ファミリービジネス//治安回復部隊奇襲

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 ──ファミリービジネス//治安回復部隊奇襲



 ファティマとデフネは時間を合わせ、簡単な作戦を立てると位置についた。


 デフネは歩兵戦闘車IFVに気づかれずに近づける路地裏に身を潜め、ファティマとサマエルは歩兵戦闘車IFVに随伴するジェリコのコントラクターを銃撃可能で、遮蔽物にもなるビルの窓際に潜む。


「お姉さん。えっと、ジェリコの通信を傍受した。そっちに転送するね……」


「お願いします、サマエルちゃん」


 早速サマエルがジェリコの高度軍用通信を傍受し、送信してきた。


『小隊長殿。ここらのグリゴリ戦線の連中は狩り尽くしちまったみたいですぜ』


『ああ。そうみたいだな。面倒なことになった。ここは楽に点数が稼げたんだが』


『違うところを見つけないといけないですね』


 どうやらここでのんびりしているジェリコの治安回復部隊は獲物であったグリゴリ戦線の戦闘員が見つからず、立ち往生しているようだ。


「索敵が行われる可能性がありますね。戦術級偵察妖精あるいはドローンの支援が行われる可能性があります。デフネさんに警告しておきましょう」


 ファティマたちが使用する偵察妖精はもちろん敵も使う。それに加えて対戦車ミサイルなどで武装したドローンを飛ばすこともある。


「デフネさん。敵は索敵を始める可能性があります。偵察妖精やドローンの目に気を付けてください」


『おや? お姉ちゃんはそんなことも分かっちゃうわけ? どうやったの?』


「サマエルちゃんのおかげですよ。感謝してくださいね」


 ファティマはデフネにそう言うとデフネからの合図を待った。


 計画ではデフネが敵の歩兵戦闘車IFVに攻撃を実行すると同時にファティマが随伴歩兵の注意を引くことになっている。


 先に歩兵戦闘車IFVだ。脅威は明らかにそちらであり、戦術においては常に脅威の高いものを優先して攻撃する。


「あの、ジェリコの通信はいつでも妨害できるよ?」


「では、攻撃開始と同時にお願いしますね」


 サマエルがジェリコの高度軍用通信に干渉可能な状態になった。


『準備完了だよ、お姉ちゃん。派手にやるからそっちもお願い。3カウント!』


「了解です」


 3秒のカウントが始まる。


 3、2、1。


『さあ、パーティークラッカーを鳴らせ!』


 そして、道路に停車していたジェリコのバルバロイ歩兵戦闘車の車長用ハッチから炎が吹き上げた。装甲車両の乗員だけを殺害し、車両そのものは無事に維持する焼夷手榴弾によるものだ。


 温度が調整されているので弾薬は誘爆せず、乗員だけが生きたまま焼かれる。


「オーケー。始めましょう。サマエルちゃん、通信妨害を!」


「分かったよ、お姉さん」


 ここにいるジェリコの治安回復部隊の通信が一切繋がらなくなり、見るかにジェリコのコントラクターたちが狼狽えていた。


「攻撃開始」


 ファティマは手榴弾を混乱しているジェリコのコントラクターたちに向けて放り投げる。手榴弾は以前も使ったキャニスター手榴弾で爆発によって鉄球が周囲に撒き散らされ、強化外骨格エグゾの装甲を貫いて殺傷効果を及ぼした。


「敵襲! 敵襲!」


「遮蔽物に隠れろ! 各自戦術級偵察妖精をすぐに上げて状況を把握! 急げ!」


 指揮官の声の届く範囲で急いで組織的な防衛を行おうとジェリコの治安回復部隊が動き始める。コントラクターたちは遮蔽物を探し、さらに戦術級偵察妖精を上げて、どこから誰が自分たちを狙っているかを把握しようとした。


「あれが指揮官ですね。さようなら、です」


 ファティマは投影型熱光学迷彩を維持したまま、まずは指揮統率を行う指揮官を仕留める。ちゃんとした熱光学照準器で正確に狙えば400メートル程度の距離なら狙撃銃など必要ない。


