ファミリービジネス//暴走特急

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 ──ファミリービジネス//暴走特急



「くたばれ、クソ野郎」


 SRAT-140携行対戦車ロケットを構えたジェリコのコントラクターが装着されている熱光学照準器でデフネが乗っ取ったバルバロイ歩兵戦闘車を狙う。


『はあ。歩兵はちまちましてて面倒くさい。纏めて轢き殺してあげよっか!』


 デフネは細心の装備であるバルバロイ歩兵戦闘車にアクティブA防護PシステムSが搭載されており、歩兵が運用する携行対戦車ロケット弾の類は迎撃できることを知っていた。


 だが、デフネがこの歩兵戦闘車IFVを制圧するために使った焼夷手榴弾がその機能を破損させているということに気づいていない。


「目標、ロック。後方注意!」


「やっちまえ!」


 無限軌道をアスファルトに響かせ進むデフネの乗った歩兵戦闘車IFVにSRAT-140携行対戦車ロケットの引き金が引かれ、装甲を引き裂くのに十分な威力のタンデム対戦車榴弾HEATが叩き込まれようとした、その時。


「え……──」


 推進剤が点火され、ランチャーの中で加速していたロケット弾が突如として飛来した赤いエネルギーブレードによってランチャーごと切断され、主力戦車も撃破可能なだけの爆薬がランチャー内で暴発。


「ぎゃっ──」


 大爆発を起こしたロケット弾は射手の上半身を完全に吹き飛ばし、周囲にいたジェリコのコントラクターたちを殺害した。


『お! 援護、サンキュー、お姉ちゃん!』


『お安い御用です』


 デフネの操る歩兵戦闘車IFVが暴れる場所から僅かに離れた地点に十本の赤いエネルギーブレード“赤竜”とクラウンシールドを展開したファティマが立っていた。


 そして、その背後には“赤竜”によってめった刺しにされて炎上する2台のバルバロイ歩兵戦闘車の残骸だ。随伴歩兵が離れ、さらに戦術リンクによる情報共有をサマエルに妨害されている彼らを仕留めるのは容易だった。


『さあ、皆殺しだよ!』


 既に友軍歩兵戦闘車IFVを喪失し、指揮官を狙撃され、通信も妨害を受けていたジェリコの治安回復部隊が、デフネの乗っ取ったバルバロイ歩兵戦闘車と万全のファティマに勝てるはずもなかった。


 今や轢き殺され、撃ち殺され、斬り殺されたジェリコのコントラクターがその躯を廃墟の広がる通りに晒している。


「お姉ちゃん! 思ったよりやるじゃん! ナイスだったよ!」


 そして、そんな地獄絵図の中、デフネがバルバロイ歩兵戦闘車の車長キューポラから顔を出してファティマの方を向き、笑顔でサムズアップした。


「けど、フォー・ホースメンから噂に聞いていた妙な代物ってのはそれのこと?」


 デフネの視線がファティマの周りに浮かぶ“赤竜”とクラウンシールドに向けられた。多くの血を吸ったかのように“赤竜”は赤く光り、クラウンシールドは全てを拒絶する意志を持っているかのようだ。


「ええ。そんなところですね。これはサマエルちゃんの力でもあるんですよ」


「へえ。そう言えばジェリコの通信を邪魔したのは、そこの陰キャなの?」


「その陰キャと呼ぶのは止めてください。サマエルちゃんはサマエルちゃんという名前があるのですから」


「ふふ。過保護なお姉ちゃんだ」


 ファティマが眉を歪めるのにデフネがからかうように笑った。


「じゃあ、このデカい車でジェリコのお宅訪問と行こうよ。乗りな、お姉ちゃん!」


「タンクデサントと行きましょう。わざわざ降車してる暇はないですし、この歩兵戦闘車IFVアクティブA防護PシステムS壊れてるみたいですから」


「げっ! マジ? あーっぶなかった!」


 ファティマがサマエルを抱えてバルバロイ歩兵戦闘車の砲塔後部に座った。この手の装甲戦闘車AFVの車外に歩兵が乗り込むことをタンクデサントと呼ぶ。


「私がアクティブA防護PシステムS代わりを務めます。随伴歩兵がいない装甲戦闘車AFVは脆弱ですしね。そちらは運転及び兵装の操作をお願いします。貴重な装甲戦力を手に入れたのですから大事に使いましょう」


