マンハント//私服捜査官

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 ──マンハント//私服捜査官



「フォー・ホースメン支配地域の治安は基本的に所属する兵士が守ってる」


 グレースが移動用に使用している古いSUVの助手席から言う。運転席にはガーゴイルで彼が運転していた。


「けど、対テロや防諜の類には専門部署が憲兵内部に存在する。憲兵の公安部ね。その公安部の私服捜査官が情報部隊を追っている」


「その方と合流ですか?」


「そう。彼らのカバーが剥がれないように慎重に接触する。お喋りは最小限」


「了解」


 私服捜査官は公安所属。彼らは自分たちが憲兵だと気づかれないように偽のIDで行動している。その偽装が剥げないように行動する必要がファティマたちにはある。


 タイパン四輪駆動車ではなく、民生品のSUVを足に使っているのもそういうわけだ。


「少佐。合流予定の場所だ。俺は周辺を見張ってる」


「任せたわ、ガーゴイル。行きましょう、ファティマ」


 古びた喫茶店の前にSUVを停めるとガーゴイルは油断なく車内から周囲を見渡し、グレースはファティマたちを連れて降車し、喫茶店の扉を潜る。


 喫茶店内は中年のジャージとジーンズ姿の男がテーブル席でコーヒーを飲んでおり、他に客はいない。ひとりしかいない店員はやる気なさそうに椅子に座っていた。


「ロダン。あなたの友人からの紹介で来た。人が必要だと聞いている」


「歓迎する。仕事ビズについて話すのはここでは不味い。移動する」


「分かった」


 ロダンと呼ばれた男は瞬時にグレースとファティマを生体認証して席を立ち、店員に見せの端末にコーヒー代を送信して店を出た。


「こっちだ。車にいる奴にも来るように言ってくれ」


「ガーゴイル。一緒に来て」


 説明しなくともロダンはSUVにいるのがグレースの部下だと見抜いたようだ。ガーゴイルが車を降りてグレースたちに続く。


「俺だ。人を連れて来た」


 ロダンを先頭に暫く街を進むとロダンが路上に止めてあった運送会社のロゴが付いたトラックの運転席の窓を叩き、中の人間を呼んだ。


 トラックの後部ドアが音を立てて開き、中にいた40台ほどの女性が手招きしてファティマたちをトラックの中に入れる。


「ようこそ、バーゲスト・アサルト。あんたらが来てくれて助かる」


 トラックの中は移動式の通信基地になっており、電子情報の傍受と管制を行っているフォー・ホースメンの技術将校が2名いた。いずれも軍服ではなく運送会社の制服だ。他はロダンと中年の女性という公安の私服捜査官である。


「そちらが敵の情報部隊を見つけたと聞いている。ある程度特定を?」


「ある程度、だ。見つけたのは3名。ソドムから買ったエデン統合軍参謀本部情報総局所属の軍人の生体認証データと一致。こいつらだ」


 グレースが尋ねるのにロダンが情報をグレースのZEUSに送信。


「だが、3名だけで侵入というのは考えにくい。この手の覗き屋は単独か2名、あるいは団体客だ。3名は中途半端だ。バックアップがいる可能性が高い」


「その手の話はそっちの専門ね。軍事的な偵察任務とは違う。しかし、そちらだけでは解決できないと聞いてきたのだけれど何をすれば?」


 ロダンの公安捜査官なだけあってスパイについては詳しいようだ。


「こっちは荒事ができる人間が少ない。俺たちが想定している敵はせいぜい自動拳銃程度で護身しているだけの脆弱な目標の拘束と利用だ。だが、こいつらはあんたらのご同業だよ。特殊作戦部隊の作戦要員オペレーター


「なるほど。確かに専門家の手が必要になりそうな案件」


「そう、こっちは探すのが専門。戦うのはついでだ。で、手伝ってほしい。連中のバックアップが存在するとすれば下手に手を出すと不味いことになる。そこで周りから潰していく。まずは拠点を与えた人間からだ」


「それについての情報を」


「送った。拠点を与えたのは密輸業者だ。ソドム系列じゃない。フリーの連中で酒と武器をやり取りしてる。これまでは大したことはない見逃していたが、どうやらそれで調子に乗ったらしい」


