ラッキーストライク作戦//フライトプラン
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──ラッキーストライク作戦//フライトプラン
「爆弾の搭載と固定完了。問題なし。いつでも行けますよ、少佐!」
「了解。作戦開始時刻までの残り2分よ」
今回はかなり時間的にタイトな作戦になる。
まずIDの偽装が発覚しないように偽装したフライトプランに完全に従って飛行しなければならない。少しでも間違えばすぐさまゲヘナ上空を常時監視しているエデンの防空システムが割り込んでくる。
「少佐。ウォッチャーが今も基地の状況を報告しているが動きはない。警戒はされていないようだ。だが、もう既に先行しているMAG部隊が俺たちの領域にいるんだろう? そいつらはどうなってるんだ?」
さらに現地で後方に浸透し、偵察情報を送ってきている友軍と合流する必要もある。この手の敵地での合流には外科手術染みた精密さが求められるものだ。
「MAGの潜入部隊は公安の指揮下で治安部隊が動員されている。フォー・ホースメンで戦えるのは私たちだけじゃないの、ガーゴイル」
「公安にせよ何にせよ給料分仕事してくれれば文句はないさ」
パワード・リフト輸送機はいつでも離陸可能な状況で待機しており、電子励起爆薬の詰め込まれた金属容器はしっかりと固定されている。
「さあ、作戦開始時刻よ、ハーピー」
『了解!』
ハミングバード汎用輸送機の両翼に備えられた反重力エンジンが唸り始め、同時にイーグル基地に配備されている航空牽引車がファティマたちが乗った作戦機をハンガーの外に展開させる。
『
『
『オーケー!』
反重力エンジンが一斉に出力を上げ、ハミングバード汎用輸送機が空に飛び立つ。
その時、MAGが警備するゲヘナ軍政府支配地域でも行動が起きていた。
「ああ。クソ、今日も混んでるな」
「ここのタコスは絶品だから。待つだけの価値あるってもんさ」
MAGのコントラクターたちが利用する食堂。ゲヘナ軍政府から正式な就労施設として認められ、就労条件を満たすためにゲヘナの住民が忙しく働いている店だ。
MAGのコントラクターたちは同じものしか出ない兵舎の食事より外食を好んでおり、ゲヘナ軍政府支配地域を警備するパトロール部隊なども任務を終えると基地に帰らず、このような飲食店に立ち寄っていた。
「ん? あの車、いつから置いてある?」
そこであるコントラクターが食堂の向かいの建物にステーションワゴンが止まっていることに気づいた。古い車でボロボロになった白い塗装とパンクしかけのタイヤの旧式のガソリンエンジン車だ。
「ほっとけよ。どうせゲヘナの連中が忙しくしてるだけ──」
爆発。
衝撃が2車線の道路の両脇に立っている建物に叩きつけられ、弱いながら長年テリオン粒子による劣化を受けていた建物は崩壊。爆発そのものの衝撃と建物の崩壊によって周囲にいた人間が300名場死傷した。
「救急を呼べ! 負傷者多数だ! 急げ、急げ!」
「応急手当ができる人間は救急が到着するまで対応しろ!」
血がぶちまけ、崩壊した建物の瓦礫が散らばり、砂塵が舞い上がった通りで動ける人間が生存者を救おうと動き始める。
「おい。あの車、どこの所属だ?」
そこに3台のタイパン四輪駆動車が駆け込んできた。
「無線に応じないぞ」
「嫌な予感が──」
開かれたタイパン四輪駆動車の窓からCR-47自動小銃が火を噴き、爆発を生き残っていた生存者に銃弾を浴びせかけた。口径7.62ミリ弾の発射で生じる銃声がけたたましく響き、悲鳴があちこちで響き渡る。
「そら!」
さらには手榴弾も投げ込まれ、それらのドライブバイシューティングを行ったタイパン四輪駆動車の車列はドリフトするように急カーブして走り去った。
『最寄りの全MAGユニットへ。当社警備地域内にて爆弾テロ発生。繰り返す、当社警備地域内にて爆弾テロ発生。警戒せよ』
MAGの司令部がテロの報告を受けて警報を発する。
自然とMAG部隊は次のテロが予想される目標付近への警備強化と既にテロが起きた地点の救急及び治安回復に派遣され、他の地域で警備が手薄になっていく。
