武器市場
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──武器市場
ファティマとサマエルはジェーンから受け取った位置情報に従って、フォー・ホースメンの支配地域にある市場を訪れた。
「ここがそうみたいですね。とても賑わっています」
「お姉さんの欲しいものが手に入るといいね」
市場には大勢の人間がいた。フォー・ホースメンの兵士たちもいたし、民間人もいる。並べられている商品も様々だ。
「安いよ! ゲヘナ軍政府横流しの戦闘糧食セット! 日持ちするし、栄養抜群!」
公然とゲヘナ軍政府から横流しされた品が並んでいる。戦闘糧食からタクティカルベストや銃弾の類まで。
「
市場は無秩序に広がっている。並べられている商品は特に指定された場所にあるわけではなく、何かの肉の串焼きを売っている屋台の横で、タバコと拳銃を販売していたりとカオスな状況になっていた。
「そこの美人さん! その銃の銃弾は足りているかい? うちの銃弾は不発率ゼロだよ! お買い得から覗いていきなよ!」
「そうなのですか? でも、私は先に買わなきゃいけないものがありまして。その予算がどの程度になるのか分からないのです」
「何を探してるんだい?」
「
様々な銃弾を売っている商人がファティマに尋ねるとファティマがそう答える。
「
「分かりました。後で寄ります。銃弾は必要ですから」
「オーケー。この通りの突き当りの曲がり角を曲がって4軒目に重装備を扱っている店がある。ラスクって男が経営している店だ。そいつが最近いい状態の
「ありがとうございます。後でまた伺いますね」
「待ってるよ!」
ファティマが笑顔で礼を述べるのに気を良くしたのか商人も笑顔で見送った。
「さてさて。サマエルちゃん、はぐれないように手を握っておきましょう」
「うん」
大勢の人で込んだ通りに広がる市場でファティマはサマエルの手を握り、市場を目的地に向けて進んでいく。
市場に並んでいる店も立派な店構えのものからブルーシートに商品を並べただけの貧相なものまでさまざま。
「ここですね。間違いありません」
そして、ファティマたちは商人が言っていた
その店は市場に並ぶ露店というわけではなく、市場に面する通りの建物に店を有していた。ちょっとしたショーウィンドウまであり、そこには口径40ミリ自動擲弾銃や口径7.62ミリガトリングガンなどが展示されている。
「うーん。お高い感じの店ですが予算は足りるでしょうか?」
「ごめんね、お姉さん。ボクはお金は持ってないから……」
「大丈夫ですよ。今買えなければちゃんと
サマエルが言うのにファティマはそう励まし、店のドアを潜った。
「いらっしゃい」
中には古びたデジタル迷彩の戦闘服を纏ったちょっとお腹の出た中年の男店主がおり、店の中は様々な軍用品が強固な金属の柵によって守られて展示されていた。
「あの
「ああ。丁度いい時に来たね、お客さん。まさに良好な状態の
「見せていただけますか?」
「こっちだ」
店主がファティマを店の倉庫に案内する。
「これだよ。最新の大井重工製の117式強化外骨格! 未使用で、作動状態も良好。これはいい品だよ」
「細心の装備ですね。どこから?」
「そいつは言えないね」
ファティマがフォー・ホースメンが使用している099式強化外骨格より最新で優れた
117式強化外骨格は装甲が電磁装甲で防御性に優れ、かつその重量を支えてもまだあまりある次世代の人工筋肉の出力を有する。まさに攻守ともに優れた装備だ。
「お値段はいかほどでして?」
「450万クレジット。1クレジットも譲れないよ。これでもかなり値引きしてるんだ」
「ありゃりゃ」
思った以上に高額の商品であった。
「旧式でもいいので良好な状態の
「今は扱ってないね。そういう
「そうでしたか」
店主が肩をすくめるのにファティマが物欲しそうに117式強化外骨格を見つめた。装甲は都市型迷彩に塗装されており、頼りがいのある形状をしている。
「お姉さん。どうするの?」
「どうしましょうか?
サマエルが心配そうに尋ねるとファティマが困り切った表情でそう返した。
「これが必要なんだよね? じゃあ、ボクが頼んでみるよ」
「値引きはしてくれそうにないですよ?」
「うん。だから、頑張ってみる」
サマエルはそう言うと店主の前に出た。
「おじさん。お願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「何だい、お嬢さん。値引きはしないよ」
「どうしても、ダメ?」
店主が眉を歪めて拒絶の意志を明確に示した時、サマエルの赤い爬虫類の瞳が不思議な光を宿した。
「……ああ。そうだな。別に譲ってもいいよ。特別だ」
「えっ!? それ450万クレジットの商品ですよ……?」
店主がいきなり態度を翻したのにファティマが大慌てになる。
「いいんだ、いいんだ。持っていきな。サービスだよ」
「それはいけません! ただで受け取るのは不健全です。少ないですが払わせてください。50万クレジットなら払えますから受け取ってください」
「そうかい? じゃあ、受け取っておくよ」
ファティマは店の端末に50万クレジットを送金し、店主がそれを確認した。
「じゃあ、持っていきな。運ぶ手段はあるかい?」
「いえ。宅配のサービスなどはありますか?」
「宅配なら業者に手配できるよ。どこに届ければいい?」
「この住所にお願いします」
ファティマがバーロウ大佐から貸し与えられた兵舎の住所を送信する。
「分かった。明日にはその住所に届くようにしておく」
「よろしくお願いします」
ファティマは店主に頭を下げてサマエルとともに店を出た。
「……なんだか変でしたよね?」
「気にしないで、お姉さん。悪いことじゃないよ」
店主の豹変ぶりを未だに怪訝に思い、首を傾げるファティマはサマエルが小さな笑顔を浮かべてそう言った。
「しかし、これで運よく
「手術しないといけないの?」
「ええ。
「背骨に手術をするの……? それは痛くない……?」
「もちろん麻酔はしますから大丈夫です。だが、重要な手術なので腕の確かな医師に任せたいですね。確かに脊椎を損傷すると一生の障害になりますから」
サマエルの表情が僅かに青ざめるのにファティマはそう説明する。
「絶対に腕がいいお医者さんにしようね? 絶対だよ?」
「ですね。というわけで、ジェーンさんに当てがないか聞いてみましょう。彼女はゲヘナに詳しいみたいですし、また助けてくれると言ってくれてましたから」
ファティマは心配しきっているサマエルにそう言うとZEUSからジェーンに連絡を取った。メッセージを送り、返信を待つ。
『ファティマか? 医者がいるのか?』
ジェーンから連絡が来た。
「はい。運よく
『あるにある。フォー・ホースメン所属の軍医でミア・カーターって女だ。こいつはゲヘナでも指折りの名医であり、治療費もあまり請求してこない良心的な医者だ。今、そいつのいる住所を送った』
「ありがとうございます、ジェーンさん」
『これぐらいはお安い御用だ』
ジェーンからの連絡が切れる。
「医師は確保できました。後は兵舎に
「分かった。お腹も減ったからね」
「
サマエルが微笑み、ファティマも嬉し気に笑うと、彼女たちは人で溢れた活気ある市場を再び進み始めた。
MTAR-89自動小銃とSP-45X自走拳銃の銃弾を買っておき、それから市場の近くにあったハンバーガーショップでバーガーを食べる。ファティマは結構食べたが、サマエルは小食で小さなバーガーひとつでお腹いっぱいだった。
そして、フォー・ホースメンの兵舎へと向かう。
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