初めての仕事//目標救出

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 ──初めての仕事//目標救出



 ファティマがMAG部隊に向けて叩き込んだ空中炸裂エアバースト弾はコントラクターの周囲で炸裂し、衝撃波と鉄片を撒き散らした。


 空中炸裂エアバースト弾の威力は絶大で3発の空中炸裂エアバースト弾で生き残りの4名のコントラクターを殺害し、さらには近くにいたアーマードスーツの兵装にもダメージが及んだ。


「上出来です。残りを排除しましょう」


 歩兵が全滅したアーマードスーツと装甲兵員輸送車APCは脆弱な目標である。


アーマードスーツも装甲兵員輸送車APCもその巨大さに対して索敵能力は低く、視野は歩兵ほと広くなく、死角が多い。


「ふっ飛ばしますよ」


 ファティマはTYPE300装甲兵員輸送車にマウントされた口径12.7ミリ重機関銃の射撃をエネルギーシールドで防ぎつつ、それに対して肉薄。同時にジャンプするとその上部に上り、兵装が使用できない位置に立った。


「これをどうぞ! 遠慮せず!」


 乗員の脱出のためにロックされていなかった車長用ハッチをファティマが開き、焼夷手榴弾1発を放り込んでハッチを閉じて離脱。


『ああっ──』


 装甲兵員輸送車APCの中が炎に包まれ、乗員が焼き殺される。


「さてさて、次ですよ、次」


 もう1台のTYPE300装甲兵員輸送車は無人銃座RWSにマウントされた重機関銃をファティマに向けて乱射するが、ファティマはエネルギーシールドでそれを防ぎ、素早く遮蔽物に飛び込む。


 エネルギーシールドは万能ではない。一定のダメージを受ければエーテル粒子の密度が薄れ、敵の攻撃を突破させてしまう。重機関銃の連続射撃や対戦車ロケットを受ければ一撃で無力化される。


「さて、残る装甲兵員輸送車APCとアーマードスーツの始末です。もうひとつの携行対戦車ロケットは多分損傷しているでしょう。つまり、あとは肉弾戦ですね」


 幸いにして今のMAG部隊には索敵能力が低い装甲目標が孤立していた。彼は随伴歩兵からの情報がなく、すぐにファティマを見失ってしまう。


装甲兵員輸送車APCはさほど脅威ではありませんね。自衛のためだけに動いています。よって次の目標はアーマードスーツですよ」


 ファティマはそう独り言を呟きつつ、アーマードスーツに接近。


『クソ。敵が肉弾戦を仕掛けようとしてやがる! させるかよ!』


 アーマードスーツが口径40ミリ機関砲と口径12.7ミリ重機関銃を乱射し、ファティマの攻撃を阻止しようとする。


「やられませんよ」


 ファティマは再びエネルギーシールドを展開し、その防御力が耐える限り使用し続け、、アーマードスーツに瞬く間に肉薄。


「そこまでです。グッバイ!」


 ヘカトンケイル強襲重装殻の胸部に設置されているパイロットシートに向けてファティマは生成したエネルギーブレードを突き立てる。


『があっ──』


 エネルギーブレードはアーマードスーツの胸部に火花を散らさせ、中にいるパイロットを殺害し、アーマードスーツのいベトロニクスを破損させ、戦闘不能に追い込んだ。


「最後は装甲兵員輸送車APC。あれは武装さえ潰せばいいです。ささっとやってしまいましょう!」


 TYPE300装甲兵員輸送車は無人銃座RWSの重機関銃でファティマを狙うも、ファティマはエネルギーシールドを展開し、かつ遮蔽物を利用することで敵の銃撃を防ぎ、目標に向けて近接した。


『近接されてるぞ! 近接防衛兵器を使用しろ!』


『了解!』


 しかし、今回の攻撃では装甲兵員輸送車APCが接近を察知し、搭載されている敵歩兵に肉薄された際に使用する近接防衛兵器を使用する。


 その近接防衛兵器というのは車体に搭載された口径60ミリ軽迫撃砲で、そこからキャニスター手榴弾同様に鉄球を詰めた迫撃砲弾を発射。その迫撃砲弾が空中で爆発することで肉薄してきた敵を撃退するのだ。


「おっと! 危ない、危ない!」


 しかし、ファティマはそれに対してエネルギーシールドを展開。魔術師の中で最高位の技術を有すると認定されたアルファ級高位魔術師であるファティマのエネルギーシールドは敵の抵抗からファティマを守った。