ファティマたちの
そこにファティマたちを乗せたハミングバード汎用輸送機が近づく。
『ナイトストーカー。基地からレーダー照射を受けたが射撃管制レーダーじゃない。一般的な航空管制レーダーだ。まだ気づかれないらしい』
「分かった。そのまま突っ込んで」
『了解!』
ハーピーが操るハミングバード汎用輸送機は偽装して提出されているフライトプランに従ってウィスキー・ナイナー基地の近くを飛行することになっていた。
だが、その寸前になって作戦機は針路を変針し、ウィスキー・ナイナー基地が飛行禁止にしている空域に高度を一気に落として侵入した。
『
『こちらコルベット・ゼロ・ワン! エンジントラブルが起きている! 緊急着陸の許可を求める! どうぞ!』
ウィスキー・ナイナー基地の管制から警告が飛ぶのをIDを偽装している作戦機を操縦するハーピーがエンジントラブルを装って着陸を試みる。
『こちら
ウィスキー・ナイナー基地の管制はそれでも接近に警告。
『ナイトストーカー。偽装はそろそろ無理そうだ。派手にやるしかないね』
「分かった。許可する。やって」
『了解。荒い操縦になるよ!』
ウィスキー・ナイナー基地周辺にある建物の天井を掠めるような地形追随飛行でファティマたちを乗せたパワード・リフト輸送機は飛行し、そのままウィスキー・ナイナー基地の内部に突入。
『いくぞ、タッチダウン!』
そして、エプロンに向けて一気に降下し、作戦機がウィスキー・ナイナー基地内で着陸を果たした。
「ここからは時間との勝負。ここにあるのは装備で人員はまだあまり配備されていない。けど、装備を喪失すれば敵は脅威ではなくなる」
「基地警備を迅速に制圧して爆弾をしっかりとセットしたら大急ぎで離脱、ですね」
「そう、それから通信妨害を始めて」
ファティマが頷くのにグレースがそう要請する。
「サマエルちゃん。通信妨害をお願いします」
「わ、分かったよ、お姉さん」
サマエルが通信妨害を開始し、MAGの通信が全て遮断された。
『こちら
『ダメです! 中央基地へのダイレクトラインも不通!』
MAGの通信は有線も無線も問わず妨害され、全く連絡が取れない状態であった。
「少佐。ウォッチャーとエキドナが間もなく合流する。基地の警備を攪乱するといっているが許可するか?」
「やらせて。それから合流を急ぐように急かして」
「了解。ゴーサインが出たぞ、ウォッチャー。やれ!」
グレースの返答を聞いてガーゴイルがZEUSを通じて命令を発した。
次の瞬間、ウィスキー・ナイナー基地の防空コンプレックスが爆発。射撃管制用レーダーや無人化された
これによりウィスキー・ナイナー基地の防空システムがダウンした。
「ウォッチャーとエキドナは間もなく合流。俺はいい射撃地点を確保しておきたい。こいつを持ってきたから狙撃で支援する」
「ええ。位置について。頼りにしてる、あなたのこと」
「ああ。その信頼には答える」
ガーゴイルはエプロンに駐機してある航空機などを遮蔽物に利用して高所からの狙撃を目指す。そのガーゴイルは口径12.7ミリの高性能ライフル弾を使用するSR-50CAL対物狙撃銃を装備していた。
「私たちも配置に着く。守るべきは帰りの手段であるパワード・リフト輸送機と爆弾。これを死守する。ウェンディゴ、あなたの火力はあの地点に配置。トロルはそれを援護。私とファティマは迎えに行く。ふたりで援護して」
「了解です、少佐」
高い火力を発揮するGPMG-99汎用機関銃を装備するウェンディゴとトロルがグレースとファティマ、サマエルを支援できる位置に付き、ファティマたちが基地施設の方を目指して前進を開始。
「お姉さん! 基地の警備が向かってるよ! 気を付けて!」
「了解です、サマエルちゃん! グレースさん、私が前に出ます!」
そこでファティマが赤いエネルギーシールドを展開して前に出た。
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