初めての仕事//係争地域

……………………


 ──初めての仕事//係争地域



 ファティマたちを乗せたタイパン四輪駆動車は停車。


 ここから先はフォー・ホースメンとゲヘナ軍政府が争っている戦場だ。


「さて、ここからは私の実力を証明する機会ですね。やってやりましょう!」


 ファティマはそう張り切るとまずは作戦地域となるこの係争地帯の地形と敵対勢力の位置を把握しようと考えた。


 この付近の地図はあるが戦闘が何度も起きている場所となると、地形は変化する。通れるはずだった場所が通れなくなることも多々ある。


 それに応じるためにファティマが動く。


「戦術級偵察妖精、召喚」


 ファティマがそう命じると10体ほどの青い光の球体がふよふよと浮かびながらファティマの前に姿をせ見せた。


 妖精には人間と同等、あるいはそれ以上の知能があり、それでいて召喚した人間の命令に絶対に従うという生命。それ故に様々な用途に使用される。


「偵察を開始。私の指示した場所を周回して偵察を実施」


 ファティマが命じると青い光はファティマの指示した偵察対象に向けて飛行する。探知されないように低空を飛行したり、物陰を利用しながら飛び続けた。


「オーケー。情報が入ってきました。周辺の地形の把握、完了。そして、敵部隊についても位置及び規模が確認できましたよ」


 偵察妖精からの映像はマルチウィンドウのようにファティマのZEUSにおける拡張現実ARの画面に表示され、それら全てに目を通しながら敵の位置と規模を探る、


「敵はTYPE300装甲兵員輸送4両を保有した1個機械化歩兵小隊32名。いずれもT-4201強化外骨格を装備し、MTAR-89自動小銃などの小火器で武装。他にヘカトンケイル強襲重装殻で武装したのが4名。ってところですね」


 ファティマが戦場を把握し、そう呟く。


 T-4201強化外骨格はエデン統合軍で一般的な強化外骨格エグゾである。


 通常の筋肉と同じようにアデノシン三リン酸ATP、糖質、脂質を消費して駆動する有機的な人工筋肉でアシストされ、一定の銃弾や砲撃の破片に防御性のある装甲が備えられているものである。


 ヘカトンケイル強襲重装殻はいわゆるアーマードスーツだ。高い火力と十分な装甲を有していることに加えて、パワード・リフト輸送機による空中機動が可能でヘリボーンの軽装歩兵を支援することがある。


「拉致された人質の位置関係を把握。MAGに守られていますね。ですが、この程度の障害は私の障害になりません!」


 ファティマは収集した作戦地域の情報をZEUSで統合。搭載されているAI代わりの妖精によって分析を実施させる。


 作戦地域にいるMAG部隊の行動予測が拡張現実AR上に表示され、同時に作戦地域内の警戒の薄い場所が推測された。


「よし。やりましょう。サマエルちゃん、着いて来てください。離れないように」


「うん」


 ファティマはサマエルを連れて作戦地域の何度も戦場となった市街地を進み、廃墟となり、破壊された建物から建物へ密かに移動していく。


 そして、離れた場所で歩哨に立っているMAGのコントラクター2名の背後を執った。MAGのコントラクターはひとりはMTAR-89自動小銃、もうひとりはKSV-PRO短機関銃で武装している。いずれもカスタムされていた。


「やりますよ。サマエルちゃん、目を瞑っておいた方がいいです」


「気を付けてね、お姉さん」


 ファティマはサマエルにそう言うと魔術によって操作される物質──エーテル粒子で構成されるエネルギーブレードを展開した。


 エネルギーブレードの刃の長さはエデン統合軍の軍用格闘術で推奨される30センチのもの。エーテル粒子の発する青緑色の光が仄かに輝き、無害な柄の部分がファティマの手に握られている。


「いつまでここに突っ立てればいいんだ?」


「知るかよ。小隊長殿は初めての重要な仕事だって張り切ってやがる。ただのフォー・ホースメンの下っ端なんて何の意味もないだろうに」


「まあ、交通整理よりやりがいを感じるんじゃないか?」


 MAGのコントラクターは愚痴りながら並んで立っている。敵襲を考えていないのか、明らかに油断しており、隙があった。


 ファティマは背後から足音を響かせず密かに、かつ速やかに近づきMAGのコントラクターのひとりに背後から飛び掛かる。


「え……──」


 MAGのコントラクターに背後から飛び掛かったファティマはコントラクターの口を左手で塞ぎ、右手に握ったエネルギーブレードで喉笛を一閃。さらに素早くT-4201強化外骨格のアーマーに守られている腎臓を貫いた。


「何が──」


 同僚が喉と腹部から血を撒き散らし一瞬で出血性ショックで死ぬのを見たもうひとりのコントラクターが、それを理解せぬまま反射的な動きで手に持っていたKSV-PRO短機関銃をファティマに向けようとする。


