ファミリービジネス//末っ子
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──ファミリービジネス//末っ子
どうして
「はい。ご説明しましょう。私の目的はゲヘナにおいて偉くなることではありません。フォー・ホースメンに所属してもゲヘナで偉くなるだけなので、フォー・ホースメンのバーロウ大佐には申し出をお断りしました」
「では、君が求めるものは?」
「それはふたつ。まず私を追放したエデン政府への復讐。そして、エデンとエリュシオンにおいて地位を得ることです。ゲヘナ軍政府を叩き潰し、エデンに侵攻して政府を転覆させ、エリュシオンすら屈服させます!」
アヤズの問いにファティマがそう堂々と宣言する。
アヤズはそのファティマの答えに何も返さず、真顔でただただ正気を疑うようにファティマを見つめた。
「面白いじゃん、そこのお姉ちゃん!」
そこで声を上げたのは部屋にいたもうひとりの人物。少女の方だ。
15歳ほどだろう幼い小柄な少女だ。
まだ幼さが残る顔立ちは少女と少年の間にあるようで凛々しくもあり、愛らしい。くすんだアッシュブロンドの髪はミディアムボブで毛先は肩まで。瞳の色は良く輝いている綺麗に透き通った青。その耳には無数のピアスがバチバチ。
160センチ台の身長はスレンダー。だが、これからが普通の少女と違う点だ。
その体には099式強化外骨格を装備しており武骨な複合装甲はデザートパターンのデジタル迷彩に塗られている。そして、その下には同じ迷彩柄の戦闘服とタクティカルベストを少女が着るような洋服の代わりに纏っていた。
二の腕までまくり上げた戦闘服から見える腕には、銃剣が付けられたCR-47自動小銃を噛み締めている狼のタトゥー。
そんな少女がファティマの方を見て、不気味な笑みを浮かべていた。
「そちらの方は?」
「私の娘だ。デフネ、自己紹介を」
ファティマが尋ねるとアヤズが先ほどまでの冷徹なビジネスマンの表情ではなく、ひとりの父親の顔を見せてデフネと呼んだ少女に促す。
「あたしはデフネ・コルクマズ。コルクマズ家の末っ子。そして、お姉ちゃんと同じ人殺しが仕事で趣味の殺し屋ね。ソドムの血の流れる類の荒事は大抵あたしが仕切ってる。よろしくねっ!」
そして、デフネという少女がにんまりとチェシャ猫のように笑う。
「どうもよろしくお願いします。どうやらあなたには私の求めるものはご理解いただけたようで」
「まあね。面白そうじゃん? ゲヘナ軍政府やMAG、ジェリコみたいな
「ええ。まあ、そういうことでもありますね。過程はそうです。結果として私が求めるのはあくまでエデン政府への報復と彼らの政府の転覆です」
「お姉ちゃんはそれがやれるって思ってるんでしょ? 自分には力があるって」
「もちろんです。ですが、協力者は必要でしょう。頼りになる味方がいれば確実に全てをひっくり返します。ゲヘナ軍政府も、
「いいじゃん、いいじゃん! そういうぶっ飛んだ考えする人間はこのゴミ溜めでは少ないからね。グリゴリ戦線のイカれたテロリストたちだって自分たちが本当にゲヘナ軍政府を倒せるとは思ってない」
ファティマが自信を持って語るのにデフネは手を叩き、満面の笑みを浮かべた。
「パパ。このお姉ちゃん、うちでも雇おうよ。
「確かに
「お願い、パパ」
アヤズが眉を歪めて言うのにデフネが普通の子供がものをねだるように訴える。
「分かった。では、ひとつ
「その通りです。是非ともそちらと友好的な関係を築けるように、私の提供できるものを提供し、
そのアヤズの提案を逃すまいとファティマが丁寧にそう申し出た。
「では、君に任せよう。我々と
「はい、パパ! 説明するからついてきて、お姉ちゃん」
父親でありボスであるアヤズの許可を得たデフネが生き生きとした様子でファティマたちを案内する。
「ここだよ!」
大使館だった建物の中でデフネはかつて大使館員たちが使用していた会議室にファティマたちを招いた。
どうやら今は会議室はソドムの武装部隊のブリーフィングルームに改装されたようだ。ほぼフォー・ホースメンのブリーフィングルームと同様のブリーフィングのためのシステムが整えられている。
「
「もっと具体的にお願いできますか? 誰が誰のどんなものを取って、どこに置いているのかというのを」
デフネがもう説明終わりというような顔で言うのにファティマが困り切っていた。
「オーケー、オーケー。パパがもう言ってたけどトラブルの相手はジェリコ。ここ最近ジェリコはやけに張り切ってるからね」
この
「で、ジェリコの連中ががあたしたちソドムが扱っている違法薬物を押収したんだよね。うちの車列を襲撃しやがってさ。で、押収品を収容している基地まで運んだ。チャーリー・ゴルフ・フォー基地って場所」
「そこを襲撃して押収されたものを取り戻す、わけですね?」
「そ。でも、ついでだから押収されているものはうちの違法薬物だけでなく、価値のあるものは全部持っていく。せっかくやるならそれぐらいしなきゃ、勿体ないよね」
ファティマが合点が行くのにデフネがそう言って愉快そうに付け加える。
「そうなると輸送部隊が必要になりますね。作戦に動員する部隊の規模はどの程度ですか? 規模が小さければ持っていける戦利品は少ないですし、大きければ護衛が面倒なことになります」
「動員するのはあたしが指揮するソドムの精鋭部隊イェニチェリ大隊。イカした冷酷な殺し屋ども。文字通り大隊規模の部隊で装甲トラックもパワード・リフト輸送機も使えるよ。今回は装甲トラックを使うつもり」
「なるほど。大隊規模であれば作戦展開に無理は少ないですね」
「それにイェニチェリ大隊は殺しにかけてはフォー・ホースメンだって真っ青だよ。マジでイカれてるから。お姉ちゃんも気に入るよ!」
デフネの笑顔にファティマは自分がどう思われているのだろうかと思った。
「けどさ、その子は何なの? なーんか暗い顔してさ。コミュ障の陰キャって奴?」
そこでデフネの視線がファティマの隣にいるサマエルに向けられる。デフネは明確に敵意ある視線をサマエルに向け、蔑みの言葉を浴びせた。
「やめてください。サマエルちゃんは私の友人であり戦友です。サマエルちゃんへの侮辱は私への侮辱と受け取ります」
「お姉さん……」
そこでファティマがはっきりとデフネに向けて怖気ず告げる。
「ふうん。お姉ちゃんってそういう子が趣味なの? 変わってるなあ」
そして、デフネはにやにやしながらファティマとサマエルの顔を見た。
「まあ、いいけど。最後に言っておくけどチャーリー・ゴルフ・フォー基地を襲撃するのはあたしとお姉ちゃん、そしてそっちの陰キャちゃんだけだよ」
「なるほど。またですか」
デフネの言葉にファティマが肩をすくめた。
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