オンザジョブトレーニング//報酬
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──オンザジョブトレーニング//報酬
ファティマたちを乗せたナイトゥジャー汎用輸送機はイーグル基地に着陸。
「私の評価をバーロウ大佐に伝える。報酬を払うからカフェででも待ってて」
グレースはそう言うとガーゴイルを連れてバーロウ大佐の執務室に向かった。
「では、私たちはカフェで休みますか。行きましょう、サマエルちゃん」
「うん」
ファティマたちはイーグル基地のカフェで紅茶と軽食を頼んで時間を潰す。
その頃、グレースはガーゴイルとともにバーロウ大佐に会っていた。
「で、どうだった?」
「これからいうのは誇張でもなしい、私が戦場で混乱して思い込んだものでもない。ちゃんと映像の記録がある。そういうことを踏まえて聞いて」
バーロウ大佐が尋ねるのにグレースがバーロウ大佐とガーゴイルのZEUSにデータを送ってから話し始める。
「新入り──ファティマは未知のエネルギーを使用している。彼女の魔術は投影型熱光学迷彩とコンバットナイフ代わりのエネルギーブレードについてはエーテル粒子を使用している。だけど、それ以外のものも彼女は使う」
グレースはそう言いながら最初にファティマが“赤竜”を使った際の映像を見せた。エーテル粒子の青緑色のものとは明らかに異なる赤いエネルギーブレードがMAGのコントラクターを一瞬で殺害する映像だ。
「これは何だ? 赤いエネルギーブレード? それにリモート操作されている」
「そう。エーテル粒子のものではない。彼女はそんな力を使う。そして、未知の力を使うのはファティマだけじゃない。バーロウ大佐、あなたの軍人としての勘は当たっていたみたいよ」
「おい。まさか」
「あの子供がMAGの通信を傍受するだけでなく、妨害まで行った。それがどれほど難しいことかは言うまでもない」
「クソ。マジかよ。MAGの高度軍用通信を傍受し、妨害するなら大型トラック10台分の
「けど、使える。とても使える。考えてみて。MAGや他の
「分かる。だが、仕組みが分からないものを信頼した場合のリスクも知ってる」
「それはある。だから、運用はあくまでファティマとの組み合わせ。私たちはあの子供には依存しない。どう?」
「いいだろう。そうしよう」
グレースは最初からサマエルをファティマとともに運用するつもりだ。
「それからファティマは驚くべき力を使う。これを見て。相手はMBT90主力戦車を装備した1個戦車小隊とアーマードスーツも装備している1個歩兵中隊。彼女はこれを皆殺しにした。その時の映像、見て」
グレースが保存しておいた映像が再生される。
あの凝集された赤い粒子が土埃を巻き上げ、周囲に帯電を起こし、そしてそれが解き放たれMBT90主力戦車もアーマードスーツも
「おいおい。これはフェイクじゃないだろうな? こんなことがやれるってのか?」
「私が映像を加工したとでも? それに何の意味が?」
「あーあ。畜生め。こうなるとやばいな。あの新卒を舐めて敵に回せば、こっちにも無視できない被害が出る。そして、今の時点でも奴は俺たちに忠誠を誓っているわけじゃない。あくまで雇われの身だ」
バーロウ大佐が憂慮しているのはファティマたちがフォー・ホースメンにとって敵対的組織に所属するし、フォー・ホースメンに害をなすことだった。
「首輪はつけておくべきでしょう。報酬については寛大に。機嫌を損ねても意味がある人間じゃない。無意味な敵対は避けるべき。報酬は十分な額を」
「オーケー。俺は報酬の額の論議はあまり好きじゃない。切りがよく、他の連中が嫉妬せず、それでいて成功者には報いるというのは鉄則だ。強者を厚遇せず、弱者が厚遇されると強者が不満を覚え、反発し始める」
グレースの指摘にバーロウ大佐が同意するように頷いた。
「ガーゴイル。お前はどう思う? いざってときお前ならこの化け物を殺せるか?」
そして、バーロウ大佐が同じく映像を見ていたガーゴイルに尋ねる。
「大佐。俺は軍人だ。命令として殺せと言われたらどんな手段を使ってでも殺す。正面から戦って負けるなら不意を打てばいい。人間はどんな魔術が使えようと睡眠や食事を必要とする。そこを狙う」
「流石はバーゲスト・アサルトの精鋭だな。確かにどんなものも24時間365日無敵なわけじゃない。殺す機会はある、か」