「けちけちしたのは嫌いだよ。派手にやらなきゃ、ね?」


「やれやれです。ちゃんと生きて帰れるようにはしてくださいね」


「任せといて」


 そして、デフネがバルバロイ歩兵戦闘車の車長席に座った。


 バルバロイ歩兵戦闘車は操縦士や砲手が行動不能になった場合にも戦闘を継続できるように操作がAI及び演算用妖精によって支援されている。3名の乗員のうち、ひとりでも生きていれば戦闘行動が可能だ。


『出すよ! ここから一気に突撃して暴れまわって殺しまわるっ! あははっ!』


 バルバロイ歩兵戦闘車が全力で走行を開始し、ソドム支配地域とゲヘナ軍政府支配地域の間にある干渉地域を突破。


「お、おい。あれはうちのか……?」


「IDを識別。友軍だ。あいつら、何をやってる?」


 そして、ジェリコが担当している検問チェックポイントに近づくのにジェリコのコントラクターたちが暴走しているかのような速度で走行しているファティマたちの歩兵戦闘車IFVを見て困惑してる。


 だが、彼らが悠長に困惑してられたのは数十秒だ。


『死ね』


 検問チェックポイントに迫ったバルバロイ歩兵戦闘車の口径40ミリ機関砲がジェリコのコントラクターを血の霧に変えた。そのことにジェリコの生き残りたちが目を見開き、驚愕する。


「クソ! 攻撃してきたぞ! 応戦しろ!」


「ここに対戦車兵器はないぞ!?」


 そして、検問チェックポイントは瞬く間に蹂躙された。


 死体と軍用車両やアーマードスーツの残骸だけが残るその場所を無限軌道が踏みにじり、ファティマがその地獄を軽く眺めてバルバロイ歩兵戦闘車に乗って目的地のチャーリー・ゴルフ・フォー基地を目指す。


『死ね、死ね、死ね! もっと死ね!』


「畜生! アーマードスーツでぶちのめしてやれ!」


 ジェリコの警備部隊を手当たり次第に砲撃し、破壊と殺戮の嵐が巻き起こる。


「させませんよ!」


『対戦車ミサイルが迎撃された! 次弾、発射まで援護を──うわっ──』


 ジェリコの抵抗はファティマの操るクラウンシールドと“赤竜”によって粉砕され、ジェリコの部隊は撤退を始めた。


「お姉さん。ここら辺一帯の通信を妨害している。これでいいよね……? ボク、役に立ててるよね……?」


「もちろんです! 大助かりですよ、サマエルちゃん!」


 同時にサマエルが広域でジェリコの高度軍用通信を妨害したためジェリコの撤退は無秩序なものとなり、文字通りの指揮系統喪失からの壊走となり果てている。


『さあ、目的地だ! 突入ブリーチするよ!』


「了解です! 前方にクラウンシールド展開!」


 デフネが合図し、ファティマたちを乗せたバルバロイ歩兵戦闘車がチャーリー・ゴルフ・フォー基地のゲートに向けて突撃。


「来たぞ! 撃て、撃て!」


「くたばりやがれ!」


 ゲートではジェリコの守備部隊が混乱を把握して待ち伏せていた。


 SRAT-140携行対戦車ロケットを持った歩兵。ドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルを装備したヘカトンケイル強襲重装殻。果ては43口径90ミリ戦車砲を備えるドーマウス空挺戦車に至るまであらゆる対戦車兵器がファティマたちを迎え撃つ。


「全て迎撃しますから突っ込んでください!」


『ヤップ!』


 ファティマが展開したクラウンシールドがあらゆるロケット弾、ミサイル、砲弾の全てをインターセプトして無力化。ジェリコの守備部隊とファティマたちの間で爆発が生じ、空気が大きく揺れる。


「迎撃された!? 全て!?」


『次弾、装填! 急げ、急げ!』


 ジェリコの守備隊は次の攻撃を急ぐが──。


「行きますよ」


 クラウンシールドがファティマの赤いエネルギーシールドに結合し、エネルギーが凝集を始める。周囲の砂塵が舞い上がり、空気が帯電する。周囲に存在する兵器の射撃管制装置FCSの表示にノイズが走った。


「──シールドインパクト!」


 衝撃。熱波。破壊。殺戮。


……………………

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