マンハント//警戒態勢
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──マンハント//警戒態勢
「お喋りするのはこっちに任せてくれ。俺たちは訓練を受けてる」
密輸組織の幹部の身柄をロダンに引き渡すとロダンはそう言って通信基地になっているトラックとは別のステーションワゴンに目標だった男を放り込んだ。
それから悲鳴が響く。
「何をしてるんでしょう?」
「尋問用の薬物と末梢神経刺激ナノマシンの組み合わせってところね。公安は基本的に友軍の勢力圏で尋問をやるから装備は整ってる」
「ああ。効果はありそうですね」
薬物とナノマシンを使った尋問は崩壊前の旧世界の時代から行われているが、調整には専門家が必要になる。基本的に敵地で行えるものではない。
「サマエルちゃん。チョコレート食べますか?」
「ありがとう、お姉さん」
ロダンたち公安の私服捜査官たちが15分ほど時間をかけて尋問を実施し、その間ファティマたちは使用した銃火器の手入れと軽い栄養補給を済ませた。
「男が情報を吐いた」
ロダンがバンを降りてそう言う。
「侵入したエデン統合軍参謀本部情報総局の情報部隊は6名。目標はフォー・ホースメンのリバティ空軍基地の偵察だ。密輸組織が渡した偽装IDのデータもある。連中が使用している車両のIDも」
「では、警告を出しましょう。その情報をパトロール部隊に流す」
「生け捕りに出来なくなる可能性があるぞ」
「リバティ空軍基地はうちの虎の子の航空部隊がいる。そんな場所で覗き屋はごめんなの。分かる?」
「あーあ。じゃあ、そっちに情報を渡す。こっちはこっちで独自動くから好きにしてくれ。ここからはそれぞれ自分のゲームをプレイだ」
「ええ」
ロダンは肩をすくめてグレースのZEUSの情報を送り、その場でグレースたちと別れた。公安は公安でこれから関係した人間などを捜査して、適切な処理を行うことになるだろう。殺害するにせよ、尋問するにせよ、寝返らせるにせよ。
文字通り彼らのゲームをプレイするのだ。
「
『
グレースがイーグル基地の司令部に連絡し、そこからリバティ空軍基地の司令部に通信が中継された。
『こちら
「こちらバーゲスト・アサルトのナイトストーカー。作戦行動中にエデン統合軍参謀本部情報総局の情報部隊に関する情報を入手。それによれば情報部隊の目的はリバティ空軍基地の偵察の模様。警戒されたし」
『
リバティ空軍基地の司令部が隷下のパトロール部隊に警報を発令。
「ナイトストーカーから
グレースはさらに連絡してファティマたちを振り返る。
「最後までやる。このままパトロール任せってのは趣味じゃない」
「了解です。やりましょう」
グレースの言葉にファティマが頷いた。
「ガーゴイル、車両を要請して」
「既に要請してある。
ガーゴイルがグレースにそう報告するとハミングバード汎用輸送機が市街地戦仕様のタイパン四輪駆動車を下げて現れた。反重力エンジンが唸りを上げて機体をホバリングさせ、ゆっくりと車両を地面に降ろす。
『ハーピーからナイトストーカーへ。お届け物だよ』
「助かる、ハーピー」
タイパン四輪駆動車を固定していた器具が外れるとバーゲスト・アサルト所属のハミングバード汎用輸送機は飛び去っていった。
「あのパワード・リフト輸送機で向かうという手段もあったのでは?」
「敵に警戒されたくない。既に現地のパトロール部隊が捜索を開始しているだろうし、敵は撤退を決断する可能性がある。その時にあんな大きなパワード・リフト輸送機なんかに乗っていれば?」
「敵に先に発見される恐れがある、と。確かに相手は6名です。こちらは4名でうち1名は非戦闘員。奇襲は重要です」
「理解は早くて助かる。乗って。リバティ空軍基地に向かう」
「了解」
ファティマはガーゴイルが運転するタイパン四輪駆動車に乗り込み、リバティ空軍基地がある地域を目指した。
「現地上空をケツァルコアトル戦略級無人偵察機が飛行している。その情報をダウンロードしているから、そっちでも見ておいて
グレースがそう言いファティマたちの端末に、高高度を長時間滞空して画像情報及び合成開口レーダーなどのセンサーによる情報を取得するケツァルコアトル戦略級無人偵察機が取得した情報を送る。
「こんな高度な装備まで持ってるんですね」
「これを運用していたMAGの部隊ごとこっちに寝返ったから」
「あれま」
どうやらゲヘナでは正規軍はおろか
「現地で大規模な軍事行動は起きていないようですがパトロール部隊は展開を?」
「ええ。リバティ空軍基地は重要施設だから警備が厳重。基地そのものにも、基地の周りにも普通のパトロール部隊は当然として公安の私服も大勢いるはず。でも、敵も訓練されているからそう簡単には捕まらない、はず」
「となると、観測地点を逆算しないといけないですね」
「疑わしい建物はいくつかある。でも、全て巡るのは無理」
ファティマのZEUSにグレースがマークした建物が示された。ケツァルコアトル戦略級無人偵察機からの映像の上に上書きされる形でリバティ空軍基地が監視できる建物がマークされている。
「絞る必要がある、と。ふむ……」
「お姉さん。お姉さんたちが探している部隊の通信が傍受で来たかもしれない……」
「お! 本当ですか? では、早速こちらにも転送してください」
「うん」
サマエルが傍受した通信がファティマのZEUSに流れた。
『デビルフィッシュ・ゼロ・ワンより
『こちら
『デビルフィッシュ・ゼロ・ワン、了解。偵察を続けるが脱出手段を要請しておく。現在地に変更はなし。ナショナル・ヴィクトリー・タワー最上階だ』
ファティマは最後の通信文を抽出してグレースとガーゴイルに転送した。
「どうやら敵の位置が分かったみたいですがどうでしょう?」
「どうやって傍受したんだ?」
「サマエルちゃんのおかげですよ」
「ああ。バーロウ大佐が言ってたな……」
ガーゴイルはそう言いグレースの判断を待つように彼女の顔を見る。
「ガーゴイル。ナショナル・ヴィクトリー・タワーに向かって。私は現地のパトロールに気づかれないように展開するよう要請を出しておく」
「了解、少佐。急ぐぞ。敵は逃げようとしている」
グレースの命令を受けてガーゴイルがアクセルを踏み込み、装甲化され重量のある市街地戦仕様のタイパン四輪駆動車が加速した。
「敵が逃げる場合、生け捕りは諦めますか?」
「ええ。死体以外の形でゲヘナ軍政府に帰すつもりはない」
ファティマの確認にグレースはそう言ってHW57自動拳銃のチャンバーを確認し、初弾をチャンバーに送り込んだ。
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