「軍曹! 本部HQに連絡──」


「小隊長殿!? クソ、指揮権を継承する!」


 1個機械化歩兵小隊には将校は大抵ひとりしかいない。その後の指揮を執るのは下士官になる。この下士官は下手な将校より経験があるので面倒だ。


「次はあなたですよ。グッバイ」


 ファティマが狙うのはその下士官。


 サマエルが通信を妨害しているので指揮を出すには近づいて大声を上げねばならなず、指揮を行っている人間は分かりやすく、そして狙いやすい。


「こちらラボラット・ゼロ・ツー! 本部HQ本部HQ! 応答──」


 部下を配置に就かせ司令部と連絡を取ろうと試みていた下士官の頭が口径7.62ミリの徹甲弾に貫かれ、ヘルメットごと貫かれた下士官が崩れ落ちる。


「軍曹殿! 指揮官死亡! 繰り返す、指揮官死亡! 誰が指揮を引き継ぐんだ!?」


 ジェリコの治安回復部隊は確かに楽なゲームに慣れ過ぎていたらしい。随伴歩兵は完全に奇襲され、混乱の真っただ中だ。


『ラボラット・ツー・ナインより小隊各員。音響センサーが狙撃手の位置を把握した。これより射撃を開始する。警戒せよ』


 そこで歩兵戦闘車IFVのうち、まだ撃破されていないものが通信を試みたのをサマエルが傍受し、すぐさまファティマが把握した。


「敵の攻撃が来ます! いきますよ、サマエルちゃん!」


「う、うん!」


 ファティマが投影型熱光学迷彩を解除し、赤いエネルギーシールドとクラウンシールドを展開して廃墟内をサマエルを連れて移動。


『攻撃開始、攻撃開始』


 ジェリコの治安回復部隊が装備しているバルバロイ歩兵戦闘車はMBT90主力戦車のシャーシを流用した重装甲の装軌式戦闘装甲車両AFVだ。


 主兵装として口径40ミリテレスコープ弾を使用する機関砲を備え、同軸機銃、車長用キューピラの無人銃座RWSに口径7.62ミリ機関銃を装備。またオプションで小型の対戦車ミサイルが搭載可能な兵器だ。


 ファティマたちを狙ったのは口径40ミリ機関砲だ。ファティマたちが隠れていた廃墟に叩き込まれた榴弾が飴細工のように建物を破壊していく。


『ラボラット・スリー・ナイン。射撃、射撃』


『ラボラット・ワン・ナイン! 近くにラボラット・ゼロ・ナインをやった敵の別動隊がいる! 警戒せよ!』


 ジェリコの治安回復部隊に所属する4台の歩兵戦闘車IFVのうち1台はデフネの手によって炎上し戦闘不能。2台はファティマを狙って攻撃を実施。1台は先にやられた1台の救助に動いている。


 そこで炎上していた歩兵戦闘車IFVの炎が消え、その砲塔がぐるりと旋回すると味方の歩兵戦闘車IFVにその口径40ミリ機関砲の砲口を向けた。向けられたのは救援を試みていた車両だ。


『お、おい。誤作動か? ラボラット・ゼロ・ナイン、そちらの兵装がこちらを向いている。友軍誤射ブルー・オン・ブルー防止のセーフティはどうした?』


 流石に友軍の車両なだけあって武器を向けられてもジェリコの歩兵戦闘車IFVの乗員は射撃を実施しない。そもそもこの手の兵器には友軍誤射ブルー・オン・ブルー防止のためのセーフティが組み込まれている。


 だが──。


『畜生! 何やってる、ラボラット・ゼロ・ナイン! 何を──』


 友軍に砲口を向けた歩兵戦闘車IFVが全速力で友軍の歩兵戦闘車IFVに突っ込んだかと思うとほぼゼロ距離射撃に近い距離で機関砲から装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSを叩き込んだ。


 砲弾が友軍歩兵戦闘車IFVの装甲を貫き、中にいた乗員を八つ裂きにし、砲弾を誘爆させた。攻撃された歩兵戦闘車IFVの砲塔から炎が吹き上げる。


「おい! 友軍誤射ブルー・オン・ブルーだ!」


「射撃をやめろ! クソ、通信はどうして繋がらないんだ!」


「引きずり降ろせ!」


 随伴歩兵が友軍を射撃した歩兵戦闘車IFVから乗員を引きずり降ろそうと接近すると無人銃座RWSに装備された機関銃がその歩兵を薙ぎ払った。


『バーカ! 皆殺しにしてあげる! お姉ちゃん、援護よろしく!』


「了解です」


 歩兵戦闘車IFVを乗っ取ったデフネから連絡が来るのにファティマが2台の歩兵戦闘車IFVの攻撃を引き付けながら移動する。


『車長、他の車両がトラブルを起こしているようですが……』


『何がどうなってる? 戦術リンクすら繋がらないぞ、クソ』


 2台の歩兵戦闘車IFVは状況が分からない。全てのデータ共有システムがサマエルのよって妨害されているのだ。


「さてさて。援護ですよ」


 ファティマはあまり正確と言えない2台の歩兵戦闘車IFVの攻撃をクラウンシールドで防ぎつつ、廃墟の中をサマエルとともに駆ける。


『あはっ! やっぱり大きな車は楽しい!』


 デフネは随伴歩兵に牙を剥き、彼らを攻撃し続けていた。


 機関砲も随伴歩兵を攻撃し、大口径機関砲弾が命中したジェリコのコントラクターの体が蒸発したように消滅し、大量の血が地面にぶちまけられる。


「クソッタレ! 誤射じゃない! 意図して射撃してる! 敵に奪われたぞ!」


「破壊しろ! 携行対戦車ロケット、準備!」


 だが、そこでSRAT-140携行対戦車ロケットを随伴歩兵が構えた。


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