初めての仕事//奇襲
……………………
──初めての仕事//奇襲
ファティマとサマエルは再び戦場跡となった市街地を進む。
MAG部隊は建物の高所などにコントラクターを配置し、周辺を警戒している。見渡しのいい屋上に基本的に
敵の1個機械化歩兵小隊の主力である
「では、始めましょう」
ファティマは警戒線の歩哨のひとつに向けて敵に気づかれないよう遮蔽物となる崩壊しているか、崩壊しかけている建物の内部を進み、歩哨に近づいた。
まだ構造物としての形を残している建物の屋上にいる歩哨が目標だ。その目標に向けてファティマは油断せず、音を立てず、殺気を殺し、そして迅速に接近する。
「全く。こんな場所で尋問をしなくてもな。ゲヘナ軍政府支配市域に連れて行けばいいだろうに。意味が分からないぜ」
「さあな。うちの公安情報事業部はたまにこういうことをやるが。法的にグレーな作戦は記録が残らないところでやるわけだ」
「意味があるのか? ゲヘナの連中を拷問しようが、処刑しようが誰も何も文句は言わないと思うけどな」
「どうだろうな。あまりゲヘナの連中を刺激するもの得策じゃない」
「連中の機嫌を損ねるってか。連中がどう思うがどうでもいいぜ」
ここにいたMAGのコントラクターも油断しており、タバコを吹かし、銃を構えずに雑談に興じていた。形式的に屋上からの景色を見ているが、背後から接近するファティマたちには全く気付いていない。
ファティマはヘルメットとアーマーが備わった
ヘルメットは無理だが、アーマーは今ファティマが持っているMTAR-89自動小銃が使用するタングステンを弾芯に使用した徹甲弾で貫通可能。
銃弾の貫通力と防護のいたちごっこは延々と続いている。
「では」
ファティマは小さく呟くと歩哨に立っているコントラクターの胸を狙い、MTAR-89自動小銃に装着された熱光学照準器を覗き込む。
ファティマが狙うのは頭部ではなく、敵の胸。
ファティマが引き金を引けばライフル弾が音もなく放たれ、コントラクターの
呼吸が止まり、言葉を発することもできずに倒れる。
2名のコントラクターはファティマの正確で素早い射撃によって、やはり上級司令部である小隊本部に連絡できずに死亡。
「では、早速トラップを設置しますね」
ファティマはコントラクターが持っていた無線を分解し、それを利用して遠隔起爆可能な爆弾を作っていく。手榴弾をリモート爆弾とし、それらが爆発した際にもっとも他の部隊が動く場所に設置。
「準備完了です。次に行きますよ、サマエルちゃん」
「うん。お姉さんに付いていくよ」
ファティマとサマエルは爆弾設置の後、既に歩哨を排除した地点に戻り、そこから敵が防衛を固める警察署を目指した。
「そろそろ起爆しますか」
ファティマは警察署を囲う有刺鉄線付きの高い塀の一部が損壊していることを掴み、その地点からの侵入が可能であることを確認。
さらに放った戦術級偵察妖精から警察署を防衛するMAGの機械化歩兵小隊本隊がまだファティマたちに気づいていないことを把握する。
「起爆」
ファティマが無線を使って信号を送り、仕掛けてあった手榴弾が爆発。大きな爆発音が響き、偵察妖精からの映像に爆発音に警察署にいるMAG部隊が反応するのが見えた。
ファティマはじっくりと警察署にいる部隊が移動するのを待ち、息をひそめる。
「──……部隊を派遣する──……! ──……に警戒を──……!」
遠くからMAGのコントラクターが命令を叫ぶ声がし、
「動き出しましたね。ここからは時間との勝負ですよ。サマエルちゃん、頑張って走ってください」
「うん。分かったよ」
ファティマがサマエルにそう言って壊れた塀から警察署の敷地に侵入し、確実に遮蔽物と物陰に隠れて移動することを意識して進んだ。
「数名残っていますね。流石に全員で持ち場を離れるほど愚かではありませんか」
警察署の唯一の入り口である正面ゲートと駐車場には2台の
「どうするの、お姉さん。相手の方が数が多いよ?」
「大丈夫です。不意を打てば数の不利は補えます。こういう状況を想定した教育も受けていますので心配無用。すぐにやっつけますよ」
サマエルが心配するのにファティマは敵の配置と予想される動きを見ながら、どうするかを計画した。
「厄介なのは
ファティマがコントラクターのひとりが携行対戦車ロケットを所持していることを確認した。エデン陸軍の標準編成の機械化歩兵小隊における火力担当だ。
「あれをいただきますか。後はとにかく不意を打って混乱させましょう」
ZEUSにインストールしているアプリを使って目標を
ひとりは携行対戦車ロケットを装備した兵士2名。
そして、小隊長と思われる指示を出している人物とそれを補佐する下士官。現代戦において将校は昔のように着飾ることはなく、狙撃などを避けるために他の兵士と変わらない装備で、階級章すら剥がしている。
それでもファティマは大学で将校の見分けからの訓練を受けていたので、どの人物が将校であり指揮官で、どの人物がそれを補佐する下士官かとかを見分けられる。
指揮系統の破壊は軍事作戦の基本だ。
「サマエルちゃん。ここで待っていてください。行ってきますので」
「お姉さん。本当に気を付けて……。置いていっちゃやだよ……」
「心配しなくていいですよ。必ず戻ってきます」
ファティマは心配するサマエルにそう言い、行動に移った。
「まずは指揮系統」
ファティマは警察署の建物の物陰から駐車場に放置されてる車の残骸に移ると、そこからZEUSでマークしておいた敵の指揮官である小隊長と軍曹程度の下士官という指揮系統を担う人間を狙う。
MTAR-89自動小銃からサプレッサーを通じて無音で放たれたライフル弾が
「あ、あ、うあ……!」
心臓と肺を破壊された小隊長が口から気泡の混じった血を吐きだしながら、そのまま地面に崩れ落ちた。
「小隊長殿!?」
「敵襲、敵襲! クソ、どこから撃ってきた!?」
混乱が巻き起こり、コントラクターが慌てふためく。
「落ち着け!
一斉に混乱が広がるMAG部隊で兵士たちを落ち着かせ、生き残らせるための士気を出している人間がいる。それが下士官だ。
「さようなら」
ファティマはまだ自分の位置を敵が特定していないことを確かめ、その下士官の胸部──心臓を狙って再び銃撃。放たれたライフル弾が装甲を貫通し、心臓と肺を先ほどと同じように破壊した。
「あ、ぐう……。敵を把握し、
「軍曹殿!? クソ! 敵はどこだ!?」
小隊長と先任の下士官が死亡し、MAG部隊に一斉に混乱が降りかかった。
「オーケー。
ファティマは駐車場の廃車から廃車に移動し、さらにMAG部隊に接近。
「プレゼントですよ。楽しんで!」
そこでファティマがスタングレネードを混乱する敵部隊に放り込む。
「うわ──……」
炸裂とともに生じた激しい閃光と爆音がコントラクターたちの視野と聴覚を機能不全に陥らせ、見当識を喪失させた。
「では、頑張りましょう」
コントラクターがファティマを察知できない状況でファティマは一気にMAG部隊が展開している場所に駆ける。
『クロコダイル・ゼロ・スリーより全部隊! それぞれを援護し、速やかに応戦せよ! アーマードスーツと
MAGのコントラクターは何とか指揮を継承し、これ以上損害を出すこと防ぐために行動を取り始めた。
「さあ、このまま殲滅ですよ」
ファティマはにっと不敵に笑って、MAG部隊の制圧のために動く。
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