ラッキーストライク作戦//民間準軍事作戦グループ
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──ラッキーストライク作戦//民間準軍事作戦グループ
ファティマとサマエルは家に帰らずイーグル基地の居住区で過ごした。
「サマエルちゃん。お腹空いてないですか?」
「大丈夫だよ。お姉さんは?」
「少し減って来ました。でも、これからドンパチやると考えると食べないで置いた方がいいかもしれません。場合によっては食べた先から吐いちゃいますから」
「そうなんだ。キャンディーとかチョコレートなら大丈夫じゃないかな?」
「ですね。売店で買って来ましょう」
巨大な基地であり、大勢の兵士が勤務するイーグル基地には兵士向けのPXという売店があり、お菓子から衣服まで様々なものが販売されていた。
「“ヨナおじさんのとってもおいしいチョコレート!”ですか」
チョコレートも置いてあるが、どこのメーカーだがよく分からないものが売られている。パッケージの笑みを浮かべた中年男性のイラストはファティマも初めて見た。味が不安になるがそれを購入しておく。
包装に包まれた中身は1ドル札ぐらいの大きさの板チョコだ。
「匂いは普通のチョコレートですが、お味は……」
ファティマが匂いを嗅いだのち恐る恐る口にチョコレートを運ぶ。
「……砂糖をいっぱい使いましたって味ですね」
「美味しくないの?」
「大丈夫です。糖分を取っていると思いましょう」
人工的な砂糖の味ばかりがするチョコレートをもごもごとファティマが食べる中、ファティマたちが待機している居住区の部屋に訪問者が来た。
「おや。ガーゴイルさん?」
「ファティマ。
「了解」
訪れたのはガーゴイルだ。099式強化外骨格の増加装甲もフルにセットした完全武装の彼がファティマを迎えに来た。
「そのチョコレート、食ったのか? クソ不味いだろ、それ」
「美味しくはないですが他になかったので」
どうやらガーゴイルも食べたことがあるのかPXのチョコレートの包みを持っているファティマにそう言い肩をすくめる。
「そちらはそのマスクは食事する時も付けてるんですか?」
「お前には関係ない」
「そうですか」
ガーゴイルはファティマを相手にせずイーグル基地内を進み、ブリーフィングルームへと到着。生体認証を済ませ、部屋の扉を開けてファティマたちと中に入る。
「あれが例の?」
「らしいぜ」
部屋の中には特徴的な黒いタクティカルゴーグル──高度軍用のZEUS端末を兼ねる多目的機能を有する防弾デバイスを付けて顔を隠した男女が12名ほどいた。
「来たわね。まずは約束通りバーゲスト・アサルトについて教えましょうか?」
そしてグレースも099式強化外骨格を身に着けブリーフィングルームに。
「是非とも」
「まず私は元エデン統合軍参謀本部情報総局に所属していた。エデン陸軍少佐としてね。そこでゲヘナにおける
グレースは元エデン陸軍少佐で、先にファティマたちと争ったエデン統合軍参謀本部情報総局の所属だったという。
「当時、ある種の計画が持ち上がっていた。ゲヘナでの
「さて? 誰ですか?」
「ゲヘナの少数民族。ゲヘナでも迫害されている彼らをリクルートして訓練し、武器を与えて特殊作戦部隊を編成するという計画だった。
「なるほど。ゲヘナの現地勢力を味方に付ければエデンは出血しないわけですよね」
「それが狙い。そして、私はゲヘナに向かい、その部隊を組織した。私がリクルートして、訓練し、武器を与えて軍隊にした」
グレースがそう語る。
「実際にその部隊を動かしたんですか?」
「ええ。私はグリゴリ戦線を相手に民間準軍事作戦グループを指揮して、
「と言いますと?」
「いきなり私たちは反逆罪の容疑を掛けられてMAGの特殊作戦部隊に強襲された。辛うじて逃げ出したけど、完全に居場所を失ったの」
エデン社会主義党の裏切りとMAGの攻撃によってグレースたちは行き場を失った。
「そこで部隊ごと寝返るから雇ってくれとフォー・ホースメンのバーロウ大佐に申し出て、そのままここに所属することになった。民間準軍事作戦グループはバーゲスト・アサルトと名前を変えた」
「つまりバーゲスト・アサルトは……」
「そう、私たちは長い戦友であり、かつてゲヘナの住民の敵だった。今も私たちを恨んでいる人間はグリゴリ戦線にもいるはず」
エデン統合軍参謀本部情報総局によって立案され、グレースが組織し、エデン社会主義党が切り捨てた民間準軍事作戦グループ。それがバーゲスト・アサルトの正体だ。
彼らはグリゴリ戦線を相手に
「ここにいる人間が実名を明かさずコードネームで行動し、顔を隠しているにも理由がある。正体を隠さなければゲヘナの裏切者として様々な勢力の様々な人間から惨たらしい報復に遭う。彼ら自身も、関係者も」
グレースはそう言って肩をすくめた。
「でも、グレースさんは……」
「私はどうでもいい。彼らは生き残りさえすれば。私の責任なのだから」
ファティマが名前も顔も隠していないグレースを見て言うのにグレースは半開きの目をさらに細めてそう返した。
「少佐。あんたのことは俺たちが面倒みると約束しただろう。自棄になるな」
「ありがとう、ガーゴイル」
ガーゴイルが呆れたように言い、グレースが小さく微笑んだ。
「そうだぞ。お前みたいな使える兵隊に自棄になられたら困るんだ」
そこでそう言って現れたのはバーロウ大佐だ。
「話は付いたの、大佐?」
「ああ。双方納得だ。やるぞ」
「了解。では、説明する」
バーロウ大佐が手を振り、グレースが頷く。
「我々はMAGの後方拠点であるウィスキー・ナイナー基地を襲撃する。先の作戦で捕虜を尋問した結果、MAGが我々に対して大規模な攻撃を予定していることが発覚した」
フォー・ホースメンは捕虜を尋問し、そこから攻撃の情報を入手した。
「MAGは先行して潜入した部隊が破壊工作を行い、さらに大規模な部隊を一斉に投入することで私たちに打撃を与えようと考えている。それを阻止するため先手を打つ。この敵の集結地点であるウィスキー・ナイナー基地を奇襲する」
ブリーフィングルームの
「ウィスキー・ナイナー基地の具体的な情報は?」
「現地にはウォッチャーとエキドナが潜入している。彼らによれば敵は空中機動部隊として1個連隊規模の部隊を集結させている。軽榴弾砲を装備した砲兵や空挺戦車からなる機甲部隊を含めた諸兵科連合よ」
バーゲスト・アサルトの隊員のひとりが尋ねるのにグレースがそう答える。
「事実上の連隊戦闘団ってわけか。1個連隊となると潰すのは大変だぞ。だが、それでもやるってことは策があるんだろう。何を使うんだ、少佐?」
「俺が答えよう」
ガーゴイルの質問にバーロウ大佐が応じた。
「電子励起爆薬だ。丁度いいところに戦術核並みの威力がある奴が手に入った。そいつを使ってふっ飛ばす。大虐殺としゃれこんで来い」
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