マンハント//密輸組織

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 ──マンハント//密輸組織



 問題の密輸組織はその拠点をかつて貨物駅だった場所に置いていた。


 貨物駅としての機能は既にないが、大量の廃棄されたコンテナと倉庫は密輸品を隠すのにうってつけのように思われた。


「戦術級偵察妖精展開」


 すぐさまグレースが戦術級偵察妖精を展開し、上空からの映像をファティマ、ガーゴイルとZEUSを通じて共有する。


「旧貨物駅の情報はロダンから受け取ったのを送った。把握して」


「オーケー。把握しました」


 ロダンたち公安が把握していた旧貨物駅の情報をファティマたちが共有し、立体構造を把握した。公安がいつこのデータを採取したかは知らないし、完全にこのままではないだろうが、目安にはなる。


「少佐。そっちの新入りと投影型熱光学迷彩を使用して動くなら俺は別動隊として動いた方がいいだろう。どうする?」


「ええ。あなたは別動隊として動いて、こちらを援護してもらう。私たちは西の倉庫付近のフェンスから、そちらは東の廃棄されたコンテナの密集地から、それぞれ侵入する。位置について」


「了解」


 ガーゴイルはグレースの命令を受けて素早く侵入地点に向けて駆けた。


「私たちも急ぎましょう」


「あの、ガーゴイルさんはどうして別行動を?」


「彼はガンマ級低位魔術師だから投影型熱光学迷彩を使えない。だからよ」


「特殊作戦部隊の作戦要員オペレーターにしては珍しいですね」


「彼は魔術が使えないくらいで役に立たなくなる人材じゃない。他の面で秀でた戦士よ。だから、いつも頼りにしている。さ、お喋りは終わり。援護して」


「了解」


 グレースを先頭にファティマとサマエルが続く。


「お姉さん。この周囲の通信を傍受してるよ。後、妨害はした方がいい……?」


「ありがとうございます。ですが、通信妨害はまだいいです。下手に妨害すると警戒される恐れがあります」


「分かった」


 そして、サマエルから密輸組織の通信が転送されてきた。


『なあ、マジで大丈夫なのか? あいつらゲヘナ軍政府の連中だろ。フォー・ホースメンを裏切ったら報復されるぜ』


『ちょっとした小遣い稼ぎに文句は言われないよ。実際、こうして密輸品を扱ってるのに摘発されたことなんてないだろ?』


『そりゃそうだけどさ』


 密輸組織の構成員たちの会話をファティマたちが盗み聞きする。


「流石ね。敵はまだ警戒してないし、エデン統合軍参謀本部情報総局の情報部隊の潜入に力を貸している。締め上げてやりましょう」


「ええ」


 ファティマたちはグレースに先導されて旧貨物駅に周囲に張り巡らされたフェンスをエネルギーブレードで開いて侵入。


「投影型熱光学迷彩を展開」


 そして、投影型熱光学迷彩で姿を消し、内部を進む。


『拘束すべき目標の生体認証データを送った。それ以外は皆殺しにする』


『了解。殺していく』


 グレースが指示し、ガーゴイルが別動隊として動きながら了解。


『前方に構成員2名。武装してる。殺して進む。左をやって』


『分かりました。では、そちらは右を。3カウント』


 グレースとファティマはエネルギーブレードを形成し、2名の密輸組織構成員に背後から接近。2名の構成員はお喋りをしながらコンテナの荷物を数えている。在庫の確認作業中のようだ。


『3、2、1、ゴー』


 グレースがカウントし、ファティマがカウントに合わせて背後から構成員を奇襲。口を塞いで喉笛を引き裂き、心臓と腎臓を素早く貫くと構成員が持っていた銃を奪ってからもう一度腎臓を突き刺した。


