第35話 祭りの広場を調べよう


「もう夕方だぜー? 帰ろうぜ」

「精霊の木の周りは、青年団とかが調べてるんでしょ? だから、私たちは祭りの広場に行こうと思って!」

「どうしてだい?」

 

 アイシャとキールとトリスは、祭りの広場へと向かっていた。


「祭りの日は人が多いでしょ? だから、なんか……外部の人がまぎれててもわかんなかったかもしれないじゃん!」

 

 アイシャが言うと、キールが頷いた。


「一理ある」

「でしょ!」

「で?」

「……へっ?」

「当日はそうだったかもしれねーけど、もう翌日だし。誰もいねーだろ」

「…………」


 トリスが助け船を出す。


「えぇと、……ほかに行く当てもないんだよね? じゃあ、とりあえず行ってみても良いんじゃないかな……」

「ほらねっ! ほらねっ!」

「……わかったよ」



 ***



 そして三人は広場に着いたのだが――


「……誰もいないねー」


 案の定、誰もいないのであった。

 

 広場の地面は、昨日の祭りで撒かれた花びらがたくさん残っていた。

 中央の祭壇の飾りつけだけ、綺麗に片付けられている。

 他は樹木の飾り付けもそのままだ。

 

「あ! あのね! このリボンは日にちが経つと自然に還るから、そのままでも問題ないんだよ!」

「また植物を魔法で練ったやつか」

「そう!」

 

 アイシャは、樹木の飾り付けを指さして言った。

 トリスがやってきて、リボンを見た。

 

「へぇ、普通に見えるね。ドリアードの魔法ってすごいんだね」

「いいでしょー! 片付けなくていいし、楽ちん!」


 トリスは、「あ」と思いついたような声を上げた。

 

「じゃあ、魔法でここに鹿とかタヌキとかを呼ぶ事ってできる? 鳥でもいいんだけど」


アイシャは、意外な要望に目をぱちぱちさせた。

 

(……どういうこと?)

 

「鹿とかタヌキ? 野生動物ってこと?」

「うん」

「えっと、そういう生き物を操るみたいな魔法は、ちょっとできないんだ」

「そっかぁ……。動物カーニバルは無理なんだね」


 トリスは肩を落とした。

 アイシャはトリスの肩を叩き、


「まぁ、カーニバルはね。難しいね」

「隊列くらいも無理?」

「全然無理」

「そっかぁ……」

「いや、動物カーニバルってなんなんだよっ!?」

 キールだけが突っ込んでいた。


(……ん? あ、そっか!)


 アイシャは、トリスが犬のブローチを手に取っていたことを思い出した。


「トリスって、動物が好きなの?」

「……多分。そう、かな」

「思い出せたってことか?」

「いや、記憶があるとかじゃなくって……。なんか、『もっと動物見たいな』って思う時がたびたびあって……」

「それって、好きってことだね! わー! 少しトリスのへんりんが見つかったんじゃない?」

「片鱗って表現でいいのか……?」 

 

 その時、一羽の小鳥がやってきて、――トリスの肩に止まった。


「ピピピピピ……」

「あ……」


 小鳥は、首を小刻みに動かしながら、足はしっかりと肩につかまっている。


 トリスは、目を輝かせてそれを見た。

 

 アイシャも、その光景を見て嬉しくなった。

「ふふっ。よかったね」

「うん。かわいい。でも、魔法ってなんでも出来るわけじゃないんだね」

「生き物はね……」


 アイシャは、広場を囲む森を見ながら言った。


「生き物たちは、魔法で呼ばなくても、私たちといっしょに森で生きてる。……それだけでも、素敵なことじゃないかな? 植物と、生き物と、いっしょにこの森で生きてるの」

 

「……そうだね……。同じ空間に、それぞれが自由に生きてるんだ……」


 トリスの肩から、小鳥が飛び立った。トリスは、腕を伸ばして小鳥を見送った。


 一方キールは、

(魔法で捕まえられないということは、やっぱ伝書鳩は全部素手で捕まえてたのか……)

 と、考えていた。


 

  ***


 

 三人はその後も、祭りの広場で、あーでもないこーでもないと言いながら、なにかないかと漠然と見て回ってみたが、特に成果は得られなかった。

 

休憩にかこつけて、三人は切り株に腰掛けて、だいぶ長い間ぽや~っと空を見上げた。


「広場を見ても、なんにもわかんない……。あぁ、私の通行手形が……」

「いやまだ一日目だろ。ていうか、俺たちこういうのやったことないしさぁ」

「お腹すいた……。草のサラダ以外が食べたい……」

「……!」


 そこで、アイシャは閃いた。

 ガバッと起き上がると、――ドキドキしながら口にした。

 

「晩ご飯、食べに来る? ……うちに」

「――え?」

 トリスが体を起こし、アイシャを見た。


「なっ! だめだ!」

 キールが騒いでいるが、アイシャは気にしない。


(……友達を家に誘うだけで、こんなにドキドキするのって初めて……! やっぱり、顔が……っ顔がイイからこんなにドキドキするんだ……っ!)


 『記憶喪失で大変そうだからトリスは好きにならない』と決めたアイシャの決心は、胸の奥では常にぐらぐらしていた。

 

 トリスと関わりたい気持ちでいっぱいなのだ。

 

アイシャは言った。

「どう……かな?」


「えっと――、」

 トリスが口を開けた。

 その時、頭上にぬっと影が現れ――、

 

「なるほど。司祭様、うちへくるか?」

「おっお父さん!? なんでここに?!」


 アイシャの父が現れたので、アイシャはびっくりして切り株から落ちる。


(こんな時に! って――え? 「うちへくるか?」って言った?)


 まさかの、親からの後押しだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る