初めての仕事//赤い粒子

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 ──初めての仕事//赤い粒子



『クロコダイル部隊、こちらスワロー・ゼロ・ワン。上空援護機が装甲兵員輸送車APC及びアーマードスーツを攻撃する。警戒せよ!』


 空中機動部隊に随伴しているのはパワード・リフト攻撃機が警察署の駐車場で友軍を攻撃している装甲兵員輸送車APCとアーマードスーツに攻撃の照準を合わせた。


『ドードー・ゼロ・ワン。爆撃を開始する』


 飛来したのはMAG所属のオウル攻撃機2機だ。


 オウル攻撃機は軽装の攻撃機であり、対反乱作戦COINに使用される。反重力エンジンを搭載し、固定兵装として口径30ミリ機関砲を備え、多連装ロケットポッドや250キログラの誘導航空爆弾などを運用可能だ。


 その攻撃機が低空で侵入し、暴走している装甲兵員輸送車APCとアーマードスーツに口径70ミリ誘導ロケット弾を発射。


 対戦車榴弾HEATが主力戦車に比べれば薄い目標の装甲を貫いて破壊し、ロケット弾そのもの爆発と装甲兵員輸送車APCとアーマードスーツの弾薬とバッテリーが誘爆で駐車場が炎に包まれる。


 ファティマとサマエルもそれに巻き込まれたかのように思われた。


「危なかったですね……。だが、これは……?」


 ファティマとサマエルを守ったのはエネルギーシールドだ。


 しかし、それはエーテル粒子の発する青緑色のもではなく、赤い色をしていた。サマエルの瞳のように赤い色を。こんなものをファティマは見たことがない。


「お姉さんにボクが渡した力だよ。今はお姉さんの力」


「そう、なのですか? しかし、どうして私は知らない魔術を普通に使っているのでしょう……? どうして使い方を知っているのでしょうか……?」


「それはその力がお姉さんの力だから。お姉さんが自分の手でものを握るように自然に動かすことができる。さあ、使ってみて。これがボクはお姉さんにできる少ないことのひとつだから。お姉さんの力になりたいんだ」


 ファティマは何も意識せず、サマエルから与えられた力を使った。それはサマエルが語るように人が自分の体を動かすことを、他人から教えられなくても生まれたときから知っているかのようである。


『ドードー・ゼロ・ワンよりスワロー・ゼロ・ワン。友軍IDを持たない武装した人間を確認した。指示を求む』


『スワロー・ワン・ゼロよりドードー・ゼロ・ワン。これから部隊を降下させて確認する。航空支援の要請があるまで上空で待機せよ』


『了解』


 2機のオウル攻撃機は上空でホバリングしたまま口径30ミリ機関砲の砲口をファティマとサマエルに向け上空待機した。


 そして、それからMAGの空中機動部隊を輸送しているパワード・リフト輸送機が警察署の駐車場に迫ってくる。


 エデン統合軍及び民間軍事会社PMSCにおいて一般的なパワード・リフト輸送機であるハミングバード汎用輸送機4機からなる編隊は、1機に付き1体のヘカトンケイル強襲重装殻を下げたまま上空に進出した。


『スワロー・ゼロ・ワンより全部隊。降下開始、降下開始』


 駐車場上空でホバリングを開始したハミングバード汎用輸送機はまずアーマードスーツを地上に降下させる。


『スワロー・ツー・ゼロ、降下完了』


 20メートル上空からロープなどの補助もなしに降下したヘカトンケイル強襲重装殻は着地寸前に内蔵したスラスターを噴射させて速度を落とし、落下の際の衝撃を人工筋肉で受け止めた。


