オンザジョブトレーニング//脱出
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──オンザジョブトレーニング//脱出
「さっきの攻撃で運よくレーダー施設が破壊できた。脱出する」
「了解です。車両を奪いますか?」
「ええ。走って逃げる気はない」
ファティマにそう返すとグレースは混乱の最中にあるノーヴェンバー・ケベック・ワン基地内を進み、車両基地になっている場所に進出した。
MAG部隊は混乱しており、さっきのファティマが起こした爆発もあって、MAGのコントラクターたちはまず状況が把握されるのを待っている。そのため車両基地には警備の部隊は存在しなかった。
「これを貰いましょう。
「イエス、マム。よいしょっと」
グレースはタイパン四輪駆動車の運転席に乗り込みスターターボタンを押してエンジンを起動し、ファティマは
『グリーブ・ゼロ・ワンより
『
ここでMAGの航空部隊がノーヴェンバー・ケベック・ワン基地の滑走路から離陸して基地上空に展開する。
離陸したのはバルチャー攻撃機4機。
これは反重力エンジンを装備したパワード・リフト攻撃機だ。頑丈な装甲で敵の
火力は凄まじく固定兵装の口径30ミリ機関砲を始めとして、大量の航空爆弾やロケット弾、
この攻撃機に狙われればただでは済まないだろう。
「お姉さん。通信はまだ傍受してるよ。そっちに送るね」
「ええ。おや、不味いですね。敵の航空部隊が展開していますよ。グレースさん、急がないと爆撃を受けます!」
サマエルが傍受しているMAGの通信からファティマはバルチャー攻撃機の展開を知り、運転席にいるグレースに警告した。
「分かった。飛ばすからあなたは
「了解!」
グレースが運転するタイパン四輪駆動車は車両基地をアクセル全開で出るとノーヴェンバー・ケベック・ワン基地内を高速で駆け抜け、出口であるゲートに向かう。
「そこの車両! 止まれ! IDを確認させろ!」
そこでMAGの警備部隊がファティマたちの乗ったタイパン四輪駆動車を止めようとする。警備部隊の規模は1個分隊程度で9名だ。
「前方にMAGの警備部隊。蹴散らして」
「撃ちます!」
前方でMAG警備部隊に向けてファティマが
「クソ! 敵だ! 撃て、撃て!」
「こちらクリケット・ゼロ・ワン! 展開中の航空部隊へ! 現在基地内を暴走中のタイパン四輪駆動車は敵が乗っている! 排除してくれ!」
ファティマたちはMAG警備部隊を蹴散らして突破したものの基地上空に展開した航空部隊がファティマたちを追いかけ始める。
『こちらグリーブ・ゼロ・ワンより
『
そして4機のバルチャー攻撃機が編隊を組んでファティマたちの乗るタイパン四輪駆動車に向けて迫った。
「不味いです。敵の攻撃機に捕捉されています。グレースさん、そちらの脱出手段との合流は近いですか?」
「
「では、これは要りませんねっと!」
ファティマなタイパン四輪駆動車の
『グリーブ・ゼロ・ワンより各機。攻撃開始、攻撃開始』
4機のバルチャー攻撃機が一斉にドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルを発射。4発の大型対戦車ミサイルが
「クラウンシールド展開!」
ファティマが己を守る七個のクラウンシールドを展開し、飛来する対戦車ミサイルをインターセプトした。クラウンシールドによって阻止された対戦車ミサイルが空中で巨大な爆発を起こし、空が赤く染まる。
『攻撃効果なし! 車載の
『了解。数で押すぞ。ロケット弾を使用せよ』
4機のバルチャー攻撃機の指揮官機に乗ったガンナーが報告するのに指揮官が命じた。
バルチャー攻撃機は主翼のハードポイントに搭載した2基の口径70ミリ19連装ロケットポッドからロケット弾を一斉にファティマたちが乗るタイパン四輪駆動車に放つ。
