ファミリービジネス//大きな車

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 ──ファミリービジネス//大きな車



 ソドムの仕事ビズを引き受けtあファティマとサマエル。


 彼女たちはソドムのボスであるアヤズの末の娘であり、ソドムの戦闘担当だというデフネに連れられてソドム支配地域の中をゲヘナ軍政府支配地域に向けて、タイパン四輪駆動車で進んでいた。


「フォー・ホースメン支配地域とゲヘナ軍政府支配地域の間には緩衝地帯がありましたが、このソドム支配地域との間にも同様のものが?」


「そだよ。お姉ちゃんも化学兵器を抱えていたノーヴェンバー・ケベック・ワン基地を襲撃したから手順は分かってるでしょ?」


「今回はジェリコの車両を奪って乗り込むってことですね」


 前回はMAGの前線基地を襲撃するのにMAGのパロトールを襲って車両を奪い、その識別IDで警戒線を突破した。


 今回はジェリコの基地を襲撃するのでジェリコの部隊を襲撃するのだ。


「けどさ。車はやっぱり大きいのがいいよね。小さな車を運転するのは自分は貧乏人だって言ってるようなものじゃない? どんなものも大きなものがいい。大は小を兼ねるって昔から言うし?」


「大きな車ですか? 警戒線を突破するだけならあまり意味はないような……」


「お姉ちゃんも結構大きいのに?」


 デフネの視線がファティマの灰色の作業服の胸の部分に、117式強化外骨格の装甲に守られファティマの胸に向けられた。


「セクハラですよ」


「お上品なエデンではそうだったかもしれないけど、ここはゲヘナだよ、お姉ちゃん? 女の子相手でも油断はしない方がいいかもね」


 ファティマがジト目でデフネを見るのにデフネはからかうように笑う。


「それで大きな車と言うと具体的には?」


「あたしのお気に入りをいただくわけ。狙うのはケチなパトロールじゃない。治安回復部隊の方を狙う」


「本気ですか? 重武装の相手をわざわざ?」


「連中と戦う自信ないの?」


「そんなことはないです。やるならやりますが、そもそもやる意味がないと思います」


 治安回復部隊はただ巡回や監視を行う部隊ではなく、積極的に犯罪者や敵対勢力の戦力を叩くことで、その名前の通り治安を回復させる部隊だ。


 装備はパトロールがタイパン四輪駆動車を装備していた程度で戦力としても2名、あるいは4名程度なのに対して、装備は歩兵戦闘車IFVという重装甲かつ高火力のものを保有しており戦力は少なくとも1個小隊。


 どう考えても警戒線を超えるチケット代わりに襲うべき部隊ではない。


「あたしさあ、お姉ちゃんが戦うところが見たいんだよね。それにあたし自身もちょっと暴れたいし、殺したいし。嫌?」


「嫌と言えば嫌ですが、今回の仕事ビズの依頼人はあなたです。依頼人が求めるならやります。どこで襲撃しますか?」


「そうでなくっちゃ! 襲撃できそうな連中を調べておいたからそいつらを襲おう。ぶち殺して血塗れにしてやろうね! そして、連中のおもちゃも奪う! イエイ!」


 デフネはファティマの返答に満足した様子でハンドルをバンバン叩く。


「そっちの位置情報を送ったよ。それから武器はトランクにあるのを自由に使って。お姉ちゃんがどこまでやれるか見せてみてよ。期待してるから」


「了解。退屈はさせませんよ」


 まるで誕生日のプレゼントでも待っているかのような無邪気な笑みでデフネが言い、自信家のファティマも不敵に笑って見せた。


 そして、予定地点に進出。


「ここはグリゴリ戦線がテロ攻撃と囚人の脱走に利用している拠点がいくつもあるわけ。そいつらを殺しにジェリコの治安回復部隊が毎日来てる。そして、その連中はグリゴリ戦線の雑魚を相手にしてるから舐めプしてるってね」


「狩るには丁度いい目標ですね」


「そうそう。連中に本当の殺し合いって奴を教えてあげようよ、お姉ちゃん」


 予定地点である廃墟になった市街地にてデフネが状況を説明する。


「トランクの武器、どれ使ってもいいですか?」


「いいよ。好きに使って。あたしはいつものこれで行くから」


 ファティマがタイパン四輪駆動車のトランクを開く中、デフネは極限まで銃身と銃床を縮小させた個人防衛火器PDW仕様のCR-47自動小銃にマガジンを装填し、初弾をチャンバーに送り込んだ。


