ファミリービジネス//ジェーン・スミス
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──ファミリービジネス//ジェーン・スミス
「付き合え。次の
ファティマがフォー・ホースメンのバーロウ大佐に認められ、フォー・ホースメンにおいてVIP待遇となった翌日。
ジェーンがファティマとサマエルが暮らす兵舎を訪れた。
「今からサマエルちゃんとお昼に行くつもりだったんですけど」
「じゃあ、丁度いい。飯を食いながら話すぞ」
「強引ですね……」
唯我独尊なジェーンの態度に呆れながらもファティマはサマエルと一緒にジェーンと食事をすることになった。
お昼はピザの店でピザ。
「フォー・ホースメンからはしっかり信頼が得られたようだな。何よりだ。お前ならやれると思っていた」
「サマエルちゃんのおかげでもありますよ」
「そうか。ともあれ、このままフォー・ホースメンから
「ほうほう」
ソドムは以前ジェーンが説明した犯罪組織だ。
「いい機会だ。ソドムにお前を紹介する。向こうの
「そうですね。まずは顔合わせをしておかないといけません。資料で名前を知ってもらっているだけでは信頼というものは得られませんから。では、いつ?」
「この後すぐ。予定はないだろ?」
「随分と急ぎになりますが問題はないです」
そういうことでピザでの昼食を終えるとそのままファティマたちはソドムと接触することになった。
ピザ屋を出るとジェーンが待機させておいたらしい民生品のSUVに向かう。
「そっちが興味を持っている人間は接触に同意した。行ってくれ」
「じゃあ、乗れ。ボスが待ってる」
どうやら車の持ち主はソドムの人間のようだ。
「乗ったぞ」
「そっちのガキは何だ?」
ジェーンがファティマたちを連れてSUVの後部座席に乗り込むのに助手席にいた男がサマエルを見てそう尋ねた。男はスーツの上に着たタクティカルベストでSP-45X自動拳銃を胸のホルスターに収めている。
「私の友人です。睨まないでください。怯えているではないですか」
「クソ。分かった。妙なことをするなよ」
ファティマがびくびくしているサマエルを庇い、そしてSUVが発車した。
ファティマたちを乗せたSUVはフォー・ホースメンの支配地域から出ていく経路を選んで進んだが、かといってゲヘナ軍政府支配地域に近づくわけでもない。ただただ人がいない廃墟の街を走っていく。
そして、
ゲヘナ軍政府やフォー・ホースメンのように戦闘服姿の兵士が立っているわけではなく、ポロシャツにジーンズのような一般市民の服装でその上に099式強化外骨格、タクティカルベストを装備した男女がいる。
装備はCR-47自動小銃。こだわりがないのか、使用する機会がないのか、あまりカスタムしている様子はない。標準モデルに光学照準器が取り付けられているぐらいだ。
しかし、その動きは軍人のように訓練されたもので
「止まれ。ああ、お前らか。お客を連れて来いって話だったな。そいつらが客か?」
「そうだ。生体認証データを送る。確認してくれ」
「オーケー。客の生体認証データを確認して登録した。そして、今そいつらに通行許可を発行したから、そいつらにやっておいてくれ」
「ここから先がソドムの支配地域と言ったところですか?」
「そうなる。少しばかり刺激が強いぞ。そっちのガキには気を付けさせておけ」
ファティマが尋ねるのに助手席の男が警告した。
「わ。これは確かにちょっと……」
暫く走って入った繁華街らしき場所には全裸に近い格好をした男女が、かつては洋服などが並んでいただろうショーウィンドウで艶めかしく体を動かしている。
他にも通りを露出度の高い服装を纏った男女が生気のない表情で、恐らくはドラッグだろう紙巻を咥えて煙を立ち上らせていた。
「おかしいとは思ってたんですよね。フォー・ホースメンの支配地域には性風俗店の類がなかったんです。人間の社会には、こと戦時中の軍隊という特殊な環境ではこの手の性産業が規律を保つために必要なはずなんです」
「そうだ。フォー・ホースメンの連中はここに男や女を買いに来る。ソドムは『品質管理』がしっかりしてるから、フォー・ホースメン支配地域で適当な奴と寝るより安全だ」
