初めての仕事//七つの頭、十本の角、七つの王冠
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──初めての仕事//七つの頭、十本の角、七つの王冠
「きゅ、救援? あんた、どこの誰だ?」
「言ったではないですか。バーロウ大佐に依頼された人間です。さあ、逃げますよ。またMAG部隊はいますから増援を呼ばれる前に急がないといけません。脱出のための足はあるので、そこまで離脱しましょう」
救出対象の兵士が狼狽えるのにファティマがそう言って取調室から出るように促した。2名の兵士は拘束もされておらず、自由に動ける状況だ。
「分かった。あんたに従うよ。先導してくれ」
「ええ。ついてきてください。私が護衛します」
兵士たちが立ち上がり、ファティマに続いて取調室を出た。
ファティマはまず部屋に隠れておいてもらったサマエルと合流することを目指す。
「サマエルちゃん。
「分かったよ。急いで逃げよう。お姉さんがいくら強くても、お姉さんの敵になる相手はたくさんいるみたいだから」
ファティマがサマエルと合流し、ファティマはサマエルを連れて警察署を出る。
『こちらスワロー・ゼロ・ワン。クロコダイル部隊へ。救援要請を受けてそちらに向かっている。
『こちらクロコダイル・ワン・フォー! 小隊長戦死! 部隊は甚大な被害を出している! すぐに来てくれ!
ここで警察署の駐車場に放置されていたコントラクターの死体が装備していた無線からMAG部隊の交信内容が聞こえてきた。
「不味いですね。残り9分で敵の増援が来ます。急がないといけません」
「お姉さん。大丈夫、だよね?」
「心配せず。やり遂げて見せますよ」
サマエルが心配し、泣きそうな表情を浮かべるのにファティマが笑顔で励ます。
「なあ、あんた。俺たちも武装していいか?」
「そこで死んでいるコントラクターの死体の装備は破損している可能性がありますが。それでもいいのならばどうぞ」
2名のフォー・ホースメンの兵士が尋ねるとファティマが頷く。
2名の兵士は死亡しているMAGのコントラクターの死体からMTAR-89自動小銃を奪い、マガジンの残弾を確認し、装備した。
「陽動で出動した部隊も戻ってきます。急ぎ──」
ファティマが再び戦術級偵察妖精を打ち上げ、MAG部隊が行動している周囲地帯の航空偵察情報を得ようとしたとき4発の連続した銃声が響いた。
「え……」
銃声は背後から。
「悪いな。俺たちはMAGに拉致されたわけじゃない。MAGに情報を売りに来たんだ。救援は必要ない。俺たちは情報を売って、MAGとゲヘナ軍政府に保護されて、膨大な報酬を貰い、快適に暮らすことを選んだんだよ」
ファティマを撃ったのは救出した2名のフォー・ホースメンの兵士だ。
「かはっ……。うう……」
銃弾はファティマの肺と腹部の内臓を貫き、呼吸が困難になると同時に大量の出血が始まった。ファティマは跪いて持っていたMTAR-89自動小銃を裏切った兵士に向けようとするも、さらに銃弾を胸に受けて地面に倒れる。
「くうっ……。ゆ、だんした……」
ファティマは自分が流した血でできた血だまりに沈み、呟く。
そこにエンジンと無限軌道の立てる重々しい金属音が響いてきて、陽動に釣られたMAG部隊が警察署に戻って来たのが分かった。
「何が起きた?」
「フォー・ホースメンが俺たちを奪還しにきた。そこのそいつだ。仕留めておいた。で、そろそろ俺たちを安全な場所に連れて行ってくれるんだよな?」
「ああ。移送が決まった。お前たちをゲヘナ軍政府支配地域で保護する」
「よし。俺たちの知っている情報は全て伝える」
MAGのコントラクターたちとフォー・ホースメンの裏切者が言葉を交わす。
ファティマは出血が酷くて動けず、死を待つのみ。
「お姉さん! お姉さんっ!」
意識が薄れつつあるファティマの耳にサマエルの必死な声が聞こえるが、ファティマは言葉を返すことができない。
「おい。そのガキは何だ?」
「知らん。脅威じゃないだろ」
MAGのコントラクターが訝しむのに、フォー・ホースメンの裏切者が肩をすくめた。