「させません!」
『なっ!?』
クラウンシールドが再び攻撃を迎撃して阻止。何発ものロケット弾を正確にクラウンシールドが迎え撃ち、ロケット弾は一発もファティマたちに達しなかった。
『おかしいぞ!? あれはどう考えても
『原因は後で調べればいい。今は撃破することだけを考えろ。各機、全兵装の使用を許可する。目標を逃がすな』
ガンナーが叫ぶのに指揮官が冷静に指揮を続ける。
「残念ですが一方的に攻撃できる時間はもう終わりですよ。“赤竜”展開!」
そして、剣呑に輝く赤いエネルギーブレード“赤竜”が十本、ファティマを中心に展開された。それら“赤竜”の刃が一斉に動き始める。無機的な兵器というよりも生き物のような動きだ。
『敵車両より未知の飛翔物を確認。各機、警戒──』
バルチャー攻撃機が回避運動を取ろうとしたが“赤竜”の方が何倍も速かった。“赤竜”はバルチャー攻撃機の分厚い複合装甲も、防御のために設置された表層の電磁装甲も全てを貫き、攻撃機をめった刺しにする。
弾薬が誘爆し、反重力エンジンが爆発し、4機のバルチャー攻撃機は空で弾けた。
「イエス! 撃破完了です。ですが、どうやら敵も諦めてくれないようで。グレースさん、後方から
ファティマたちが乗ったタイパン四輪駆動車を追ってTYPE300装甲兵員輸送車が道路を駆けている。MAGの機械化歩兵部隊だ。
「大丈夫。時間が来た。送迎係が到着する」
グレースがそう言ったとき反重力エンジンの音が響いてきた。
「あれは友軍ですか!?」
「そう」
ファティマたちが進んでいる道路の先にパワード・リフト輸送機が1機姿を見せた。ゲヘナ軍政府の防空レーダーを避けるためか超低空で地形追随飛行している。
機種は空飛ぶ
そして垂直尾翼には黒い妖犬が銃剣を噛み締めているエンブレムだ。
そのナイトゥジャー汎用輸送機が僅かに高度を上げた。
『ハーピーよりナイトストーカー。お迎えに来たよ』
「ナイトストーカーよりハーピー。礼儀のなってない送り狼がいる。荒くれ傭兵どもに女性の扱い方というものを教育してやって」
『了解!』
グレースがナイトゥジャー汎用輸送機のパイロットに命じると飛来したナイトゥジャー汎用輸送機がその兵装の狙いを後方から迫るMAGの
『MAGの諸君、バーゲスト・アサルトから挨拶だ!』
口径70ミリ19連装ロケットポッドが一斉に
『ハーピーよりナイトストーカー。礼儀知らずはいなくなった。着陸する』
「すぐに乗り込む」
MAGの機械化歩兵部隊を一掃したナイトゥジャー汎用輸送機がゲヘナ軍政府支配地域の道路に着陸し、後部ランプを降ろす。そこにグレースがタイパン四輪駆動車を進め、素早くファティマたちとともに降車した。
「迎えに来たぞ、少佐」
「ありがとう、ガーゴイル。帰りましょう。その前に最後の仕事をするけど」
あの金属製の黒いフルフェイスマスクを付けた巨大な男性兵士ガーゴイルが、50口径高性能ライフル弾を使用するSR-50CALをスリングに下げた状態でグレースを後部ランプで出迎えた。
ファティマたちがナイトゥジャー汎用輸送機に乗り込むとすぐに高度が上がり、遠くにノーヴェンバー・ケベック・ワン基地が見える。
「ドカン」
グレースが呟くように言うとエージェント-29Cに仕掛けてあった爆薬が爆発。ノーヴェンバー・ケベック・ワン基地がエージェント-29Cの発する緑色の煙に包まれ、汚染されたのが確認された。
「さて、これで
ファティマがにやりと笑ってグレースにそう尋ねる。
「そうね。A+を付けていい。合格ね、おめでとう」
……………………
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