「俺は魔術はほとんど使えない。この女と全く同じことはできないだろう。だが、今回の少佐と奴がやった
「そいつは言えてるな。では、お前はこいつをそこまで評価しないか?」
「そうは言っていない。戦力はあればあるだけいいし、選択肢は増えれば増えるほど作戦に冗長性が生まれ、成功する可能性が上がってくる。こいつが本当に俺たちの味方になるならば歓迎する」
バーロウ大佐が尋ねるとガーゴイルが全く動かずそう答えた。
「じゃあ、たっぷり報酬を払って機嫌を取るか」
そして、ファティマたちがバーロウ大佐の執務室に呼び出される。
「さて、ご苦労だったな、ファティマ。グレースはお前を高く評価している。俺もグレースから話を聞いてお前を高く評価することにした。約束したようにこれからフォー・ホースメンとしてお前をVIP待遇にしてやる」
「それはありがとうございます」
バーロウ大佐が執務室にある革張りの椅子の背もたれに背を預けて言うのに、ファティマは丁寧にお辞儀をして返した。
「しかし、具体的にはどのようなものでしょうか?」
「貸してある兵舎はこれからも自由に使っていい。そして、お前をフォー・ホースメンの幹部クラスの扱いとすると縄張りの連中に通達する。買い物は安くできるし、多少犯罪を起こしても見逃してやる」
「それは嬉しいですね。ですが、本当にフォー・ホースメンのメンバーとなるのではないのですよね? それは困るのです」
「ああ。ゲヘナ軍政府や連中が雇ってる
「ご理解いただけで感謝します」
「で、これから本気でゲヘナ軍政府とエデン、エリュシオンをぶちのめすのか?」
笑顔でお礼をするファティマにバーロウ大佐が葉巻に火を付けて尋ねる。
「そのつもりです。私は私を追放したエデンを許すつもりはないですし、この汚染されたゲヘナで一生を終えるつもりもないです」
「大した自信だな。感心する」
バーロウ大佐は皮肉気にそう評価した。
「VIP待遇とは別に報酬を払っておく。1000万クレジットだ。この高額な報酬は俺たちがお前を信頼しているあかしであると同時にお前が俺たちを信頼するようにするためのものだと認識しておけ」
「了解です」
ファティマのZEUSにバーロウ大佐が送金する。1000万クレジットは大金だ。ファティマが装備している117式強化外骨格でも450万クレジットだったのだから。
「お互いの信頼が大事だ。特にこんな肥溜めではな」
バーロウ大佐はそう言って葉巻を吹かし、ファティマに行けというように手を振る。
「じゃあ、また一緒に
「ええ。今度も縁があればよろしくお願いします、グレースさん。サマエルちゃんも一緒に、ですよ」
「もちろん」
半開きの目をさらに細めてグレースが手を振り、ファティマは一度お辞儀するとバーロウ大佐の執務室を退室した。
「お姉さん……」
「どうしました、サマエルちゃん?」
そして、イーグル基地の基地施設を出たところでサマエルがファティマの手を弱弱しく握り、不安そうな表情でファティマを見上げて来た。
「お姉さんはいろんな人が認めてくれて、そして大事に思ってくれているよね……。ジェーンさんとかグレースさんとか……。だから、そのうちボクは要らないって思ったりする、かな……?」
サマエルがそうとても小さな声で尋ねる。
「そんなことはありませんよ、サマエルちゃん」
ファティマがそんなサマエルの手をしっかりと握り、小さなサマエルのために屈んで目線を合わせてそう語りかける。
「確かに私に向けて感情の矢印はたくさん向いているかもしれません。そのことでサマエルちゃんが心配になるのは分かります。サマエルちゃんは本当は頑張ってくれているのに評価されず向いている矢印が少ないって心配なのでしょう」
「うん……」
「でも、私に向いている矢印の中で一番大きな矢印はサマエルちゃんだって私はちゃんと分かっています。ジェーンさんも、グレースさんも
ファティマがそう言ってサマエルに微笑む。
「だから、私は一番大きな矢印を向けてくれるサマエルちゃんに私も大きな矢印を向けます。私たちはお互いが大事な存在。だから、あなたが必要でなくなるなんてことはありません。ずっと一緒ですよ」
「お姉さん……!」
サマエルはファティマの優しい笑みを見て、その赤い瞳から涙を流す。
「泣かないで。あなたが泣いていると私も悲しいです。さあ、行きましょう。一緒に」
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