初めての仕事//フォー・ホースメン
……………………
──初めての仕事//フォー・ホースメン
「これ以上はいけないよ、お客さん。降りてくれ」
「ああ。ご苦労だった」
タクシーの運転手が振り返ってそう言い、ジェーンがタクシーを降りた。ジェーンに続いてファティマとサマエルもタクシーを降りる。
「ついてこい」
ジェーンがそう言って通りを進む。
その先には旧式の
そして、その兵士たちが守る
TYPE300装甲兵員輸送車には兵士と同じくデジタル迷彩に塗装されていた。
「通れるんですか?」
「言っただろう。私には伝手があるってな」
兵士たちが待ち構える
「ジェーン・スミスか。何の用だ?」
「お前さんとこのボスに話がある。人材の売込みだ」
「分かった。連絡しておく。行っていいぞ」
ジェーンが説明すると男は他の兵士たちに手を振って道を開けさせ、ジェーンとファティマ、サマエルたちに
「彼らは?」
「フォー・ホースメン。民兵だ。ゲヘナ軍政府は認めていないが」
ファティマが訓練された様子の兵士たちを見て疑問に思うとジェーンは短くそう返し、
その先は市街地だがファティマたちが先ほどいた場所とは違い、建物は古かったりするものの賑やかさがあった。人々には活気があり、和やかに談笑する声や子供の笑い声などが聞こえてくる。
繁華街のような通りに入り、暫く歩くと先ほどの
「よう、ジェーン・スミス。大佐殿に御用だってな。送ってやろうか?」
「ああ。頼もうか」
「乗れよ」
若い兵士はエデン陸軍と同じタイパン四輪駆動車のドアを叩いて乗車を促す。
ジェーンが乗ったのを見てファティマとサマエルも乗り込む。
車内には激しいテンポとシャウトのデスメタルが大音量で流れており、時折何かしらの通知が無線のスピーカーから入っていた。酷く騒々しい。
「う……」
「大丈夫ですか?」
サマエルが少し落ち着かなそうに身を縮めるのにファティマが心配そうにサマエルの顔を覗き込んで、サマエルが膝に乗せた小さな手に自分の手を重ねる。
「フィリップ、車を出せ!」
「了解、フェルドマン伍長殿」
そしてタイパン四輪駆動車が走り出した。
走り心地はさっき乗ったタクシーより遥かにいい。それなりの速度でタイパン四輪駆動車は通りを走り抜けて行く。そして、いくつかの
「なあ、お嬢ちゃん。あんた、夜空いてないか? 飲みに行こうぜ。奢るぞ」
「いえ。遠慮しておきます」
「そうかい」
すげなく振られた兵士は肩をすくめると前を向いた。
やがて、タイパン四輪駆動車は何人もの兵士とTYPE300装甲兵員輸送車、軍用犬、リモートタレットに守られた
「フェルドマン。パトロールはどうした?」
「大佐殿にお客さんだよ。連絡にあっただろう?」
「ああ。ジェーン・スミスか。通れ」
「到着だ。ようこそ、イーグル基地へ」
イーグル基地と紹介された施設はファティマが最初に見たゲヘナ軍政府の基地より遥かに高度で、厳重な防衛体制が整えられた場所だった。
自走対空砲や
各種武装が装着され、装甲が備えられた空飛ぶ
「じゃ、俺たちはパトロールに戻るからな。またな、ジェーン・スミス」
「ありがとな」
若い兵士がそう言って振り返り、ファティマたちに手を振り、ジェーン、ファティマ、サマエルは降車してイーグル基地に降り立った。
「フォー・ホースメンは民兵と聞きましたが、正規軍並みの装備ですね」
「ああ。フォー・ホースメンに所属できるのは優秀な人材だけで、能無しは受け入れない。そのおかげでゲヘナではゲヘナ軍政府以上の影響力がある」
ファティマが周辺を見て推測するのにジェーンはそう言い、イーグル基地にある巨大な鉄筋コンクリートの建物に向かった。
その建物は10から15階建てで無機質で飾り気のない、まさに要塞と呼ぶに相応しい建物であり、屋上にはレーダー連動の
そして、その入り口にはやはり警備の兵士だ。
「何の用だ?」
「バーロウ大佐に会いにきた。連絡は来てるだろ」
「ああ。あの件か。大佐殿はお待ちだ。行け。すぐにな」
警備の兵士に通され、ジェーン、ファティマ、サマエルが使節に入る。
施設の中は犯罪組織とは思えないほど清潔で、片付けられている。将校だろう戦闘服姿に少尉以上の階級章を付けた兵士たちが慌ただしく移動しているか、同僚と話している様子が見られた。
「これから会うのは大物だ。ゲヘナにおいて五本の指に入るくらいのな。機嫌を取ることに努力しろ。決して口答えして相手の心象を害するようなことはするな。いいな?」
「はい。分かりました」
ジェーンが警告し、ファティマが頷く。
施設内を進むと武装した兵士に守られた扉の前に付いた。警備の兵士は鋭い視線ですぐにジェーン、ファティマ、サマエルを観察し、同時に生体認証する。
「大佐殿はお待ちだ。行け。待たせるな」
警備の兵士はそう言って扉を開けて、ファティマたちを通した。
その扉を潜った先には──。
「ジェーン・スミス。人材の売込みらしいな」
扉の先の部屋には普通のビジネスオフィスのように木製の高価なオフィスデスクが置かれ、そこにノートパソコンが置かれている。そのオフィスの壁にはゲヘナの地図が貼られていた。
そして、そこにいたのは身長2メートルはある鍛えられた肉体をした大柄の男性。年齢は30代後半ごろで、脱色した人工的な灰色の髪をヘアオイルとワックスを使ってオールバックにしている。
旧式もいいところの087式強化外骨格の装甲を外して装備し、都市型迷彩の戦闘服とタクティカルベストを纏って、腰のホルスターにはあまり実用性のなさそうな50口径のレボルバーを下げていた。
また戦闘服の袖口を捲り上げていることで見える腕には、人間の頭蓋骨とそれを貫く一本の刀の入れ墨が彫られている。
「そうだ、バーロウ大佐。こっちはファティマ・アルハザード、ファティマ、こっちはメイソン・バーロウ大佐だ。フォー・ホースメンの最高司令官」
ジェーンがバーロウ大佐という軍人を紹介した。
このバーロウ大佐がフォー・ホースメンの最高指導者だ。
「相変わらずの大物気取りか、ジェーン。地位に見合わない尊大で気取った態度は滑稽なだけだぞ」
「ふん」
バーロウ大佐のからかいをジェーンは無視する。
「さて、ジェーン。人材の売込みって話だったよな? まさかそこのガキがそうだとは言わないよな?」
「いいや。売り込みにきたのはこいつだ」
バーロウ大佐が嘲りの視線をファティマに向けるのにジェーンがそう返す。
「おいおい。冗談だろ。こんな都会に面接に来たお上りさん丸出しのガキを売りにきたってのか? とうとうお前も衰えたものだな。全く、同情するぜ。とうとうおかしくなっちまったか」
バーロウ大佐の言葉にファティマはむっと不快な思いを抱くも、バーロウ大佐の機嫌を損ねないように言い返すことは控えた。
「バーロウ大佐。私はエデンのおけるもっとも優秀な人材を売りにきた。こいつは本当に優秀だ。お前がこの人材を得ることを拒否すれば、一生後悔することになる。後悔はしたくないだろう、大佐殿?」
ジェーンの言葉にバーロウ大佐が真剣な表情を浮かべて、ファティマたちを見る。
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