ファティマがサマエルがこの破廉恥な光景を見ないように目隠しをして言い、ジェーンが同意して情報を付け加えた。
「そして、貴重な収入源というわけですかね。いやはや、これから取引する相手がちょっと心配になって来ましたよ」
「安心しろ。やってることはともあれ相手はビジネスマンだ。兵隊であるフォー・ホースメンより取引はしやすい。取引でのし上がってきたんだ」
「だといいのですが」
車はそのまま歓楽街を抜けると再び
「そろそろお偉方がいそうな場所ですね」
卑猥な裸体は消え、装甲と銃が溢れる。
この地域の通りは
そんな守りの方められた地域のもっとも警備の厳重な場所にSUVは入った。
「元はアメリカという国の大使館だったと聞いてる。ここがソドムの司令部だ」
ジェーンがそういう建物は立派な造りのものでイーグル基地のような武骨は少なく、かつて外交という場で使われていた建物としての品格を出していた。
ここが犯罪組織ソドムの拠点だ。
「来い。ボスが待ってる」
建物のエントランスにいたソドムの構成員に促されてファティマたちが拠点に入る。元々設置されていた金属探知機は壊れており、別に生体認証スキャナーが設置されていた。そのスキャナーが自動的にファティマたちの情報を読み取る。
「随分とあっさりしてますね? 魔術も武器も警戒してないんですか?」
「ここで下手なことをすれば何かをやる前に脳みそが吹っ飛ぶ」
ファティマの疑問にジェーンが肩をすくめて言った。
「ここだ。入れ。失礼がないようにな」
そして、かつてはこのアメリカ大使館の主である大使が祖国のために仕事を行っていた執務室に通される。確かにここの主は外交を大事にしている。他の組織との友好は敵対より利益を産み、損失を避ける。
「ジェーン・スミス。それが噂の魔術師かね?」
部屋にいたのはふたりの人物だった。
ひとりは老人。ひとりは少女。いずれもテュルク系。
声をかけたのは老人の方で年齢は60台前半というところだ。頭はスキンヘッドにしており、白髪混じりの髭を少しばかり蓄え、顔には他にデバイスとして使用可能なリムレスのメガネ。
大使館時代のままのマホガニーの執務机の向こうで椅子に座っているため正確な身長は分からないが恐らく170センチ前後。その体に犯罪組織ボスを絵に描いたような上質なシルクのスリーピースの黒いスーツだ。
「ボス・アヤズ。そうだ。こいつが噂のファティマ・アルハザード。驚くべきことを成し遂げた優秀な傭兵だ。ファティマ、自己紹介を」
「はい。ファティマ・アルハザードです。今はフォー・ホースメンで幹部待遇となっていますが、フォー・ホースメンに所属しているわけではありません。フリーです。そして、この子はサマエルちゃんです。よろしくお願いします」
ジェーンの紹介を受けてファティマが丁寧に頭を下げて挨拶する。
「噂は聞いた。単独でMAGの部隊を蹴散らしたとか。その上、最近ではMAGの前線基地を襲撃して大打撃を与えたそうだね。あそこにあった化学兵器は我々にとっても脅威だった。礼を言っておこう」
この老人がアヤズ・コルクマズ。ソドムのボスだ。
「その能力は確かなのだろう。あの実力主義のフォー・ホースメンが認めたのだ。私たちもその評価を受け入れるとしよう。だが、分からないことがある」
「と言いますと?」
アヤズがファティマの黄金の瞳を見つめて尋ねるのにファティマが首を傾げた。
「フォー・ホースメンで高く評価されたならばそのままフォー・ホースメンに所属すればいい。あそこは実力主義で実力がある人間は高い地位に就ける。コネやご機嫌取りは必要ない。だが、君はそうしなかった」
フォー・ホースメンは良くも悪くも実力が全てだ。実力があれば上層部にコネがなくても取りたてられ、高い地位に就ける。事実、ファティマも大きな権限があるバーゲスト・アサルトに誘われた。
だが、ファティマはそれを拒否した。
「それが意図することを知りたい。私はビジネスマンだと自負している。そして、私はその立場として相手の求めるものを知り、それを把握しておくことで取引を行う。よければ聞かせてもらえるだろうか?」
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