ラッキーストライク作戦//報酬

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 ──ラッキーストライク作戦//報酬



『オーケー。到着だ。フライト終了』


 ファティマたちを乗せたハミングバード汎用輸送機はイーグル基地のヘリポートに着陸した。反重力エンジンが唸りながらヘリポートに機体を降ろし、後部ランプが降ろされてファティマたちがパワード・リフト輸送機から出る。


「ご苦労だったな」


「流石はお姉ちゃん!」


 イーグル基地ではバーロウ大佐とデフネが待っていた。


「大佐。随分と暇そうだけどMAGの潜入部隊は片付いたの?」


「おいおい。部下を労ってやろうと思ってきたのにそれはないだろ。だが、潜入部隊はもう片付いたぞ。尋問と見せしめも終わった。楽な仕事ビズさ」


「それは結構」


 グレースがバーロウの言葉に頷く。


「しかし、これでMAGからの報復があるんじゃないですか?」


「いや。大丈夫だ。その点はソドムが上手くやってくれたよ。デフネの嬢ちゃんには感謝しないとな。MAGの報復はグリゴリ戦線へ、ってな」


 ファティマが懸念を示すのにバーロウ大佐が意地悪く笑って言った。


「複数の情報筋に攻撃はグリゴリ戦線のものだって欺瞞情報を流してあるの。それを内通者たちが信じ込ませてる。ゲヘナ軍政府は馬鹿だから信じちゃうよ」


「あれま。前の攻撃に続いてまたグリゴリ戦線に、ですか。彼らがこのことに気づかないといいんですが」


「別に問題じゃないでしょ。彼らはどうせいつもゲヘナ軍政府から目の敵にされてるし。その上、これでグリゴリ戦線が攻撃されて彼らは武器が必要になった。お姉ちゃんが望んでいるイズラエル・ホワイトがまさに接触を求めてる」


「なるほどですね」


 グリゴリ戦線はいよいよ全ての罪を被せられた結果、戦うことを強いられている。


「接触する時は約束通りお姉ちゃんを誘うね。じゃあ、また!」


 デフネは鼻歌を歌いながらイーグル基地から去った。


「さて、報酬だ。800万クレジット。しかし、この金は何に使うんだ?」


「いろいろですね。装備や食事、後は接待費でしょうか」


「無駄遣いするなよ。若いうちはこうやって稼げるが年を取るとそうはいかん」


 バーロウ大佐は説教染みたことをいいながらファティマの端末に金を振り込んだ。


「装備を返したら失礼しますね」


「ああ。また何か仕事ビズがあったらジェーンにでも伝えておく」


「了解です」


 ファティマがバーロウ大佐の言葉に頷いて武器庫に向かおうとしたとき、バーロウ大佐が端末に何か着信が来たのか眉を歪めた。


「おい。うちの軍医のミアがお前を呼んでるぞ。何か心当たりはあるか?」


「カーター先生ですか? そう言えば私の健康について相談していましたね」


「じゃあ、診てもらってこい」


「分かりました」


 そういうことでファティマはフォー・ホースメンの軍医であるミアのいるウェストロード医療基地に向かうことになった。


 ウェストロード医療基地まではバーロウ大佐のサービスでフォー・ホースメンの兵士たちに送ってもらえた。


「ようこそ、ファティマ・アルハザード様。今日はどのような御用でしょうか?」


「カーター先生に呼ばれました。よろしくお願いします」


 ファティマとサマエルは受付を済ませて待合室で待つ。


 そこでサイレンの男が響いてきた。救急車だ。


「何でしょうか?」


「ちょっと怖いね……」


 ファティマたちが不安そうにサイレンの音を聞くのに患者がウェストロード医療基地内に運び込まれてきた。救急隊員の役割を果たしているフォー・ホースメンの衛生兵がストレッチャーを押して廊下を駆けてくる。


 そこにミアが慌ただしく駆け寄ってきた。


「容体は?」


「無線で連絡した通りです、カーター先生。急性テリオン粒子中毒で既に細胞が──」


 ミアは患者に付き添ってそのまま病室に入っていった。


「カーター先生、忙しそうですね……」


「そう、だね……」


 ファティマは呟くようにそう言い、サマエルは怯えた様子だった。


「ファティマ・アルハザードさん。お待たせしました。診察室へどうぞ」


 それから随分と時間が経ち、ファティマたちがミアの診察室に呼ばれる。


「こんにちは、カーター先生」


「すまない。待たせてしまったね」


 ミアは今まで急患の相手をしていただろうに疲れた様子は見せず、ファティマの診察に応じた。医者とは軍における指揮官のようなもので、医者の不安は患者に伝わるためだろう。特に軍医はそうだ。


「さて、前回の診察から幾分か経ったので君の体内のテリオン粒子の濃度について調べたい。テリオン粒子は自然排泄されることはないが、君はテリオン粒子の健康被害が見られなかった。確認したいんだ」


「分かりました。大丈夫ですよ」


「ありがとう。では、検査室へ行こう」


 そして、ファティマが再びテリオン粒子に関する検査を受けることとなった。


 旧式の古い検査機器が音を立てて検査着に着替えたファティマをあらゆる角度から調べ、その体内に存在するテリオン粒子とそれによる健康被害を調べる。


「結果から言おう。テリオン粒子は減少していない。逆だ。増えている」


「そうですか……」


「だが、本当に健康被害はない。全くだ。君の体は健康そのものだと言っていい。それが分からない。医者としてあるまじきことだが、私の分からないんだ」


 検査の結果が表示されているタブレット端末──病院の検査機器が旧式でZEUSに一部対応していないため──を睨むように見てミアが唸っていた。


「今は健康だからこれからも心配いらないとも言えないのが辛いところだ。テリオン粒子が人体に無害であるということなど絶対にない。影響が遅れて生じるだけかもしれない。そうなると事前に何かしら治療をすべきなのだが……」


「治療となるとどのようなものがあるのでしょうか?」


「基本的に対処療法しかないんだ。DNAの破損やタンパク質の三次元構造の変性によって生じるガンや代謝不全に対する治療しかなく、テリオン粒子そのものを除去することは今の我々の技術では不可能だ」


「ああ……」


「すまない。検査をした以上、それに対する治療を提言すべきなのだが、私たちには君に生じている異常を理解して説明することすらできないのだ。いや。テリオン粒子というものについてすら何も言えないのが現状だ」


 ファティマが見るからに落ち込むのにミアも同様に落胆していた。


「だが、もしかしたら君の体質が特異であり、君の体質を調べることで人類がテリオン粒子に勝利できる可能性もある。だから、君にはこれからも私たちに協力してほしいんだ。君を落胆させる結果に終わるかもしれないが、それでも」


「ええ。もちろんです。それは私自身のためでもあるのですから」


 ミアが力強く訴えるのにファティマも勇気を出して頷く。


「ありがとう。検査結果は専門の研究機関と共有したいのだが、構わないだろうか?」


「問題ありません。共有されてください」


「助かるよ。君はテリオン粒子研究におけるブレイクスルーになるかもしれない」


 ミアはそれからいくつかのファティマの体調に関する問診をしたのちに特に異常がいないことを確認してから診察を終えた。


「お姉さん。身体は大丈夫だった……?」


「ええ。健康そのものだそうです。異常はないと」


「そう。なら、いいんだけど……」


 サマエルはどこか罪悪感のあるような表情でそう呟いた。


……………………

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