『グッナイ』


 ファティマが出血性ショックで死亡した構成員を音を手ないようにゆっくりと地面に降ろし、そしてコンテナの中に隠しておく。


『このまま前進。ガーゴイルがそろそろ廃コンテナ群から出る。彼と連携する』


『了解です』


 ガーゴイルは廃コンテナ群周辺の密輸組織構成員を排除していた。ふたつの方向から密輸組織の拠点であろう倉庫と事務所が一体になった建物に向けて進む。


『少佐。外の敵は掃討した。これから事務所内に侵入する』


『分かった。そろそろこちらも突っ込む』


『間違って撃たないでくれよ』


 ガーゴイルとの通信後、グレースがファティマたちの方を向く。


『ファティマ。通信妨害を頼める? 一気に畳むから』


『了解。サマエルちゃん、通信妨害をお願いします』


 ファティマが依頼し、サマエルが通信妨害を実施。


『通信を妨害してるよ、お姉さん』


『通信妨害中です、グレースさん』


 密輸組織の使っている通信ネットワークが遮断された。


『おい。ネットが切れたぞ? どうなってるんだ?』


『クソ。またかよ。回線業者が手抜きしてやがるんだ。苦情を入れてやる。……ああ? 全部繋がらなくなってるぞ?』


 一帯の通信が全て遮断されていることに密輸組織が気づき始める。


『敵が通信妨害に気づていますよ』


『大丈夫。すぐに終わる』


 グレースは倉庫と事務所が一体になった建物の裏口のひとつの脇に立つ。


突入ブリーチする。3カウント』


『了解。3カウント』


 グレースとファティマが配置に就き、グレースがエネルギーブレードを金属製の頑丈なドアノブに向ける。


『3、2、1、ゴー』


『ゴー!』


 グレースがドアノブをカギごと破壊し、同時にファティマが赤いエネルギーシールドを展開した状態でPDW-90個人防衛火器を構えて倉庫内に突入ブリーチ


「なっ……!」


「敵襲だ! 構え──」


 ファティマは瞬時に密輸組織の構成員を生体認証し、確保する必要のない構成員に向けて銃弾を叩き込んだ。装甲を貫く口径5.7ミリ弾は構成員が装備していたボディアーマーを容易に貫通して死に至らしめる。


『目標を視認。あいつは殺さないで。私が確保する。援護をお願い』


『了解です!』


 後から突入ブリーチしたグレースが密輸組織で確保すべき構成員をZEUSの拡張現実AR画面でマークし、PDW-90個人防衛火器でファティマと抵抗を試み、そして拘束する必要のない構成員を射殺しながら倉庫内を進む。


「畜生! 訓練されてやがる! フォー・ホースメンだぞ!?」


「な、何で連中が俺たちを──」


 密輸組織構成員がCR-47自動小銃を構えて乱射するがファティマとグレースはエネルギーシールドで敵の銃弾を防ぎ、逆に構成員たちを次々に射殺した。


『目標が逃走を図ってる。雑魚はすぐに始末して進む。いい?』


『すぐに撃破します。気を付けてください。荒っぽくなりますよ! “赤竜”展開!』


 グレースの指示にファティマが“赤竜”を展開し、一斉に十本の“赤竜”の刃が密輸組織の構成員たちに襲い掛かる。


「なんだよ、これ──」


「に、逃げ──」


 赤いエネルギーブレードが舞い、血が踊った。倉庫の壁に血液と肉片が貼り付き、床は血に染まっていく。


『攻撃に注意して。目標に近づいている』


『分かってます。しかし、目標は雑魚を盾にしてますね』


 グレースも銃撃を繰り返しながら進むのにファティマが逃げる目標を見て告げる。


「クソ、クソ、クソ! 殺されてたまるかっ!」


 目標の男は他の構成員を盾にして逃走中。倉庫内をファティマとグレースから逃げ回り、倉庫から事務所に出る扉に到達し、それを開いた。


 その顔面に強力なパンチが一撃。男が鼻血を流して地面に倒れる。


『捕まえた。少佐、こっちは片付ている』


『グッジョブ、ガーゴイル。ここの連中を掃討したら撤退しましょう』


 ガーゴイルが目標の男に手錠をかけると掃討戦が始まる。


 倉庫では銃声が5分ほど響き、やがて不意に静かになった。


……………………

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