ファミリービジネス//火刑

……………………


 ──ファミリービジネス//火刑



「これは何だ!? う、うわっ──」


 ファティマの放ったシールドインパクトが津波のように高エネルギーの衝撃波を前方のジェリコの守備部隊に叩き込まれた。


 歩兵は肉片のひとつも残さず消滅し、アーマードスーツは蒸発し、空挺戦車は溶けた。生き残ったものはひとりして存在しない。


『わおっ! 凄い、凄いよ、お姉ちゃん! もう最高じゃん!』


 デフネは興奮しきっており、ゲートだったものの残骸を乗り越えてチャーリー・ゴルフ・フォー基地にバルバロイ歩兵戦闘車で侵入。


「た、助けて……」


 ジェリコの守備部隊はゲートの部隊が主力だったらしく、残るは軽装の歩兵だけだった。デフネの操るバルバロイ歩兵戦闘車が口径40ミリ機関砲の砲口を向け、無人銃座RWSの口径7.62ミリ機関銃も狙う。


「投降していますよ。どうしますか?」


『お姉ちゃん。捕虜を管理しておいて。ここまで暴れたから敵の警備は薄くなってる。今のうちにイェニチェリ大隊の輸送部隊を要請するから。持てるもの全て持って行って、大儲けだ!』


「了解です」


 ファティマはバルバロイ歩兵戦闘車から降りて、投降したジェリコのコントラクターたちの前に立つ。


「武装解除します。強化外骨格エグゾを非アクティブ化させ武器を捨ててください。不審な行動を取れば事前警告なく発砲しますので注意してください」


「わ、分かった」


 ジェリコのコントラクターたちが装備していた099式強化外骨格を非アクティブ化する。人工筋肉への神経伝達が途絶して出力がゼロになり、強化外骨格エグゾに装備していた装甲がパージされて地面に落ちた。


 それからそれぞれが持っていた武器を地面に置き両手を上げる。


「そのまま後ろに下がって両膝を突いてください。手は頭の上のままですよ」


 武器をおいた場所からジェリコのコントラクターたちを下がらせ、両膝を地面に突かせる。この姿勢からだとすぐに立ち上がって動くことができないし、監視側は何をしているのかをしっかりと見張れるのだ。


「デフネさん。こちらは捕虜を監視していますが、輸送部隊はまだですか?」


『そろそろ到着。捕虜はどれくらいいる、お姉ちゃん?』


「15名です。うち士官は3名」


『了解。しっかり見張っててね』


 ファティマの報告にデフネがそう返して来た。遠方では機関砲の砲声が響いている。


 暫くしてファティマのシールドインパクトで破壊されたゲートに6輪の装甲トラックが4台入ってきた。ファティマが瞬時にIDを照合すると所属はソドムとなっている。


 トラックから降りて来たのはソドムの精鋭部隊であり、デフネの部下であるイェニチェリ大隊だ。全員が099式強化外骨格を装備し、装甲にはクロスしたトルコの小刀ヤタアンとCR-47自動小銃を模した黒いエンブレム。