「では、これで終わりです」


 ファティマは無人銃座RWSにピンを抜いた焼夷手榴弾を設置し、素早く離脱。焼夷手榴弾が炸裂し、その高熱が無人銃座RWSと重機関銃を使用不能にした。


『離脱だ! 離脱する! このままでは戦えん!』


 そして、MAG部隊の装甲兵員輸送車APCは向きを変えてファティマから逃走し、警察署の駐車場を出て走り去っていた。


「よし。よくできました! では、目標パッケージを救出しましょう。のろのろしてたら敵の増援が来てしまいますよ。サマエルちゃんと合流して、素早く済ませないと」


 敵を撃退したファティマが屈託のない笑顔で言うと警察署の物陰に待たせていたサマエルの下に向かって戻る。


「サマエルちゃん。終わりましたよ」


「お姉さん! 大丈夫? どこも怪我してない? 痛いことなかった?」


 ファティマが戻ってくるとサマエルが慌てて近寄り、心配しきった様子でファティマの様子を見る。ファティマの纏っているリクルートスーツとタクティカルベストにはMAGのコントラクターから浴びた返り血などがついていた。


「心配してくれてありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですから。敵はいなくなったので急いで目標パッケージの人物を助けて、ここから離脱しましょう」


「うん。お姉さんは強いんだね……」


「エリートですから! さ、行きましょう」


 サマエルがファティマを見つめるのにファティマはにっと笑って返し、サマエルの手を握るとエントランスから警察署内に入った。


「サマエルちゃん。私の後ろからついてきてください。ブービートラップなどが仕掛けられている可能性がありますので」


「分かったよ。ついていくね」


 ファティマは警察署の中をサマエルを連れて進む。


 警察署内はMAGにより臨時の拠点とされていたようだ。オフィスがあっただろう場所は机や椅子がどかされ居住空間が作られていた。寝袋や簡易ベッドが並び、未開封の携行糧食やペットボトル飲料がその傍に置かれている。


「大丈夫ですね。今のところは、ですが」


 ファティマが起動させているZEUSのアプリのひとつが妖精の演算によって映像を分析して、不審物を検出している。それでも完全な検出は不可能だとファティマも知っているので、自分で確かめながら進んでいた。


目標パッケージはこの先の部屋です。サマエルちゃんはここで待っていてください。すぐに戻りますから」


「気を付けてね、お姉さん……」


 ファティマはサマエルを廊下に面するオフィスだった部屋に隠れさせ、自分は目標パッケージのフォー・ホースメンの兵士2名が拘束されている取調室に向かった。


「警備はなし。妙ですね。脱走を警戒しなかったんでしょうか?」


 フォー・ホースメンの兵士たちが監禁されている場所はどうもおかしかった。警報装置の類はなく、見張っているコントラクターもいない。フォー・ホースメンの兵士が脱走するなど考えていないかのようだ。


 ファティマは罠の可能性を考え、慎重に近づきドアの横の壁に張り付き、ドダのノブを確認する。ドアノブにはカギがかけられていた。


「では、マスターキーで」


 そこでエネルギーブレードを形成し、その刃をドアノブに突き刺す。ドアノブごとカギが破壊され、ドアが開く。


 ファティマはMTAR-89自動小銃をスリングにかけて吊るし、SP-45X自動拳銃を右手に握るとエネルギーブレードを左手に構える。


 狭い室内では銃身が短いブルパップ方式のMTAR-89自動小銃でも取り回しずらいために、素早く目標を狙える自動拳銃とエネルギーブレードで突入ブリーチするのだ。


「その場で両手を頭の後ろに組んでください! 歯向かえば撃ちます!」


「うおっ!?」


 ファティマが突入ブリーチし、中の状況を確認するのに叫び声が上がる。


 叫び声を上げたのはフォー・ホースメンの戦闘服を纏っただけの2名の男性兵士。バーロウ大佐からの仕事ビズで奪還を求められた目標パッケージのようだ。


「生体認証します。動かないでくださいね」


 ファティマは取調室におかれた椅子に腰かけている2名の兵士の生体認証データをZEUSで取得し、バーロウ大佐から渡されていた目標パッケージの生体認証データと照合する。


「オーケー。一致です。バーロウ大佐の依頼で助けにきましたよ」


 ファティマは2名の兵士にそう微笑んで告げた。


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