「おやすみなさい」


 ファティマは素早く左手にエネルギーブレードを生成し、コントラクターに向けて投擲。喉にエネルギーブレードが突き刺さり、目を見開いて銃を落としたコントラクターに、ファティマは右手のエネルギーブレードを向ける。


 腎臓と肝臓という体液が集まる急所を何度か突き刺し、ファティマはコントラクターたちが何の警報も発生ぬように仕留めた。


「オーケー。まずは武器を貰いましょう」


 ファティマは顔に浴びたコントラクターの血をリクルートスーツの袖口で拭うとコントラクターが持っていた装備を漁る。


「ここはMTAR-89でしょうね。ご丁寧にサプレッサーと熱光学照準器も付けてあります。レーザーレンジファインダーもなかなか嬉しいですね」


 ファティマはMTAR-89自動小銃を拾い作動状況とマガジンを確認。


 MAGのコントラクターが持っていたMTAR-89には消音効果とマズルフラッシュを隠すサプレッサーと低倍率の熱光学照準器、レーザーレンジファインダーもついていた。


 弾薬だがMTAR-89自動小銃は7.62x35ミリ弾を使用し、通常1個のマガジンに30発の弾丸は収まっている。コントラクターは1個のマガジンを装填しており、さらにタクティカルベストに5個のマガジンがあった。


「おや。空中炸裂エアバースト弾ですか。いいものですね」


 そして、そのマガジンのひとつにはMTAR-89自動小銃で運用可能なAI制御の近接信管で目標に接近した際に爆発を起こす空中炸裂エアバースト弾。これは敵に気づかれる可能性があるものの強力な弾薬だ。


「タクティカルベストも貰っていきましょう」


 コントラクターの死体が使えるものは全て奪っておく。


「おや。サイドアームもいいものがありますね」


 タクティカルベストをコントラクターから剥ぐ際にホルスターを発見。45口径の拳銃弾を使用するSP-45Xだ。いざというときの武器として装備していたのか、取り回しやすい銃身が短いものだった。


 そして、手榴弾も7発獲得し、うち2発の手榴弾はテルミット法を使用する焼夷手榴弾であり、もう1発は炸薬に電子励起炸薬を使用し、無数の小さな鉄球が内蔵されたキャニスター手榴弾だ。


 さらにスタングレネード1発、スモークグレネード2発。


「全部いただいておきます。ありがとうございました」


 それからファティマはコントラクターの死体を物陰に運び、発見されないようにしておいた。全てが片付いてから、ファティマはサマエルの下へ戻る。


「行きましょう。武器は手に入れました。敵を制圧し、目標パッケージを奪還します」


「お姉さん、本当に大丈夫……?」


「もちろんです。私はエリートですから。これぐらい余裕です」


 サマエルが心配そうな視線を向けるのにファティマが微笑む。


「あなたのことは守ります。絶対に。だから、安心てくださいね」


「お姉さんは優しいんだね。お姉さんことがもっと好きになるよ……」


 ファティマに励まされ、サマエルも安心した笑みを浮かべる。


「さて、残りを片づけましょう。こういうときは素早く動いて、常に相手の不意を打ち続けることが重要です。勝利するには主導権を握るべし。そして主導権は攻撃によって得られる。攻撃あるのみです」


 ファティマはまずは高所を目指す。廃墟になった建物のうち、構造が高いものを選んで侵入し、崩れた階段などを昇り、建物の屋上を目指した。


「よく見えますね。そしてよく狙えます」


 ファティマは屋上からMAGの部隊を見渡す。


 既に偵察妖精で分かっていたが屋上から直接見ることで立体的な位置が把握できた。


 まずこの作戦地域で目標パッケージが監禁されている建物は警察署だった建物で頑丈であるためそこまで破損していない。駐車場にはTYPE300装甲兵員輸送車が4両。


 警察署の周囲には中規模の商業施設が道路を挟んだ向こうにあり、それはほぼ破壊されている。その駐車場には墜落したパワード・リフト輸送機が放置され、ボロボロになったそれが錆びついていた。


 それら建物の周囲には2車線の道路が走っているが、砲撃や爆撃による陥没だらけであり、その上放棄された民間車両や軍用車両が転々としており、見渡しは悪い。


 敵の配置についてだが、警備を担当しているMAGの機械化歩兵小隊は警察署にほぼ全ての戦力を配置し、そこから周囲に転々と歩哨を配備して警戒線を構成していた。


「お粗末です。警戒線を広げ過ぎています。部隊の規模と防衛する施設との距離を考慮していませんね」


 ファティマがMAG部隊のことをそう分析する。


「ということなので、相互の連携ができていない警戒線の歩哨を奇襲して撃破。そこに爆弾を設置して爆発を起こすことで、そこに敵の注意を引く。警備がさらに手薄になったところで警察署を襲う」


 ファティマはすぐさま作戦を立案していく。


「では、始めましょう」


 僅かな笑みを浮かべてファティマが動き始める。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る