マンハント//ナショナル・ヴィクトリー・タワー
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──マンハント//ナショナル・ヴィクトリー・タワー
ナショナル・ヴィクトリー・タワーは旧世界時代の建物だ。
国家の勝利など旧世界にしか存在しない言葉なのだから。
「ナショナル・ヴィクトリー・タワーにリバティ空軍基地の警備部隊が民間車両を利用して展開中。けど、どうもナショナル・ヴィクトリー・タワーそのものはテリオン粒子による汚染が深刻みたい」
「テリオン粒子、ですか……」
グレースの報告にファティマがミアの話していたテリオン粒子の恐ろしさを思い出して暗い表情を浮かべた。
「大丈夫。内部に取り込まれなければ影響はそこまで大きくない。防護装備は積んであるからそれを使って。なるべく短時間で済ませる」
「了解です」
ガーゴイルが運転するタイパン四輪駆動車はナショナル・ヴィクトリー・タワーを目指す。この周辺は危険なレベルのテリオン粒子汚染がよくあるのか警告の表示があちこちに表示されていた。
「ここら辺は汚染が酷いみたいですね」
「ええ。ある意味ではリバティ空軍基地の防衛になっている。汚染があるからあまりゲヘナ軍政府も
「それは確かに有効な防衛手段ではありますね」
グレースの説明にファティマが納得し、窓の外に広がるテリオン粒子汚染によって放棄されたいくつもの建物を眺める。
そこでサマエルが少し悲しそうな顔をしているのを見た。
「少佐、もうすぐだ。準備はいいか?」
「もちろん。ファティマ、あなたも準備して」
ファティマはグレースから促される。
「了解です。準備は万端ですよ。やってやりましょう!」
「威勢はいいな、新入り。まあ、頼りにしてるぞ」
ファティマにガーゴイルがそう告げ、一気に加速すると急停止した。
「到着だ。防護装備はトランクに積んである。急げ、急げ」
「もう汚染地域に近い。急いで」
ガーゴイルが降車すると同時にPDW-90個人防衛火器の銃口を周囲に向けてクリアリングを済ませ、グレースとファティマがタイパン四輪駆動車のトランクから防護装備であるガスマスクを取り出した。
「ガスマスクだけでどうにかなるんでしょうか……?」
「テリオン粒子は放射線汚染に似ていると言われている。そして、放射線汚染でも内部被曝が致命的になる。ガスマスクはないよりマシって程度」
「あれま。それは残念。覚悟を決めますか」
「ガーゴイル。あなたの分のガスマスク」
ファティマがガスマスクを装着し、グレースは装着してからもうひとつのガスマスクをガーゴイルに向けて投げた。
「サマエルちゃんも装備してください」
「うん」
ファティマがサマエルにガスマスクを渡す。
『ここからはZEUSを使って連絡を取り合う。ガーゴイル、あなたは
『了解。付いて来てくれ』
経験豊富なガーゴイルが先頭を務め、ファティマたちがナショナル・ヴィクトリー・タワーに突入する。
ナショナル・ヴィクトリー・タワーは商業ビルで旧世界の時代においてはIT企業や金融機関がオフィスを置いていた。
エントランスは古びているものの、かつて繁栄していた地上の様子を想起させる。
『エレベーターシャフトを見てみる。
『ブービートラップに気を付けて』
ガーゴイルがエレベーターの扉を開いてエレベーターシャフトを覗き込む。
『ダメだな。塞がれている。爆破したようだ』
『なら、階段ですね。時間はかかりますが他に手はありません』
『そうだな、新入り。階段を昇るは健康にいいぞ』
『テリオン粒子に汚染されてるじゃないですか、ここ』
ガーゴイルがからかうように言うのとファティマがため息交じりにそう返した。
『お姉さん。通信を妨害した方がいいかな……?』
『そうですね。できればお願いします』
『じゃあ、やるね』
そして、サマエルが通信妨害を開始。
『階段はこっちだ』
ガーゴイルは非常階段を選んだ。通常の階段はテリオン粒子による物質劣化の影響を受けて、崩壊しているし、崩壊していない場所も危険である。
その分、非常時のために頑丈に作られている非常階段は安定していた。
『オーケー。敵もここを昇ったようだ。人が通過した後がある。間違いなくブービートラップが設置されているぞ』
『任せていい、ガーゴイル?』
『ああ。信頼してくれ、少佐』
グレースが後方から援護する中、ガーゴイルが慎重に階段を上り、待ち伏せやブービートラップの備える。
『早速だな。解体する』
ブービートラップはワイヤーを使った古典的なものから、感圧センサーや赤外線センサーを使ったものなど様々だ。だが、ガーゴイルはその全てを把握しており、適切な方法で無力化していっていく。
『新入り。まだ情報部隊の通信は傍受してるのか?』
『ええ。してますよ。今は妨害してますが』
『タイムリミットがどの程度か分かるか? 分かるなら教えてくれ』
『情報部隊は今、脱出のための航空支援を要請しています。それの
『どうにかする』
ガーゴイルがテンポを上げて進み、最上階を目指す。
無数のブービートラップが行く手を遮るがそれらを手早く無力化し、ガーゴイルが作った道をファティマたちが昇っていった。
『止まれ』
しかし、突然ガーゴイルがファティマたちを止める。
『どうしたの?』
『カメラがある。最近取り付けられたものだ。恐らく生きてる。破壊するしかないが、破壊すれば敵に気づかれる。強行するか?』
『そうね。そうするしかないのであれば。気づかれても逃がしはしない』
そのガーゴイルとグレースの会話をファティマたちは聞いていた。
『お姉さん。カメラの映像を妨害できると思うけど……』
サマエルがそうファティマに恐る恐る申し出る。
『聞いてみます。グレースさん、カメラを妨害します。いいですか?』
『やって。すぐに』
『サマエルちゃん、お願いします!』
そして、サマエルがカメラの映像を妨害し、同じ映像をリピートして流させた。
『妨害、できたよ』
『本当に便利なものだな……』
ガーゴイルがサマエルの成果にそう呟くと階段を駆け上った。
『最上階が近い。準備してくれ。恐らくは敵がいる』
『了解』
ファティマたちはついにナショナル・ヴィクトリー・タワーの最上階に到達。
『少佐。ここからはどうする?』
『
『じゃあ、派手にかますか』
ガーゴイルは身を低くして最上階に突入し、素早く物陰に隠れ、同時に周囲の状況を素早く把握する。最上階はかつて展望レストランがあった場所でテーブルが並んでいるが、そこに人影は見当たらない。
だが、ガーゴイルは気配を察知していた。
『2名いる。投影型熱光学迷彩を使ってるが、こっちに気づいていない。よし、音響センサーで位置を把握した。そっちに転送する』
音響センサーで捉えた情報部隊の位置情報がガーゴイルからファティマたちに渡る。
『敵は全部で6名だから4名は屋上ね。片づけましょう』
『了解。急がないと逃げられます』
グレースとファティマがPDW-90個人防衛火器の銃口を情報部隊に向けた。
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