ラッキーストライク作戦//意外な協力者

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 ──ラッキーストライク作戦//意外な協力者



「バーロウ大佐が言ったように私たちはウィスキー・ナイナー基地のMAG部隊をその装備と人員全て大型電子励起爆薬で撃滅する」


 グレースがバーロウ大佐の発言を肯定し、バーゲスト・アサルトの隊員たちが口笛を吹いて興味を示した。


「俺たちは爆撃機は持ってないぜ、少佐。どうやって爆弾を叩き込むんだ?」


 先の作戦で迎えのパワード・リフト輸送機に乗っていたバーゲスト・アサルトの隊員のひとり──トロルと呼ばれた大柄な男が尋ねて来た。


「IDを偽装したハミングバード汎用輸送機を使用する。MAG所属機に偽装した機体。これでウィスキー・ナイナー基地を奇襲し、電子励起爆薬を設置する」


「つまり、名札を変えただけのパワード・リフト輸送機頼りでエスコートの類はなしってことですかい?」


「そうなる」


 トロルの質問にグレースがあっさり頷くとバーゲスト・アサルトの隊員たちがため息を漏らし始めた。


「1個連隊のMAGの重装部隊が陣取る基地に数名で押しかけて爆弾設置して逃げろってことだよね、少佐。本当にやるの?」


「文句を言うな、ハーピー。給料分ちゃんと働け」


「はいはい、ガーゴイル」


 いつもパワード・リフト輸送機を操縦しているハーピーという女性隊員がガーゴイルに文句を言われて肩をすくめる。


「確かにリスクのある作戦であることは認識してる。けど、奇襲のメリットは寡兵の不利を補えるという点。大規模な部隊を動員して正面から戦えないからこうするしかない。そして、あなたたちは数の不利を覆せる精鋭。でしょ?」


「そう言われたらやるしかないな。流石は少佐だ。士気の上げ方って奴を分かってる」


 グレースが小さく笑って言うのにトロルが笑い声を上げた。


「それにそこまで無謀というわけでもない。私たちだけだったなら大変だったけど、ありがたいことに今回は援軍がいろいろといる」


「まずはこいつらだ。ファティマ・アルハザードとサマエル。新入りだがグレースとがガーゴイルが認めている。俺も認めてやっている。というのもこいつらは便利な力が使えるんだよ」


 グレースの言葉をバーロウ大佐が引き継ぎ、ファティマの背中を叩く。


「こいつらはMAGの通信を傍受できるうえに妨害もできる。それでいて相手は気づかない。どうだ? こいつはいいだろう、ええ?」


「それはマジですか、大佐? どういう絡繰りで?」


 思わずトロルがそう尋ねる。


「知らん。だが、使えるものは使わないとな。よろしく頼むぞ、ファティマ」


「ええ。お任せください。私とサマエルちゃんに」


 バーロウ大佐が意地悪く笑うのにファティマも不敵に微笑んだ。


「それから援軍はこいつらだけじゃない。意外もしれないが、共通の利害のある連中が味方してくれるそうだ」


「まさかグリゴリ戦線の連中じゃないだろうな?」


「違う、違う。グリゴリ戦線の即席テロリストどもなんぞ援軍にもらっても迷惑するだけだ。来いよ、お客さん」


 ガーゴイルの言葉にバーロウ大佐がそう返してブリーフィングルームの扉を叩く。


「ハロー! お姉ちゃん、久しぶり!」


「デフネさん?」


 現れたのはソドムの精鋭部隊イェニチェリ大隊を指揮するデフネだ。


「顔見知りか? 結構。今回はソドムが協力する。別に金はとられないから安心しろ。共通の利害への対処だ。なあ、デフネの嬢ちゃん?」


「そ。フォー・ホースメンはあたしたちにとって大事な客だし、連中がこれで成功したらジェリコが対抗してあたしたちを攻撃してくる。それは美味しくない」


 バーロウ大佐が言うのにデフネがにやりと笑って頷いた。


「そういうことだ。ソドムの方で陽動をやる。MAGが気を取られている間に爆弾を仕掛けてふっ飛ばせ」


「あたしたちはMAGの検問チェックポイントとMAGのコントラクターどもが休憩中によく屯している店を何件かテロる。せっせと愛情込めて作ったお手製爆弾を詰め込んだ車両爆弾で、ね」


