第8話 日常
その後の授業では、外で花びらを集めたり、室内で祭りで使う花飾りを作ったりした。
途中、軽食をさっととる。
それからアイシャたちは再び、学校の近くの花をたくさん摘んで籠に集めた。この花びらは、あとで先生が祭りの広場に運んでくれるのだという。
「以上で、授業は終わります」
こうして、今日の学校は終わった。
午前中のみ……の予定のはずが、やはり長引いて午後一時になってしまった。
次の学校は一週間後だ。
学校は、一週間に一度しか開かれない。
というのも、学校は村であまり重要視されていない。
元々なくても良いと考えられていたくらいだ。
ただ、人間たちの意見を聞いて、各家庭で同様のことを教えていることもあり、学校で同時に教わった方が効率が良いかもしれないということになったのだ。
「このあと、どうするんだ?」
キールが聞いて、アイシャは満面の笑みを浮かべた。
「そんなの、決まってるよ! 今日は郵便屋さんが来る日なんだよ!」
「げぇ……っ」
「いいですねぇ。行きましょう~!」
アイシャたちは、学校を出て川へと向かった。
3人は、吊り橋を渡り繋いで川へと向かった。
村の東の端にある学校から、村の西の端にある川までは真逆で遠かったが、しかしアイシャの足取りは軽快だ。スキップをするように――踊るようにくるくると回りながら、ステップを踏んだ。
「うふふっ、楽しみ~っ♪」
「なあ~っ。別に時間に合わせて行かなくてもいいんじゃねぇか? どうせ郵便受けに入れられるだけだろ~?」
キールは、頭の後ろで手を組みながら歩いていた。気が進まないようだ。
アイシャは、「ダメダメ!」と言って、手で
それから笑顔でくるりと回った。
「今日こそ返事がくるかもしれないんだもん!」
「ぐぬぬ……」
“運命の恋活動”――……。アイシャが取り組んでいる、手紙を街へ送り、拾った男の子と恋に落ちようという作戦だ。
手紙には村の住所が書いてあり、もし誰かが返事をくれたなら……。
アイシャの顔はにこにこ笑顔だ。
対してキールは、なんだかげんなりしているように見えた。
「あれ、用事とかあった? ごめんごめん。じゃあ着いてこなくてもいいよ!」
「いや、行くけど……」
「あ! わかった! 私宛の手紙があったら隠蔽する気でしょ!?」
「そうか!! その手が!!」
「やめてよね!?」
アイシャは、キールがアイシャの両親に言われて運命の恋活動を妨害していると思っている。
……のだが、微妙に会話は噛み合っている。
そんな会話を二人がしていると、
「ま、待ってぇ~……!」
マリィが、のろのろと小走りで追いついた。
「ふぅ。置いて行かれるところでしたぁ~」
「……別に俺たち、走ってもねーけど」
「スキップが早過ぎちゃった?」
アイシャは、首をかしげた。そんなに早足だったつもりはなかったのだ。
スキップも時々Uターンを挟むので、歩いているキールと同じ速度だった。
マリィは、「ふぅ」と一息つくと、言った。
「いえ、ちょっとマーケットを見ててぇ~」
「あぁ、つい見ちゃうよね~!」
アイシャは、マリィの指さした後方へ戻ると、橋の上から地上を覗いた。
村の中心部には、マーケットがある。
基本的に自分たちの食料などは、森で手に入るか、物々交換で手に入れるかのどっちかだ。生活に必要な大体の品は、これでことが足りた。
ではなにがマーケットにあるのかというと、最初に売られ始めたのは『街のもの』である。
街の人間はいない。売っているのは村人だ。通行手形を持っている村人が、街へ出かけて入手したものがよく売られている。
街のものは『知らないもの』なので、それを求めて物々交換しにくる人はいない。よって、マーケットという場で、展示することにしたのだ。
とはいえ今では、普通に村のもの――野菜などだ――も売られたりもする。
「こないだですね~。マリィ、珍しいひらひらの布を見せてもらったんですぅ~。レースって言うんですってぇ~! とっても可愛かったんですぅ~!」
「ふぅん、交換条件はなんだったの?」
「……なんと、物々交換じゃなかったんですぅ!」
「……ほう」
「……オカネ、1万ギリアだそうですぅ~!」
「お、お
「あははっ! そりゃあ無理だ!」
お金――。
新しい価値だ。アイシャたちにはまだ少し、馴染みがない。
「うぇ~ん」
「おまえらで編んでみたら? その辺の草とかで」
「馬鹿にしてますぅ~?」
「あははっ!」
こんなことはいつもの光景だった。
アイシャは、空を見上げた。
晴天はどこまでも青く、高く、清々しい気分だった。
あれって雲かな――と思った刹那、それはヒュッと上空を移動した。
「あっ! 見て見て! ホワイトドラゴンだよ! なんか……集まってる!」
アイシャは空を指さした。
空の青とよく映える、白い体躯をしたそのドラゴンは、翼を動かすと優雅に飛んだ。
「ほわ~。今日はたくさん飛んでますねぇ~。1、2、3、4、……」
「何頭もいるから、鳥かと思ったらホワイトドラゴン、っていうな」
「いや、鳥は大きさ全然違うでしょ……」
アイシャは、自分が雲と見間違えたことは棚に上げて、突っ込んだ。
のどかな、日常だ。
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