


「ちゃんと整備してるんでね。可愛がってやれば信頼にこたえてくれる忠犬さ」


 当然、汎用機関銃などという連続射撃を行う武器で銃火器への負担が大きい弾薬を強化した強装弾など使用してれば故障の恐れがある。


 だが、ウェンディゴは自分の銃火器を巧みに操り、戦場の状況に心理状態を左右されず、落ち着いて射撃を行っていた。それによって彼の操る銃火器が戦場で故障したことは一度もない。


「慌てるな。まずは落ち着け。アーマードスーツを盾にして応戦するんだ。強化徹甲弾でもアーマードスーツの装甲は抜けない。そして、選抜射手は厄介な敵の機関銃班を仕留めろ。さあ、やれ!」


「了解、小隊長殿!」


 MAGの歩兵は指揮官の指示を受けると前方に展開したアーマードスーツを遮蔽物としてファティマたちに射撃を浴びせる。


「小隊長殿! 選抜射手配置に着きました!」


「すぐに機関銃を黙らせろ」


 選抜射手は歩兵分隊や小隊に配備される中距離の狙撃を担当する兵士のことだ。本格的な狙撃手とは役割がことなり、歩兵の保有する銃火器では射程が足りない範囲の敵を正確に排除することがその目的である。


「よし。いいぞ。その頭をふっ飛ばしやるぜ」


 選抜射手がMTAR-89自動小銃をマークスマンライフル化したものに装着した光学照準器でGPMG-99汎用機関銃で射撃を続けているウェンディゴを狙う。


「さあ、死に──」


 だが、選抜射手がその引き金を引こうとしたとき、その頭が弾け飛んだ。


「狙撃だ! 伏せろ、伏せろ!」


 指揮官はこの攻撃が狙撃によるものだとすぐに気づき、狙撃手から身を守るために遮蔽物を探させて、そこに逃げ込んだ。


『少佐。敵を狙撃で追い込んだ。ウェンディゴとトロルにも今の位置から制圧射撃を続けされば動けないはずだ。もし、敵が何かしようとしたらピザの宅配より速くそいつの頭を叩き割ってやる』


「ええ。援護は任せる、ガーゴイル」


 狙撃を行ったのはガーゴイルだ。彼は魔術は使えないが他に軍人として必要とされるあらゆることにおいて優秀であった。


「ファティマ。アーマードスーツを片づけて。あなたが頼りよ」


「任せてください。“赤竜”!」


 グレースに命じられてファティマがアーマードスーツに牙を剥く。


『警戒! エネルギーブレードが接近! エネルギーシールドを展開する!』


 “赤竜”の刃が残り5体のアーマードスーツに突っ込んでくるのにエネルギーシールドを展開。アーマードスーツに内蔵されたマギテクによる魔術増幅デバイスによってエネルギーシールドは強化されている。


 しかし──。


『貫通した!? クソ、回避──』


 “赤竜”は敵のエネルギーシールドをあっさりと貫通し、その先にある5体のアーマードスーツに襲い掛かった。


 パイロットシートを“赤竜”の刃が滅多刺しにパイロットシートから血が漏れてくる。さらには兵装を貫いた“赤竜”によって残っていた弾薬が誘爆し、アーマードスーツが爆発を起こして吹き飛ぶ。


「アーマードスーツ、排除完了です、グレースさん」


「グッジョブ。このまま敵の警備を殲滅する」


 ファティマたちがMAGのアーマードスーツ部隊を殲滅したときだ。


「爆発音?」


 何かの爆発音がウィスキー・ナイナー基地施設から響いた。


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