 バーロウ大佐に続いてデフネがそう説明。


「お手製の組車両爆弾か。グリゴリ戦線のやり口だな、それ」


「だって、テロやった報復は受けたくないしー。グリゴリ戦線にはいくら罪をかぶせたってあいつら気にしないでしょ?」


 トロルが小さく笑って言うのにデフネが肩をすくめた。


「ソドムの協力で作戦成功率は上がる。ソドムがテロを実行するのは私たちが狙うMAGのウィスキー・ナイナー基地とは全く異なる場所。十分な陽動になる」


「それで、作戦に参加するのは?」


「まずパワード・リフト輸送機のパイロットにハーピー。同機のガンナーにバンシー。爆弾の取り扱いを到着まではワーム、到着後は合流したエキドナ」


 ガーゴイルが尋ね、グレースが一人ずつ指名していく。


「到着後、爆弾を確実に爆破させるために基地警備を制圧する。その要員にガーゴイル、トロル、ウェンディゴ、現地のウォッチャー、そして私とファティマ、サマエル。後は緊急即応部隊QRFとしてイーグル基地で待機」


「了解」


 バーゲスト・アサルトの隊員たちが一瞬で引き締まり、戦場に臨む兵士の空気を出した。思わず息を飲んでしまうような凄まじい統率力を示したのだ。


「指名されたものはすぐさま作戦準備を開始。緊急即部隊QRFとしてイーグル基地に残るものもいつでも出動できるようにしておいて。では、作戦開始は1時間後。何としてもMAGの攻撃を阻止する。いいわね?」


「イエス、マム!」


 ブリーフィングルームにいたバーゲスト・アサルトの隊員たちが一斉に動き始めた。訓練された軍人らしいきびきびとした無駄のない動きである。


「ファティマ。あなたもすぐに準備して。武器はどれを使ってもいい」


「了解です。すぐに準備します」


 ファティマは武器庫の使用許可のIDを発行してもらい、武器庫に向かった。


「これにしましょう。基地の構造を見ましたが、爆弾設置予定地点の航空施設に隣接するエプロンなかなか開けています。それなりに射程が重要ですね」


 今回はマークスマンライフルに近い仕様の長い銃身に固定された銃床を備え、高倍率の熱光学照準器を備えたMTAR-89自動小銃を選んだ。マガジンは徹甲弾と空中炸裂エアバースト弾。


 それから各種手榴弾とスモークグレネード。スモークグレネードは開けた遮蔽物の少ない場所を進まざるを得ない場合にあれば便利だ。


 それらをタクティカルベストに積み込めるだけ詰め込んでたっぷり持っていく。


 そして、事前に通知されたイーグル基地内の作戦開始前集合地点に向けて駆け、一瞬で臨戦態勢になったイーグル基地を進んだ。


「お待たせしました!」


「来たわね。作戦開始時刻までもうすぐよ」


 指定された場所は特殊作戦仕様かつIDを偽装したハミングバード汎用輸送機が待機しているハンガーの中だった。ハンガーの中にはロケット弾などで武装したハミングバード汎用輸送機が待機している。


 そして作戦に参加するバーゲスト・アサルトの隊員たちも。


「危ない仕事ビズだ。足を引っ張るなよ、ファティマ」


 既に一緒に仕事ビズをやったグレースとガーゴイル、そしてトロル。


「よろしくな、新入りさん」


「こちらこそ」


 そして初めて一緒に仕事ビズをやるウェンディゴ。


 彼は男性兵士で099式強化外骨格をカスタムして出力を上げているのが分かった。本来なら2名で運用する重量があるGPMG-99汎用機関銃をひとりで運用するようなのだから。重さのある弾も、銃本体もひとりで抱えている。タフな男だ。


「ID偽装の最終確認だ、ハーピー。敵味方識別装置IFFの反応を見てくれ」


「問題ないね。ちゃんと偽装できてる」


 作戦機であるハミングバード汎用輸送機の担当するハーピーとバンシー。


 ハーピーは小柄な女性兵士でパイロット用のヘッドHマウントMディスプレイDを装着している。バンシーも女性でやはりガンナー用のヘッドHマウントMディスプレイDだ。


「少佐。早く爆弾を確認しておきたいんですが、まだですか?」


 戦術核並みの威力があるという電子励起爆薬を扱う専門兵として参加するワーム。


 彼は男性兵士で099式強化外骨格を身に着けているがタクティカルゴーグルがかなり頑丈なものであると同時にセンサーが多様なもので、さらにはタクティカルベストにすぐ使えるように工具や爆薬を下げていることから戦闘工兵と思われる。


「そろそろ来るはず。連絡が来たから」


 グレースがそう言ったときバンカーに武装した兵士たちに守られてドラム缶サイズの金属容器に収められた爆弾が運ばれてきた。


「確認しください、少佐」


「了解。IDを認証した。確認完了。ご苦労様」


 運んできた兵士がグレースに確認を求め、グレースがIDで確認。


 ついに基地ひとつを吹き飛ばす戦術核級の威力がある爆弾が到着した。


「さあ、仕事ビズよ。始めましょう」


「少佐。作戦名は?」


 グレースが命じるのにガーゴイルが尋ねた。


「ラッキーストライク作戦。まぐれ当たりでホールインワンを目指す作戦に名前としてはぴったりね」


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