 そして、イェニチェリ大隊の男女が装甲トラックを降りて素早く整列したところにデフネがやってきた。


「来たね。ここの倉庫から全部持っていけ。全部だ。何もかもいただいていく。違法薬物もポルノもインプラントも全て! やれ!」


「了解、大隊長殿!」


 イェニチェリ大隊の兵士たちがチャーリー・ゴルフ・フォー基地の押収品保管庫から根こそぎ押収された品を根こそぎにする。


 各種違法薬物。武器弾薬。インプラント。違法ポルノ。宝石や金銀。


「お姉ちゃん、ご苦労様。仕事ビズは大成功! パパにお姉ちゃんことはよく伝えておいてあげる。うちとのコネが欲しかったんでしょ?」


「ええ。是非ともお願いします」


 そう、ファティマの目的はソドムとの繋がりだ。将来的な野望のための。


「捕虜はどうします?」


「将校は連れて帰る。そして、尋問する。残りはお・た・の・し・み!」


 押収品を回収したイェニチェリ大隊の兵士たちが捕虜になったジェリコのコントラクターたちの中から将校を拘束して押収品とともに装甲トラックに放り込む。


 そして、残りは──。


「いつものやつやるよ。ガソリン持ってきて」


「了解。タイヤもですね」


「もちろん」


 デフネがイェニチェリ大隊の兵士に命じ、ガソリンとタイヤを準備させた。


「ヘイ! キャンプファイアー!」


 そして、それをジェリコのコントラクターの首にかけたと思えばデフネが火のついたマッチを投げ込んだ。


「ああああ──っ! 助けてくれ! 助けて!」


 ジェリコのコントラクターが炎に焼かれてもだえる。熱で溶けたゴムが皮膚を焼き続け、それでいて即死はしないのでいつまでも苦痛は続く。


 これはタイヤネックレスという拷問のひとつだ。


 アパルトヘイト政権下の南アフリカで生まれたと言われるがメキシコの麻薬カルテルも使ったことがある。見せしめのための拷問であり、そこに苦痛を与え惨たらしく殺す以外の目的はない。


「あはっ! 後、どれくらい持つかな?」


「賭けますか?」


「んー。今月はまだパパからお小遣い貰ってないから無理」


 デフネとイェニチェリ大隊の兵士たちは笑いながら炎に焼かれてもだえ、悲鳴を上げ続けるジェリコのコントラクターたちを見ている。


「これは……ちょっと……」


 ファティマはこの手の拷問を好ましく思ったことはないし、必要だとも思ったことはない。彼女は残酷さはあくまで敵を倒し、任務を達成するために必要な要素のひとつだと教えられてきた。それそのものは目的でないと。


 だが、デフネにとっては猫がネズミに抱く残酷さこそが目的だ。


「あの、私たちは先に失礼していいですか?」


「ええー。付き合ってよ、お姉ちゃん。そうだ! あの戦車を吹き飛ばした奴、やってくれない? またあれ見たーい! やってよー!」


「いや。あれは必要があるからやるものであって別に捕虜を処理するだけなら、射殺すればいいじゃないですか」


「そんなのつまんないじゃん!」


 デフネが退屈したようにそう返す。


「クソ! 殺されてたまるか!」


 そこでジェリコのコントラクターのひとりが逃げようと立ち上がった。


「ぐわっ!」


 しかし、そこですぐさまエネルギーブレードが飛来し、右足のアキレス腱を切断。


「次はお前」


 エネルギーブレードを投げたのはデフネだ。


 獰猛な笑みを浮かべた彼女がエネルギーブレードで足の腱を切られた男を見ている。


「やめろおっ! やめてくれ! いやだ!」


 そして、その男の首にガソリンが詰められたタイヤがかけられ、火が付けられた。チャーリー・ゴルフ・フォー基地に悲鳴がこだまする。


「デフネお嬢様。ボス・アヤズからです」


 そこでイェニチェリ大隊の兵士がデフネに告げた。


「はい、パパ! うん、仕事ビズは成功。ファティマのお姉ちゃんは噂通りの凄さだったよ。ふん? もう? 分かった」


 デフネが少しばかり渋い顔をして、アヤズからの連絡を切る。


「遊んでないで帰って来なさい、だって。ばれちゃった。帰ろ、お姉ちゃん?」


「では、帰りましょう。ここは敵地です。長いすべきではありません」


 ファティマはデフネの言葉に頷いてそう返した。


「残りの連中を始末して、全員撤退だ! 急げ!」


「了解」


 生き残ったジェリコのコントラクターたちが全員イェニチェリ大隊の兵士たちによって射殺され血の海が広がる。


「大隊長。あの歩兵戦闘車IFVはどうします?」


「弾が切れちゃったから要らない。それにあれの整備用のパーツは高いしね」


「了解。破壊しておきます」


「うん。やっといて」


 デフネが奪ったバルバロイ歩兵戦闘車はイェニチェリ大隊の兵士がテルミット焼夷弾を使ってベトロニクスを破壊し、再利用を困難に、さらに爆薬を詰めて爆破した。


「さ、乗って、お姉ちゃん」


「はい」


 デフネとファティマ、サマエルはイェニチェリ大隊の兵士が運転するタイパン四輪駆動車に乗り込み他の車両に護衛されながらソドム支配地域へと撤退した。


「お姉ちゃんの力はあれはどうやったの?」


「サマエルちゃんに貰ったんです。元々はサマエルちゃんのものですよ」


 デフネが隣に座るファティマの顔に自分の顔を近く寄せて尋ねるのにファティマがそう答える


「へえ。じゃあ、化け物なのはお姉ちゃんじゃなくて、そっちの陰キャなのか。ふふ、よろしくね、化け物さん?」


「え……。化け、もの……」


 デフネの言葉にサマエル表情が衝撃を受けたかのようにこわばった。


……………………

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