初めての仕事//ブリーフィング

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 ──初めての仕事//ブリーフィング



 ファティマのことを民兵フォー・ホースメンの総司令官バーロウ大佐に売り込もうとするジェーン。バーロウ大佐は考え込み、ファティマをじっと見つめる。


「いいか、バーロウ大佐。こいつはバビロニア魔術科大学を首席で卒業したアルファ級高位魔術師だ。大学時代に軍人としての訓練も受けてるし、就職志望はMAGだ。間違いなく使える人材だぞ」


「大学の成績なんてどうでもいい。大学でやることなんぞおままごとだ。大学での成績と実戦での能力は比例しない。特に大卒ってのは意外と使えない人間が多い」


 ジェーンの言葉にバーロウ大佐がファティマを見つめてそう語る。


「というわけで、実戦での成績を見させてもらう。実戦での成績バトルプルーフってのは大事だろう? カタログスペックは信頼できない」


 バーロウ大佐はそう言ってジェーンではなく、ファティマたちに向けてそう言った。


「私としては異論ありません。応じる準備はあります。私の優秀さを示してましょう。しかし、証明ができれば私をちゃんと信頼してほしいです。現実を知らない馬鹿な子供扱いでなく」


 バーロウ大佐の言葉にファティマがそう訴える。


「なるほど。やる気はあるのか。で、あるならば仕事ビズを受けてもらおう。言っておくがそう簡単な仕事ビズではないぞ。お使いのつもりの気分ならばすぐさま覚悟すべきだ」


「何であろうとやり遂げて見せますよ」


「よろしい。では、説明する」


 ファティマが意気込むのにバーロウ大佐が語る。


「数日前、MAGの連中がうちの縄張りからフォー・ホースメン所属の兵士を2名を拉致した。恐らくは情報を聞き出すためだ。ゲヘナ軍政府に雇われたMAGの連中にとってゲヘナで勝手に自治をしてる俺たちは不愉快な存在だからな」


 バーロウ大佐がそう言いながらZEUSを操作し、ファティマのZEUSにデータを送信。


「その兵士たちの生体認証データを送信した。こちらが掴んだ情報だとMAGはそいつらを基地ではなく、こっちの縄張りとゲヘナ軍政府の縄張りの中間地帯にある雑居ビルに監禁して、尋問してるそうだ」


「その位置も送っていただけますか?」


「ああ。だが、いいか。この仕事ビズはお前がやるんだ。俺たちはお前に依頼するだけ。これ以上は一切手伝わない。実力って奴を証明するには、それが必要だろ?」


 ファティマが送られてきた兵士たちの情報を見て求めるのにバーロウ大佐が試すような視線をファティマに向け、口角を意地悪く歪める。


「分かりました。武器も現地調達ですか?」


「そうなる。ただで武器は貸してやれないし、お前は無一文だ」


「了解です」


 ファティマにあるのはリクルートスーツとティッシュ、ハンカチ、のど飴がひとつだけ。他の持ち物は全てMAGに押収されてしまっている。


「まあ、ある程度の場所まで送ってはやろう。そして、目標パッケージの兵士たちを奪還したら、その送迎をやる連中に引き渡せ。それで仕事ビズは完了だ。俺はお前に報酬を払い、お前は俺の信頼を得る」


 バーロウ大佐はこともなげにそう語ってみせた。


「報酬額はいくらですか?」


「6500クレジットってところだな。ちょっとしたお使いだ。そこまで払うつもりはないし、この仕事ビズはお前が受けたいと言うから回してやるんだしな。少なくとも6000クレジットあれば暫くは寝床と飯が確保できる」


「分かりました。最初の仕事ビズということですし、それで構いません。いつから始めればいいでしょうか?」


「今から足を準備する。準備ができたらすぐに行け。兵士たちが情報を喋ったら意味がないし、兵士たちをゲヘナ軍政府の基地に移送されてもゲームオーバーだ。その場合、報酬は払わないし、評価もしない」