「それはおしおきが必要ね。それもとても痛い奴が」


「だな。そいつらも武装してるし、静かにやらないとスパイどもに伝わる。こっちでも援護はするが、そっちに任せていいか?」


「ええ。そのために来たのだから」


 ロダンの提案にグレースが頷く。


「では、早速向かおう。頼むから静かにやってくれよ。それから皆殺しにはしないでくれ。尋問をしてスパイについて聞きだす」


「分かってる。問題はない」


「じゃあ、出すぞ」


 グレースの同意を得てロダンが運転席の公安捜査官に連絡。トラックが走り出した。


「そっちは新入りだろう? ファティマ・アルハザード」


「どうもよろしくお願いします」


 当然公安はファティマについて調べている。まして兵舎まで貸しているのだから。


「あんたに聞きたいことがあった。なんで追放された? 俺たちが調べても理由が出て来なかった。だが、あんたがゲヘナ軍政府に犯罪者として引き渡されたのは確認している。まさかとは思うが偽装工作じゃあないよな?」


「それは職業病ですか? 私はMAGのコントラクターを大量に殺してるんですよ?」


「MAGのコントラクターなんて下っ端は使い捨てディスポーザブルな駒だろ」


「やれやれ。では、どう身の潔白を証明すればいいのですか?」


「追放された原因を教えてくれ」


 呆れるファティマにロダンが尋ねる。


「ボクのせいだよ……。ボクのせいでお姉さんは……」


 そこでサマエルは小声でそう言った。


「あんたも謎が多いな。一切の情報がない。あんたは何者だ?」


「……分からない」


「なんだそりゃ」


 サマエルの答えにロダンが呆れた。


「しかし、エデンの連中の恐ろしいところは人材を簡単に使い捨てディスポーザブルするってところだ。党員じゃない人間は人間に非ずって感じでな。だが、子供を使った偽装工作にしてはお粗末だ」


「それは偽装工作してないですからね。少なくともジェーンさんは私の状況を把握していると思いますけど」


「ジェーン・スミスか。あいつも胡散臭い女だぞ。あいつはエデン社会主義党の党員だったようだからな。だが、どういうわけか追放された。以後、エデンやゲヘナ軍政府とは接触してないから見逃してるものの」


「党員だったのですか? 彼女が?」


「ああ。今は記録が抹消されている」


 ジェーンは元エデンの住民どころか党員だという。エデンにおいても限られた数でカーストの上層に位置する。ロダンが言ったようにエデンでは党員でなければ人間ではないというぐらいだ。


「お喋り好きだな、本当に」


「適切なコミュニケーションは生き残るコツです。そう教わりました」


 ガーゴイルがファティマの話を横で聞きながら愚痴るのにファティマがそう返す。


「ところでガーゴイルさん。そのマスクの下はどうなっているのですか?」


「見せる気はないし、教える気もない。黙って仕事ビズをやれ、新入り」


 ファティマが尋ねるがガーゴイルはそう返して叱った。


「彼はハンサムすぎるから顔を隠してるの。女の子がみんな惚れちゃうから」


「少佐。馬鹿みたいなことを言わないでくれ……」


 珍しくグレースがジョークを言うのにガーゴイルが気まずそうにする。


「私は好きだけど、あなたの顔」


「物好きだな」


 グレースの言葉にガーゴイルが肩をすくめた。


「そろそろだ。武器は持ってるよな? 相手はそれなりに武装してるぞ」


「問題ない」


 グレースたちは下げていたカバンからPDW-90個人防衛火器を取り出し、チャンバーに初弾を送り込んで発砲可能にする。マガジンに詰まった40発の口径5.7ミリ徹甲弾が装填された。


 さらにそれにサプレッサーを装備させる。


「準備完了」


「こちらで把握している限りの情報をそっちに送った。なるべく価値の高い人間を生け捕りにしてくれ。頼むぞ」


「任せて」


 ロダンが言うのにグレースを先頭にファティマたちがトラックを降りる。


……………………

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