初めての仕事//お駄賃
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──初めての仕事//お駄賃
「さあ、早く歩いてください。撃ちますよ」
ファティマは
「よう!
合流地点に到着するとタイパン四輪駆動車の傍でファティマを送り届けた中年の男性兵士がタバコを吹かして待っていた。彼は怪訝そうにファティマがが2名の兵士に銃口を向けているのを見る。
「残念なことに彼らはフォー・ホースメンではなくゲヘナ軍政府に忠誠を示そうとしたようです。裏切りですよ。MAGに拉致されたのではなく、ゲヘナ軍政府に情報を売るために保護されていたそうです」
「あーあ。そいつは大佐がお冠になるぞ。まあ、指の1本、2本の話ではなく、ろくでもないことになるぞ。ご愁傷様」
ファティマが肩をすくめて説明するのに中年の兵士が咥えていたタバコの煙を裏切者の顔に向けて突き付けた。
「じゃあ、戻るか。そいつらを積み込んでくれ。ちゃんと見張ってろよ、新卒さん。パナゴス上等兵、出すぞ。
「了解です。さあ、早く乗ってください」
中年の兵士が言い、ファティマはタイパン四輪駆動車の後部座席に押し込み、銃口を向けたまま自分も乗り込み、それからサマエルがファティマの隣に座る。
「出すぞ」
行きと同じく帰りも中年の兵士が運転し、女性兵士は
「止まれ!」
イーグル基地のゲートに到着すると歩哨が車を停めさせた。
「ああ。ムフタール軍曹ですか。何の用事です?」
「バーロウ大佐からの任務だよ。後ろの新卒さんの送り迎えと
「オーケー。確認しました。どうぞ」
保証がZEUSの端末で生体認証を行い、その生体認証データのタグがある任務と参照し、中年の兵士が言っていることが正しいことを確認するとゲートを開けた。
ファティマたちを乗せた車は基地のエントランス前で停車し、そこにフォー・ホースメンの兵士2名がやって来た。
「おや。どうやらVIP待遇みたいじゃないですか」
やって来た兵士の片方は若い女性だ。
年齢は20台中ごろだろう。眠たげに半開きになった目は青い瞳が鈍く輝き、飾り気のないブルネットのポニーテイル。かなりの長身で女性の中では長身の方のファティマより大柄で190センチ近くある。
その都市型迷彩の戦闘服の上からでも分かる鍛えられた体には他のフォー・ホースメンの兵士と違って新型の
武装は太もものホルスターに収めた口径5.7ミリ拳銃弾を使用するHW57自動拳銃のみだ。口径5.7ミリ拳銃弾は貫通性が高く、アーマーを抜ける。
「……おい。バーロウ大佐が言っていた新入りはお前か?」
そして、その女性を守るようにその脇に立ち、ファティマに話しかけてきたのは年齢の分からない男性。
年齢が分からないのはその顔を金属製の黒いフルフェイスマスクで覆っているからだ。目のところがメッシュになっているだけで完全に顔を覆っており、男性だとファティマが判断したのはその大柄な体格からだ。
そう、びっくりするほど大柄である。戦闘服が張り裂けんばかりにがっしりとした体は200センチ以上もあり、威圧感が凄まじい。さらに099式強化外骨格を装甲を追加して装備しており、まるで巨人のようだ。
こちらは
「はい。ファティマ・アルハザードと言います。バーロウ大佐から依頼された
「ガーゴイル。そう呼べ。お前と
「了解です」
フルフェイスマスクの男性兵士はガーゴイルと名乗り、ファティマとサマエル、そして裏切って拘束された2名の兵士の後ろに立ち、進むように促す。
「こっちよ、新卒さん。私はグレース・ヴァレンシア。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
先頭にはグレースと名乗った女性兵士が立ち、イーグル基地内を進んでいく。
グレースとガーゴイルに挟まれて、ファティマたちはバーロウ大佐の執務室ではなく、地下室に向かった。頑丈なバンカーになっている地下室は黴臭く、照明は切れていたり、点滅していたりと薄暗い。
そして、明らかに尋問に使われる部屋にグレースが入った。
部屋名の中には人を吊るす拘束具とシートが設置されていて、吐瀉物、排泄物、血液の臭いがうっすらと漂っている。
そこにバーロウ大佐とジェーンが待っていた。
「何とか
「その通りです。その場で殺してもよかったのですが、そちらで始末がしたいだろうと思い連れてきました。後はご自由にどうぞ」
「もちろんだ。裏切者ってのにはそれ相応の報いを受けてもらうべきであり、そしてこいつらがMAGに何の情報を漏らしたのか把握しなければならない。楽しい、楽しいお喋りの時間だ。ええ?」
バーロウ大佐は口は笑っていながらも、目は笑っておらず裏切った2名の兵士に冷たい視線を向け、その視線に裏切者たちが震え上がった。
「で、報酬だな。約束通りに支払おう」
「ちょっと待ちな。
バーロウ大佐が告げるのにジェーンが異議を申し立てた。
「意地汚いな、ジェーン。まあ、いい。お嬢さん──ファティマの
「ふむ。妥当なところだな。それからファティマへの評価と信用も、な」
「いちいち言われなくても分かってる。この新入りは実力を示した。俺は高くそれを評価する。認めてやろう。こいつは使える人材だと。よって、これからフォー・ホースメンの
ジェーンがファティマの代わりにしっかりと報酬を主張するのにバーロウ大佐が煩わし気にそう返しながらZEUSを操作する。
「ファティマ。お前の端末に報酬を振り込んだ。それから貸してやる兵舎の位置も送った。確認しろ」
「確認しました。確かに報酬、いただきました。ありがとうございます」
バーロウ大佐が告げ、ファティマがZEUSのAR画面を見て頷く。
「グレース、ガーゴイル。こいつらとお喋りしておけ。MAGの連中に何を喋ったか吐かせろ。対策を立てる必要がある」
「了解」
グレースとガーゴイルのふたりはバーロウ大佐の指示を受けて裏切った兵士たちを拘束し、尋問の準備を始めた。
「行こう、ファティマ。私たちにはもう関係ない」
「ええ。サマエルちゃん、行きましょう」
ジェーンがそう言って部屋から出て、ファティマとサマエルが続く。
彼女たちが去った部屋からは防音の扉すら抜ける悲鳴が聞こえた。
「さて、これからだがフォー・ホースメンの信頼は得られた。一先ずここで暮らしていけるわけだ。よかったな」
「次はどうします?」
「まずは装備だろう。お前はフォー・ホースメンの
「武器は今回の
ジェーンが説明するのにファティマがそう返す。
「
、市場にいつも欲しい商品が並んでいるわけじゃないからな」
「見てみないと分からないわけですか。市場の場所は?」
「そっちの端末に送った。私は用事があるから一緒にはいけない。そっちで装備は調達してくれ。じゃあな。これからもいろいろと世話してやる。頑張れよ」
ジェーンはそう言うとニッと笑ってそう言い、近くに停車していたタクシーにに乗り込み、イーグル基地ゲート前でファティマたちと別れた。
「さて! まずはサマエルちゃん!」
「何、お姉さん?」
ファティマがサマエルの方を見て満面の笑みを浮かべるのにサマエルがファティマの方を怪訝そうに見つめ返した。
「あなたのおかげで
ファティマはそう言って屈むと小さなサマエルの体を抱きしめる。
「お姉さん……! うん、うん! 一緒に頑張ろう! ボクの全てをお姉さんに捧げるから、お姉さんは幸せになってね……!」
サマエルは笑顔を浮かべながらも涙を流してファティマを抱き返した。
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