「妥当ですね」


 ファティマがバーロウ大佐の言葉に頷く。


「じゃあ、待ってろ。今、部下に連絡した。足を準備させる」


 バーロウ大佐がZEUSから部下に連絡し、バーロウ大佐の部下であるフォー・ホースメンに所属する兵士がタイパン四輪駆動車をイーグル基地の正面に回してきた。


「オーケー。足が準備できた。行ってこい、新卒さん」


「はい」


 バーロウ大佐はタクティカルベストのポーチから葉巻とライターを取り出して火を付け、ファティマとサマエルが出ていくのを見送る。


「お姉さん……。お姉さん……! 待って……! 追いつけないよ……!」


 ファティマが時間を無駄にするまいと歩幅を大きくして歩くのにサマエルがよたよたと後ろから必死に追いすがってきた。


「あ! すいません! でも、サマエルちゃん。私と一緒に来るのですか? これから行くのは戦場ですよ。危険です。ここに残った方がいいです。ジェーンさんと一緒にいたらどうでしょうか?」


「そんな。ボクのこと、嫌いになったの……? だから、一緒にいたくないの……?」


 ファティマが慌てて戻ってサマエルに言うのにサマエルが今にも泣きそうな表情を浮かべて縋るような視線をファティマに向けた。


「いえいえ! 違います、違います! むしろ、好きだから安全な場所にいてほしいというわけでして。でも、それも嫌ですか?」


「お姉さんと一緒にいたいよ。ずっと、ずっと。お姉さん、お願い……」


「分かりました。私が守ります! 安心していいですよ。一緒に行きましょう」


「お姉さん……!」


 ファティマがサマエルの手を握り、サマエルがコクコクと頷く。


「では、出発です」


 今度はファティマはサマエルの手を握り、サマエルの速度で歩く。


 そして、イーグル基地の基地施設の外に出るとタイパン四輪駆動車が待っていた。無人銃座RWSには口径7.62ミリのガトリングガンがマウントされている。


「あんたが仕事ビズをやるっていう志願兵か?」


 タイパン四輪駆動車の傍にいるフォー・ホースメンの装備を纏った褐色肌の中年男性の兵士がファティマにそう尋ねてくる。


「ええ。その通りです。送ってくださるのですね?」


「ああ。俺はムフタール軍曹。あんたのことは大佐からそう頼まれてる。乗れよ。俺は行けるとこまで連れて行ってやる」


「感謝します」


 フォー・ホースメンの兵士は中年の兵士の他に若い女性の兵士がいて、その女性はファティマに視線を向けてニッと笑うとタイパン四輪駆動車の助手席に乗り込んだ。中年の兵士は運転席。


 ファティマとサマエルは後部座席に乗る。


 タイパン四輪駆動車の中には後付けしただろうモニターが設置されていた。モニターにはゲヘナで作られた娯楽番組が流れていた。コメディアンがゲヘナ軍政府のお粗末さや民間軍事会社MAGの無法者とジョークにしている。


「出すぞ。パナゴス上等兵、無人銃座RWSと周辺監視をやれ」


「了解」


 年配の兵士がそう言い、女性の兵士がタイパン四輪駆動車の外部カメラの映像と無人銃座RWSのセンサーが捕らえAIが分析した状況を監視し始める。


 タイパン四輪駆動車はイーグル基地のゲートを出て、フォー・ホースメン支配下の市街地を走行。ファティマがZEUSで現在地と目的地までの位置関係を把握し続け、作戦地域への到着を待つ。


「教えておいてやろう。これから向かう場所は俺たちフォー・ホースメンの縄張りでもないし、ゲヘナ軍政府が制圧している場所でもない。で、それがどういうことを意味するか分かるか?」


「ふたつの勢力がまさに戦闘を繰り広げている場所」


「そうだ。両軍の部隊が時々支配しようと侵攻しては上手くいかずに撤退していく。おかげで荒れ果てて、住民はいない。そんな場所だからスパイがお互いの縄張りに侵入するための定番の経路ルートにもなってる」


 明確な支配者のいない係争地域というものは治安の悪化と不安定さからスパイが利用する場所になっている。


 事実、MAGはフォー・ホースメンに対する拉致を実施した後にここに隠れた。


「そろそろだな。お嬢さん、到着だぜ。仕事ビズを頑張れよ」


 タイパン四輪駆動車は崩壊したビルと陥没だらけの道路、そして放棄されて錆びついた装甲兵員輸送車APCや軍用車両の残骸。


 その手前でファティマたちを乗せたタイパン四輪駆動車は停車した。


「じゃあ、健闘を祈る、新卒さん。死ぬなよ」


……………………

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