「では、私はこれを」


 ファティマは銃身を僅かに切り詰めたカービン仕様のCR-47自動小銃を選んだ。標準的な折り畳みストックと熱光学照準器が備えられ、誘導にも使用可能なレーザーレンジファインダーも装備されていた。


 CR-47自動小銃は口径7.62x51ミリ弾を使用する銃で単純な威力だけなら上の世代の銃であるMTAR-89自動小銃に勝る。しかし、精度や反動の面でMTAR-89自動小銃に圧倒的な差を付けられているのが現状だ。


 もっともCR-47自動小銃は大量生産されたため広く出回っており、それゆえパーツや弾薬が入手しやすい。いくら優れた銃でもそれが不良故に動かず、弾がなければ何の意味もないのだ。


「弾薬どのようなものがありますかね」


「基本的なのは徹甲弾。タングステン弾芯使ってるって知ってるよね。それから空中炸裂エアバースト弾が少しばかりってとこ。あたしは空中炸裂エアバースト弾をわざと敵の頭にぶち込んでから炸裂させるのが好き!」


「まあ、それもひとつの戦術ではあるでしょう。私は空中炸裂エアバースト弾はマガジンひとつ分あれば十分です」


 ファティマは敵の強化外骨格エグゾを貫通可能なタングステンを使用している徹甲弾をメインにマガジンを選び、1個だけ空中炸裂エアバースト弾を選んだ。


 それから手榴弾数発とスモークグレネード、スタングレネードを取る。


「準備万端です!」


 ファティマはそれらをタクティカルベストに収め、CR-47自動小銃の稼働状況を確認してからそう宣言した。


「オーケー! じゃあ、パーティー会場に行こう!」


 デフネはファティマにそういうと廃墟と化している市街地を徒歩で進む。


「具体的な当てがあればよいのですが、そうでなければ戦術級偵察妖精を展開することを提案します」


 廃墟を進みながらファティマがデフネにそう提言した。


「大丈夫だよ。ここで対反乱作戦COINをやってるジェリコの連中は舐めプの真っ最中でいつも同じところから攻撃をやってる。せっかくの楽しい人殺しが毎日毎日のクソみたいなルーチンワークに成り下がってるってわけだよ」


 デフネが肩をすくめてそう言うとある地点までファティマたちを先導する。


「ほら。あそこら辺にいるでしょ、ジェリコの連中。間抜け面さらして、ぼさっと突っ立ってる。それからあたしのお気に入りのおもちゃを持ってる」


「標準的な機械化歩兵小隊ですね。装備としてはバルバロイ歩兵戦闘車4台。破壊するだけなら簡単ですが、あれに乗って押し入るつもりなのですよね?」


「イエス。楽しそうでしょ?」


「どうでしょうね?」


 同意を求めるデフネにファティマは首を傾げて返した。


「それで、襲撃のプランは?」


「奇襲から皆殺し。作戦はいつだってシンプルな方が成功するものだよ」


「ええ。それには同意します」


 作戦は複雑にすれば小さなひとつの破綻すらも作戦の失敗に繋がる。丈夫な機械の多くがその頑丈さの要因をシンプルな造りとしているように、ほとんどの物事はシンプルであるほど成功しやすい。


「投影型熱光学迷彩で近接してまずは歩兵戦闘車IFVを制圧したいですね。あれが一番厄介ですし、できれば無傷で手に入れたいです」


「あたしが歩兵戦闘車IFVを手に入れる。お姉ちゃんはその間歩兵の相手をしててね。すぐにそっちの援護に回るから安心していいよ。あたしもジェリコの連中に血を流させたいし、ね」


 ファティマが指摘するのにデフネがそう指示を出し、獲物を前にした肉食獣のように舌なめずりする。その青い瞳が剣呑に輝いていた。


「では、時間を合わせましょう。同時に仕掛けないと奇襲の効果は薄いです」


「流石はエリートお姉ちゃん。用意周到だね。でも、そっちの陰キャはどうするの?」


 ファティマが言うのにデフネがサマエルの方を見た。


「きっとこれからのサマエルちゃんの活躍を見れば、あなたもサマエルちゃんのことを大きく見直すと思いますよ」


 ファティマはそう言って悪戯気に微笑む。


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