マンハント//救援阻止

……………………


 ──マンハント//救援阻止



『クソ。通信が繋がらない。どうなってるんだ?』


『テリオン粒子は関係ない、よな? あれがあると通信に障害が出るって話を聞いたことがあるんだが……』


『分からん。とにかく引き上げて、合流を──』


 そこでサプレッサーに抑制された銃声が響き、会話をしていたエデン統合軍参謀本部情報総局所属の準軍事作戦要員パラミリの頭部を口径5.7ミリ徹甲弾が弾き飛ばした。2名の兵士の脳漿が展望レストランのガラスに散る。


『クリア』


『クリア』


 2名の兵士を射殺したファティマとグレースが投影型熱光学迷彩が解除されて現れた兵士たちの死体を見て告げる。


『T-4201強化外骨格の装甲強化モデル。服装は軍装じゃないけどこんな装備しているのはゲヘナ軍政府か民間軍事会社PMSCの連中だけ』


『ビンゴですね』


 ファティマたちが射殺した2名の兵士は一般人の服装をしていたが、その上からT-4201強化外骨格を装備し、サプレッサーが装着されたMTAR-89自動小銃で武装していた。


『少佐。音響センサーが上階に動きを感知している。屋上に残りの連中だろう』


『オーケー。ガーゴイル、先行して。援護する』


『了解』


 ガーゴイルが非常用のヘリポートが設置されている屋上に続く階段を慎重に上り、屋上の様子を窺う。


『敵だ。4名で狙撃班がいる。それからパワード・リフト輸送機の反重力エンジン音が遠方から検出されている。恐らくハミングバード汎用輸送機が近づいてる』


 屋上には情報部隊の兵士4名がいた。


 開けたヘリポートがある屋上には2名は狙撃手と観測手でペアを組んで狙撃班を構成しており、他の2名は通信アンテナを広げた長距離通信機を弄っている。投影型熱光学迷彩は使用していない。


『敵は脱出するつもりね。阻止しないと』


『突っ込むか?』


『イエス。派手にやって』


『アイアイ、マム。3カウント』


 先頭に立っているガーゴイルがスタングレネードのピンを抜く。


『3、2、1、ゴー』


 投擲。そして、閃光と爆音。


『クソ! 敵襲!』


『迎えのリムジンはまだか!?』


 4名の情報部隊の兵士が応戦を試みて装備している銃火器の銃口をファティマたちに向けてくる。視覚と聴覚を奪われた状態で兵士たちが銃火器を乱射し、屋上のヘリポートに弾幕が展開された。


『続いて、ガーゴイル、ファティマ』


『任せてください!』


 グレースがエネルギーシールドを展開して銃弾を弾き、さらにファティマが赤いエネルギーシールドに加えてクラウンシールドを展開させて突進する。


『突っ込んできたぞ!』


本部HQ本部HQ! クソ、応答しない!』


『こうなったら何でもいいから火力を叩き込め!』


 4名の兵士が電子励起爆薬の手榴弾や何やらをファティマに向けて使用。激しい爆発が何度もヘリポートで生じる。


『効きません!』


 ファティマはその爆発の嵐の中を突破。


 PDW-90個人防衛火器の銃口を兵士たちに向けた。


 PDW-90個人防衛火器はその名前のように護衛用の銃火器だ。使用するのは後方の兵士や戦車兵、パイロットなどだ。


 そのため射程は短い。その短い射程の武器をさらに短くしているため近接しなければ確実な殺傷効果が及ぼせなくなっている。そのためファティマは近接したのだ。


『大尉殿! 友軍のパワード・リフト輸送機が来ました!』


『通信は回復したか!?』


『部分的に行えます!』


近接C航空A支援Sを要請だ!』


 そして、混乱のただなかにあるヘリポートにハミングバード汎用輸送機が接近してきた。武装として口径70ミリ19連装ロケットポッドを下げている機体で、さらにヘカトンケイル強襲重装殻4体を下げている。


『フィッシュボート・ゼロ・ワンよりデビルフィッシュ・ゼロ・ワン。近接C航空A支援Sを実施する。デンジャークロース!』


 そのハミングバード汎用輸送機がロケット弾を一斉にヘリポートにいるファティマに向けて発射した。次々に放たれる対戦車榴弾HEAT弾頭のロケット弾が炸裂し、火山が噴火したように炎が吹き上げる。


『やったか……?』


 隠れていた情報部隊の兵士たちが前方を見つめた。ヘリポートは爆発で生じた煙と炎に覆われており、熱光学センサーでも詳細な情報が得られない。


 そこで情報部隊が展開していたエネルギーシールドに爆発が起きた。電子励起爆薬を使用した戦闘工兵用梱包爆薬だ。


『敵は生きてる! 応戦──』


 エネルギーシールドが一時的に砕かれた瞬間、口径5.7ミリ徹甲弾が飛来して情報部隊の兵士の頭が貫かれて射殺された兵士が崩れ落ちる。


『ガッチャ』


 爆発の熱と煙に紛れて肉薄したガーゴイルの仕業だ。


『接近されてる! 排除しろ!』


 情報部隊がガーゴイルを銃撃し、ガーゴイルは強化されている099式強化外骨格の装甲で銃弾を弾き、人工筋肉よって素早い回避行動を取る。


『ガーゴイル。気を付けて。ハミングバード汎用輸送機が上空に来てる』


 グレースから警告が飛び、ヘリポート上空に到達したハミングバード汎用輸送機が4機のヘカトンケイル強襲重装殻を投下。


『友軍全部隊へ。現在作戦地域に展開したアーマードスーツは全てゴースト機だ。友軍誤射ブルー・オン・ブルーに警戒せよ』


 4機のアーマードスーツはゴースト機──本来有人機であるものを無人運用しているものである。戦闘AI代わりの妖精によって制御されて行動する。


『少佐! こっちで捕虜を取る! アーマードスーツとパワード・リフト輸送機をそっちでどうにかしてくれ!』


『任せて、ガーゴイル。こっちで始末する』


 ガーゴイルが情報部隊に肉薄して脱出を妨害し、グレースは展開したアーマードスーツに対して電磁パルスグレネード弾を投擲。


 しかし、アーマードスーツのアクティブA防護PシステムSが高出力レーザーがグレネード弾を迎撃して不発に終わる。


『それは読めてる』


 グレースは電磁パルスグレネード弾を迎撃したアーマードスーツにエネルギーシールドを使って強引に肉薄し、エネルギーブレードをパイロットシートに叩き込んだ。それによってゴースト機を管制している妖精が消失し、機能を停止。


『危ないです、グレースさん!』


 他の3体のヘカトンケイル強襲重装殻が友軍機を攻撃したグレースを狙おうとするのをファティマがクラウンシールドで阻止する。


『やらせません!』


 口径40ミリ機関砲の放つ砲弾をクラウンシールドが弾き、同時に発射されたロケット弾もインターセプト。全ての攻撃が無力化された。


『助かった、ファティマ』


『後は任せてください! 片付けます! “赤竜”!』


 十本の赤いエネルギーブレードがファティマを中心に展開する。


『あれは何だ……?』


『地上部隊との連絡途絶。クソ、不味いぞ。アーマードスーツに連中を排除させる。こちらでも援護を実施だ!』


 上空援護機の武装したハミングバード汎用輸送機が旋回し、3体のヘカトンケイル強襲重装殻が全ての武装をファティマへと向けた。


『全て破壊します』


 ファティマの展開した“赤竜”の刃は赤い。


 そして、重度のテリオン粒子汚染地帯であるナショナル・ヴィクトリー・タワーの付近の空気にもその赤さが混じっていた。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る