第6話 学校と植物魔法


 アイシャたちは、校舎の中へと入った。

 学校の校舎といっても、教室が一部屋しかない。

 教室の中には、10人ほどの子どもたちがいた。


 アイシャはきょろきょろと教室内を見回して言った。


「本当だ。先生まだきてないね」

「はいですぅ。マリィは一応教室を覗いてから、待ち合わせ場所に戻ったんですぅ~」

「……今日は休む子が多いかなって思ったけど、結構みんな来てるね」


教室内にいる子どもたちは、おおむねいつも通りの人数だった。

 

「そうですねぇ。花祭りの準備で、家の手伝いとかある子は来ないかもですけどぉ~。でもまぁ、ちっちゃい子が多いから……家にいるよりは学校に来た方がいいって感じですかねぇ」

「なるほどね~……」


 学校には、およそ7歳から18歳までが通っていた。そのうちほとんどは10歳以下であった。

 ちなみに、マリィには弟妹が複数人いるが、まだ未就学児なので通学はしていない。

  

「あ!」


 マリィが外のはしを指さした。

 見ると、一人の大人が降りてきていた。

 

「先生が来ましたよぉ~!」

「本当だ。早く座らないと」

「一週間ぶりの学校ですねぇ。楽しみですねぇ」

「そうだね。一週間に一回しかないもんね!」


 学校は、週に一度しかないのだ。


ちなみにこの間、キールは黙ったまま過ごしていた。



 


先生は、村に住むドリアードの女性だ。はいみどりいろの髪はショートカットで、眼鏡をかけている。

 朝の挨拶やなんやかんやがあって、それから先生は、みんなに植物の小さな種を渡した。


「はーい。ではみなさん、外に並んでください。今日は、この種を発芽させ、花を咲かせてみてくださいね。そこまでできたら合格です」


 最初の授業は魔法の練習だった。


 授業が始まる前――が、キールが無言になってしまっただけで、アイシャとマリィは元気よく外へと飛び出した。


 学校の建物の前には広場があり、そこが校庭の代わりだった。

 

 魔法の授業なので、人間であるキールは見学だ。アイシャらとは離れた木陰に、一人でいる。


 アイシャは、配られた種を見る。

 手のひらに乗せたそれは、ちようらんけいで平べったく、ひまわりの種……をさらに小さくしたような種だった。


(発芽して花までか~)


 アイシャはマリィに言った。

 

「今日は簡単だね!」

「えぇ~? 発芽させるのが難しいんですよぅ~?」

「そうかなぁ」

 

(簡単じゃない?)


 アイシャは、適当な場所に種を埋めた。

 それから、そこへ両手をかざすと、手のひらからは光が生まれ、それはじんわりと広がった。


(――これ、精霊の力は借りなくてもいいくらいだね)


 アイシャは、呪文も唱えずに、ただ魔力を込める。

 数秒もしないうちに――、

 

ポン!


と、すぐに種は発芽した。


(ふふーん! 私、魔法はまあまあ得意なんだよねー!)


 そのまま力を送り続けると、植物はあっという間に2メートルほどの高さになり、白い大きな花を咲かせた。


 アイシャは、自分よりも背が高くなった花を見上げ、満足そうににっこりした。

 

(こんなもんかな! ふふっ。……あっという間に終わっちゃった!)

 

 ドリアードは、植物魔法が得意だ。むしろ、それしか使えない人も多い。木を育て、野菜の成長を早め、木の実を多く付けるようにしたり――そういったことが、彼らには可能だった。

 つまりは、植物の発芽や花を咲かせるなど、ドリアードの使う魔法の中ではもっとも簡単な部類だった。

 ――が。

 みんなは――大人も含め――こんなスピードではできない。

 アイシャがまわりを見ると、マリィを含めてまだ誰も発芽すらできていなかった。

 

アイシャが隣を見ると、マリィがうんうんうなりながら種に魔力を送っていた。

 手から光はでているが……種は反応していないようだ。

 

(マリィは……まだ出来てないみたい。他のもっと年下の子ができないのはともかく、マリィは私の一つ年下だし……)


 アイシャはそう考えているが、マリィは標準である。


(手伝ってあげたいけどっ! これも練習だからっ! そのための学校だからっ!)

 

 アイシャは、去年の自分を振り返る。

 

(……って、私も去年はあんまり魔法使えてなかったかも……)

 

 アイシャは、運命の恋活動で魔法を使う――矢文を飛ばす・ボトルメールの瓶作りなどだ――ようになって、魔法が上達したのである。

 

(ということは……)


「ねぇマリィ!!」」

「なんですぅ~?」


 アイシャは、どや顔で言った。

「マリィも、運命の恋活動をすれば魔法が上手くなるよ!」

「………………」

 少しの沈黙の後、

「…………結構ですぅ~」

 断られた。

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