第40話 早朝と
「起きろーーー! アイシャーーー!」
アイシャは、キールの大きな声で目が覚めた。
「ふわぁ……。なんなのぉ……」
「大丈夫かアイシャ! 無事なのかっ?!」
(えぇ? キール? ……そういえば、なんか朝5時に来るとか言ってたっけ……。)
アイシャは、むにゃむにゃと起き上がって時計を見る。
「よ、4時じゃん!」
朝4時だった。思わず、アイシャの目も覚める。
「朝かどうかも怪しいじゃん! もうちょっと寝ようよー!」
「眠れるわけねぇだろ!」
「なんで?」
「そっそれは……! ……そんなことより! あいつは部屋に居んのかよ!?」
キールは、アイシャの部屋を覗いた。
しかし部屋には、アイシャしかいない。
「……あれ、いねぇのか」
――もし誰かいたらいたで、倒れてしまいそうなキールである。確認に来るのは諸刃の剣なのである。
アイシャは、誰のことを言っているのかピンときた。
「……もしかして、トリスのこと……?」
「……えっと……まあ」
「いるわけないじゃん! 部屋をつくってあるのに!」
「いや、万が一ってもんが」
「ななななっ!? あるわけないでしょーっ!!」
「あったら困るんだよ!!」
「意味わかんないっ!! ないって言ってるじゃん!! キールのばかっ! あほっ! おたんちんー!」
アイシャは顔を赤くして、しっしっとキールを追い払った。
キールは窓辺の下に頭を下げてかわす。
昨日あれから、アイシャたちは家の外に生えているシャボン草を摘んで家に帰った。
――その後は、家族みんながいる場なので……特になにもなく……。
トリスはむしろジオと会話していた。
トリスは、夕食が草のサラダじゃないことに感動していた。
……。
「ぐぬぬぬ……! お兄ちゃんめぇ……! なんたるダークホースっ!」
「そーかそーか! うんうん! まぁまぁ! またチャンスはあるって!」
キールに笑顔が戻った。
――アイシャの表情とは対照的だ。
「うぅ……っ。私は明日に備えるんだからっ」
アイシャは、再度布団を被った。
布団から手だけを出し、しっしっとキールを手で追い払う。
「キールも帰って寝てっ」
「おう! 寝てくるわ! じゃーな!」
キールは笑顔で身を翻す。
さっさと窓辺から蔓を使って、ぴゅーんと戻っていった。
(さっきは「寝れるわけないー」とか言ってたのに、なんなの??)
「……ふわぁ……」
(ねむ…………)
眠くて、これ以上ピンとくることは出来ない、アイシャなのであった。
***
キールは、自室に帰ると、長い息をはいた。
「…………なにもないみたいで、よかったぜ……」
アイシャの“運命の恋活動”も、ずっと反対している。
しかし、そんなことをしても、本当はどうにもならないと知っている。
反対したところで、自分のための気休めにしかならない。
運命の恋活動を応援できないなら、反対するしかない。
反対するということが――自分の気持ちに嘘をつかない、唯一の方法だった。
トリスのことも、若い男で・外の世界から来ていて・仕事も良さそうで・辺鄙な街ではなく王都に住んでいるようだし――と、アイシャの憧れる要素ばかりなように思う。
今は『記憶喪失を心配する気持ち』が勝っているようだが、――もしトリスが記憶が普通にあったらと思うと、キールはぞっとした。
(花祭りの司祭様は、どうせ今年もおっさんだと思ってたから、油断したぜ……)
いつの間にか若い男がきていて、いつの間にかアイシャと知り合いになっていて、いつの間にかアイシャも巫女役になっていて、いつの間にかいっしょに行動するようになってしまった。
(……いや、いつの間にかじゃ、ない。あいつが望んで、トリスに近づいている……)
いつも元気いっぱいのアイシャが、たまにうろたえたり、ぽーっとしているのが分かる。
「……くそっ」
(俺には、できないことだ)
トリスは話してみると案外悪い奴じゃないと思うが――今はそういった意味で警戒している。
キールは、アイシャの言葉を思い出していた。
――「二人が仲良くなれそうで良かった! トリス。私、記憶の無いあなたが少しでもこの村で楽しく過ごせるようにって思ってるんだ。キールは怒りんぼだけどツッコミが冴え渡るいいやつなんだよ。仲良くしてね。キールも。……この村には、同年代の男の子がいないんから、ちゃんと仲良くしてあげてね」
「……はぁーあ。しかたねぇなぁー。今日も……トリスのやつも誘うかぁー」
キールは布団に入り、もう一度眠りについた。
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