「よくもお姉さんを……!」
サマエルは怒りの表情を浮かべ、眉を歪め、歯を食いしばり、MAGのコントラクターとフォー・ホースメンの裏切者たちを見る。
「ボクは無力じゃない……! 思い知らせてやる……!」
次の瞬間、MAG部隊のアーマードスーツと
『なっ!? 何故、制御権限が奪われているんだ!? クソ、こちらの操作を受け付けない! どうなってる!?』
突如として兵器の制御を奪われたことにMAG部隊が慌てふためく。これらの装備は無人運用も想定しているため、手動の操作を無効にし、独自に動かせる。
そして、唐突に乗っ取られた兵器が彼らの友軍であるMAGのコントラクターたちに向けて攻撃を開始した。
「おい! 友軍を攻撃しているぞ! 射撃を止めろ!」
『乗っ取られてる! こちらでは何もできない!』
銃撃を受けたコントラクターと乗っ取られたアーマードスーツ及び
それによってMAG部隊は大混乱に陥った。
「お姉さん、お姉さん! お願い……! 返事をして……!」
サマエルが必死にファティマに訴えるが、ファティマは出血によって意識が薄れておりサマエルの呼びかけに応答しない。
「……お姉さん。ボクはあなたを助けたい。できることをするよ。それでお姉さんが幸せになるかは分からないけれど、ボクはお姉さんを失いたくないんだ……!」
サマエルがそう述べたのと同時にファティマが失いかけている意識に変化が生じた。
同時にファティマの脳に膨大な情報が流れ込んでくる。まるで知らない知識が強制的にインストールされていく。意味不明で、どのような繋がりがあるのか分からない言葉で綴られた情報がファティマに与えられる。
『楽園の誘惑するヘビ──』
『──構造を解析』
『七つの頭、十本の角、七つの王冠──』
『──緊急処置を適応』
『赤い竜は来たれり──』
『──生命維持を認識』
『竜は獣に力と王座を授ける──』
『──
ファティマが目を開き、口を開いて肺に空気を取り込む。
「え……?」
破損していたはずの肺はちゃんと空気を取り込んだ。空気とともに取り入れた酸素は血中を巡り、銃弾によって大動脈を裂かれたはずの血管は全て正常に繋がっており、失ったに違いない血液すらも満たされていた。
「お姉さん! お姉さん……! 生きてるよね? もう痛くないよね? 大丈夫だよね? ボクのことが分かるよね?」
「え、ええ。しかし、何があったのですか? 私はどうして……」
サマエルがその真っ赤な爬虫類の瞳に涙を浮かべて口早に尋ねるのにファティマは困惑しきっていた。ファティマは自分が明らかに致命傷を受けたと思っていたのだ。
しかし、見たところ出血は既に止まっており、リクルートスーツには大量の血が滲んで変色しているが既に痛みはない。
「状況は」
既に自分が負傷していないということだけ確認し、ファティマは素早くスリングに下げていたMTAR-89自動小銃を握る。
『クロコダイル・ワン・フォーよりスワロー・ゼロ・ワン! 急いできてくれ! 未確認の電子攻撃を受け、所有装備の制御権限を奪われている! 友軍IDの
『了解。こちらで撃破する。上空援護機は間もなく爆撃を開始』
周囲ではMAG部隊が友軍であったはずの
ファティマとサマエルはその銃弾が飛び交う交戦地帯から僅かに離れた場所にいた。
「不味いです。ここに敵の空中機動部隊が来たらすぐに殺さてしまいます。どこかに隠れてやり過ごさないと」
ファティマが立ち上がり、周囲を見渡し、隠れられる場所を探す。だが、警察署内は既にMAGに押さえられており、駐車場には隠れられる場所などない。
「お姉さん。今のお姉さんには力がある。ボクが与えらえる力をお姉さんに渡した。それを使えばきっとこの状況を乗り切れる。お姉さんもボクも生きて帰れる。これからも一緒に過ごすことができる」
「力、ですか?」
「そう、力だよ」
サマエルがそう言って銃を握るファティマの手に自分の小さな手を重ねる。
「七つの頭、十本の角、七つの王冠──赤い竜の力、獣の力」
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