『アーマードスーツ部隊が降下地点確保。続いて歩兵降下せよ』


 ハミングバード汎用輸送機の機体側面に開いた兵員ドアからMAGの強化外骨格エグゾを装備した歩兵が次々に、やはりロープなどは使わず降下する。


 歩兵の纏っている強化外骨格エグゾの人工筋肉がやはり衝撃を吸収し、地面に降り立ったMAG部隊はスムーズに戦闘体制に移行した。


「あれがドードー・ゼロ・ワンから連絡があった人間か」


「武器を捨てて、両手を頭の上において跪け! 怪しい動きをすれば射殺する!」


 増援として派遣されてきたMAG部隊がファティマとサマエルに銃口を向ける。


「おい! そいつが俺たちの部隊をやった奴だ! 殺せ!」


 警察署の中から先にいたMAG部隊の生き残りであるコントラクターが出てきて、増援部隊に向けてファティマを指さして叫んだ。


「分かった! 全部隊、射撃自由! 撃て!」


 そして、増援のMAG部隊が歩兵とアーマードスーツ合わせて一斉にファティマを狙って射撃を開始。無数の銃弾とグレネード弾がファティマに牙を剥く。


「くっ! 不味いです! エネルギーシールド!」


 ファティマが再び赤いエネルギーシールドを展開し、それがこの苛烈な攻撃を凌いでくれることを祈った。だが、通常のエネルギーシールドなら、この規模の攻撃を前にしては無力化される。


 そのはずだった。


「お、おい。効いてないぞ。どうなってるんだ?」


「エネルギーシールド……? いや、どうも妙だ。あの赤い色は何だ? エーテル粒子ではないのか? それにこの異常な強度はいったいどうなってる?」


 MAG部隊が叩き込んだ銃弾と爆弾は全てファティマが展開した赤いエネルギーシールドによって防がれ、その銃弾の一発も、その爆弾の欠片のひとつも、ファティマとサマエルに達しなかった。


「これがサマエルちゃんの言っていた力なのですか……! 凄いです!」


 ファティマはその様子を見て不敵に笑う。


「お姉さん。自分の直感を信じて力を使って。きっとお姉さんはこれをどう使うべきかを猛理解しているから。ボクがそうなるように頑張ったから! お姉さん、頑張って!」


「ええ。反撃の時間ですよ!」


 サマエルに励まされ、ファティマが自分が得た力を本能に従って行使する。


「エネルギーブレード展開!」


 ファティマがそう言ってエネルギーブレードを展開させる。


 しかし、それはこれまでファティマが使用してきたエーテル粒子で構築されるものとは異なっていた。そう、あらゆる面において。


「クソ。何だあれは? 剣なのか? エネルギーブレード?」


「嫌な予感がするぞ、畜生め。さっさと死にやがれ!」


 MAG部隊の前にファティマが展開させたエネルギーブレードは十本。


 その長さはかつて戦争で使われた両手剣ツヴァイヘンダーのように長く2メートルほどで、その幅はずっしりと太く15センチほどである。


 それらは刃先をMAG部隊に向け、半円を描くように宙に浮ている。今のファティマの使用するエネルギーシールド同様に仄かに輝く赤い光を放ちながら、戦場に剣呑な空気を醸し出していた。


「貫き、切り裂き、破壊せよ。やってやります!」


 ファティマがそれらのエネルギーブレードに対して命令を出すように右腕を振ると十本の赤い刃が戦場を舞った。


「おい! なんだよ、これ──」


 MAGのコントラクターたちが強化外骨格エグゾごと貫かれ、そのまま切り裂かれる。エネルギーブレードは熱したナイフでバターでも切るかのように滑らかかつ一瞬でコントラクターたちの体を八つ裂きにした。


「冗談だろ、おい!」


 仲間が一瞬で物言わぬ躯どころか人間の残骸に成り果てるのにMAGのコントラクターたちがパニックに陥り、ひたすらファティマを攻撃する。だが、その攻撃は届かない。


「クソ、クソ、クソ! アーマードスーツに援護させろ! それから上空援護機に近接C航空A支援Sを要請! 目標を指示し、ぶちのめせっ!」


 MAG部隊の指揮官がZEUSに連動した通信機に向けて命令を叫び、4体のアーマードスーツがMAG部隊の歩兵を守るように前方に進出。


『相手は未知の魔術を使用している。あらゆる火力を叩き込んで撃破せよ!』


 空中機動部隊に随伴していた4体のヘカトンケイル強襲重装殻は先のMAG部隊のものと違って重装であった。


 固定兵装である口径40ミリ機関砲はもちろん、肩には19連装口径70ミリ多目的ロケット弾を、2本のメインアームには口径12.7ミリ重機関銃と口径40ミリ自動擲弾銃。


 そして、4本のマニュピレーターアームのうち2本は口径7.62ミリ機関銃2丁を装備している。かなりの高火力かつ連続した火力の投射が可能なものだ。


「いいですよ。相手して差し上げましょう。さあ、私の力を示しますよ!」


 ファティマは迫りくるアーマードスーツを前に口角を歪めて笑う。


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